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回復魔法のマオは無力

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マオはうっすらと目を開ける。
見慣れぬ天井。いや、見たことあるかも。
マオは上半身を起こす。ふっかふかなベッド。
ふっかふかなベッド?!
なにこれ夢かな。

「起きたか」
「勇者様! なんでいるんですか?」

深まる夢疑惑。

「いては悪いのか? 此処は私の部屋なのだが」

見たことあると思ったら勇者様の部屋、だったのか。

「なんで此処で寝てたんですか?」
「私が運んだ。昨日、君が倒れたからな」

意外に重いんだな、と勇者様が言う。五月蝿い、と思う。

「ありがとう、ございます」
「助けてやったのだから礼を言うのが当たり前だろう」

勇者様ってこんなにうざかったっけ。
もう少し、その。勇者、らしく。

「冗談だ」

冗談がきついです。

「本当はな、私も感謝しているのだ」
「何に、ですか?」
「マオ、君にだ」

は?

「あの時回復されなかったら、私は死んでいた」

死んでいましたね。

「礼を言う。ありがとう」
「…どういたしまして」

勇者様の顔が、少し赤らんでいた。

「そ、そうだ。腹、減っているだろう」

勇者様はそそくさと去っていく。
何処行くんですかー?
しばらくして勇者様が持って来たのは、銀色の鍋。
マオはベッドから降りる。

「少し失敗してしまったのだが、いいか?」
「勇者様って料理できたんですか?」

意外。

「私は勇者だからな」

鍋の蓋を開ける。湯気がもわっと上がる。

「何、作ったんですか?」

恐る恐る訊く。
ちょっと、いや結構こわい。

「雑炊だ」

即答する勇者様。
いえ、その。

「なんで、赤いんですか?」
「いちごジャム雑炊だ」

なにそれ。勇者様落ち着いてください。
失敗ってレベルじゃない気がする。

「食わず嫌いは駄目だぞ」

そういう問題じゃなくて……。

「…いただきます」

意を決して、いちごジャム雑炊を口に運ぶ。

「どうした? 顔色悪いぞ」

昨日の疲れか、と勇者様が心配してくるけど。違う。
なんとか飲み込んで、言う。

「勇者様、休んでてください! 雑炊くらい作ってきますから」
「好き嫌いはなかったんじゃないのか?」

好みが分かれるのだろうか、と首を傾げながら勇者様がいちごジャム雑炊を食べる。うぐっ、と死ぬモンスターみたいな声が聞こえる。



「はい、できましたよ」
「おお、雑炊っぽいな」

そこで褒めるのやめてください。
勇者様が一口食べる。

「ん、雑炊の味がする」

だからそこで褒めるのやめてください。
マオも座る。
勇者様がさり気なくふわふわのやつを貸してくれた。優しい。
身体を沈める。おおお。
雑炊を食べる。
まあまあ、かな。

「そういえば、勇者様」
「なんだ?」
「死にそうだったとき、本当は何を言おうとしてたんですか?」
「ああ、あれはな、」

視線を宙に浮かせる勇者様。

「此処で話を逸らして有耶無耶にしては駄目か?」

何言ってるんですか。

「本当はな、何も思っていなかったのだ」

マオを見て、言う。
え?

「冗談と言ったが、あれだけは冗談ではない。本当にマオが治してくれると、そう思っていた」
「買いかぶりすぎですよ」
「現にこうして私は助かっているではないか」

結果論は嫌いなんですよね。
ふー、と冷やして、雑炊のかけらを口に入れる。熱い。
勇者様がじっと見てくる。もはや睨みの領域。

「何、見てるんですか?」
「見ては駄目なのか?」
「いえ、その。なんでかな、って」
「君が可愛いからだ」
「可愛くないです!」
「ほら、可愛いじゃないか」
「むぅ……」

勇者様には何を言っても無駄な気がした。

「おい」

勇者様の顔がずい、と近付く。

「な、なんですか?」
「米粒、付けてるぞ」





『回復魔法のマオは無力』 ー完ー
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