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ぷには、天使だよ」
「……へぇ」
「反応薄くない?」

僕は恐れていた。怯えていた。
天使という存在を。天使という存在に。
古来より天使と悪魔は対立していたし、僕は天使に会うのが初めてだったし。
怖かった。
それを隠して自然なふりをしていた。

「僕仏教だから、天使は関係ないんだ」
「仏教にも天使っているらしいけど」

いないから。
僕の仏教に天使なんていないから。

「君の、名前を教えてくれる?」
「いいよ。僕は、」

僕は?
僕には、名前がない。
天使が混ざった僕は嫌われ避けられた。
誰も僕を助けてくれなかった。

「僕は、名前がない」
「なんで?」
「……色々あって」
「それ、いつか話してくれたら嬉しい」
「あんまり君のこと、知らないから」
「これから知っていこ?」

雪くんは天使のように、事実天使なんだけど、本当に天使のように笑う。
それを僕は綺麗だと思うし、雪くんの心も天使天使しているのだと思う。

「じゃあ、……黒、くん」
「くろ?」
「君の名前。黒い服着てるから」

くろ。
安直な上に犬みたいな名前だな。

「嫌なら、堕悪夜ダークナイトとか。ナイトには騎士の意味も込めてるんだよ」
「……黒がいい」
「よろしくね、黒くん」
「よろしく」

雪くんが頭を下げたので、黒くんも頭を下げる。

「黒くんは、人間だよね?」
「うん」

こわ。
なにこの子。

「驚かないの?」
「天使、ってこと?」
「そう。普通は畏れたり十字切ったりされるんだけど」

畏れてるから普段通りに振舞っているんだよ。

「心鍛えてるから」

もう泣きそう。

「見たのは初めて?」
「うん」
「天使の存在とか信じてた?」
「信じてるから見えてるんじゃない?」
「そっか」

あーこわ。
雪くんは唐突に変なことを言うからね。

「悪魔もいるんだってね」

雪くんは唐突に変なことを言うからね。
え。
悪魔?
ここは慣れないボケで誤魔化す方向で。

「みんなの心の中に、かな……」
「病んでるなぁ」

雪くんが笑う。
病んでるって言うか悪魔なんだよね。
笑顔が一つ増えたからよかった。
よかった?
悪魔の仕事は絶望を増やすことなのに、よかった?
僕の心の中の天使は、まだ死んでいないらしい。
早く悪魔にならなければ。
早く天使を殺さなければ。
死ね、僕。
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