16 / 17
回復魔法のマオは無力
⑦
しおりを挟む
「マオ、君はモンスターの飼育員でも目指しているのか?」
「す、すいません……。あ、勇者様後ろ!」
「わかっている」
勇者様は右手に持ったバケツを振り上げる。活性化したプランポルンの顔面に衝突し、めり込む。プランポルンが崩れ落ちる。
おお。
できれば
「できれば聖剣とか使って勇者らしく倒して欲しい、と思っているだろう」
「なんでわかるんですか? ちょっ、右!」
今なら名言を盗れたけど焦って言えなかった。次は言おう。
「見ればわかる」
言われた。
勇者様はバケツを回す。遠心力で速度が上げられたバケツに当たり、プランポルンが倒れる。
なんでバケツで倒せるんですかね……。
「聖剣って、普段使わないじゃないか」
バケツも普段使わないと思うんですけど。
「君は聖剣とバケツ、どちらの使用頻度が高い?」
「バケツ、です」
聖剣など使ったことがない。
「そうだろう」
そうですけど。質問の仕方がせこい気もする。
「使い慣れた物の方が使いやすい。これは宇宙の真理だ」
宇宙レベルまでいくと確証持てませんが。
「大事なのは手段ではなく結果だ。聖剣を使えずモンスターに食い殺されるのと、バケツを使ってモンスターを食い殺すのとの違いだ。違うか?」
モンスター食い殺すんですか。
「でも勇者って、カッコよさも必要だと思うんですよ」
「今の私はカッコよくないか?」
「カッコいいです!」
「それならいいではないか」
「でも、今以上に、」
「仕方ないな」
勇者様は聖剣を取り出す。
それ何処から出したんですか。
「あまり慣れてないから不安だが……」
勇者様が聖剣を担ぐ。
カッコいい。
「恨むなよ?」
勇者様が構える。何かぶつぶつ呪文を唱え、やがて聖剣は赤く光り始める。
勇者様が聖剣を振ると、その赤い光は聖剣の先から伸びる、マオに向かって。
「マオ!!」
マオに赤い光は当たらなかった。
それはつまり、勇者様が。
「ガハッ…!」
「勇者様!」
勇者様が、赤い液体を吐く。
これがマヨネーズじゃないってことは、血液ってことで。
「えと。冗談、ですよね……?」
恐る恐る訊いたマオは、もうわかっていたはずで。
でも、認めたくなくて。
だって極東支部のモンスターのときには、自分で。
「すまぬ、な……」
「もう喋らないでください!」
「やはり私には、聖剣は向いていないようだ……」
また血が落ちる。
「自分の攻撃は、自分で治せなくて、な……」
「えっとまず止血、その前に回復薬を、いやその前に、その前に!!」
「マオ」
勇者様が、マオの名前を呼ぶ。染み込むような声。
「落ち着け」
ひぐっ、とマオは顔を歪める。
「泣くな」
「泣いてないです!」
その声が震えているのが、自分でもわかっていた。
「私は死なない。何故ならマオが、治してくれるから、な……」
「勇者様!」
「冗談だ」
何処から冗談なんですか。
「本当は、な…………」
勇者様の息が少しずつ細くなっていって。そして。
プランポルンは足を止めずに向かってくる。
何か。
何か、しないと。
マオには何ができるんだろう。
回復、くらいしか思い浮かばない。
でも、弱いし。
でも、人に当たらないし。
でも、でも。でも。
何もしないよりは。
勇者様に2回も救われたこの命を、最期くらいは勇者様のために。
どうせ死ぬのなら、マオの魔力を全て使っても。
プランポルンはすぐ近く。マオは呪文を唱える。
右手が緑色に光り始め、力を込めると光が放出される。
神様、もしいるのなら。
この命などいくらでも差し上げますので、勇者様を。
光が、勇者様を包む。
プランポルンがその光を見て後退る。
勇者様の傷がゆっくりとふさがり、顔に生気が戻ってくる。
光が消える。
「……ん?」
「勇者様! もう全方向!」
勇者様はまるで緊張感のない顔で起き上がり、バケツを振る。
マオは自分の身体から力が抜けていくのを感じた。
視界が黒くなる。
プランポルンが倒れる音だけが、遠くで聞こえていた。
「す、すいません……。あ、勇者様後ろ!」
「わかっている」
勇者様は右手に持ったバケツを振り上げる。活性化したプランポルンの顔面に衝突し、めり込む。プランポルンが崩れ落ちる。
おお。
できれば
「できれば聖剣とか使って勇者らしく倒して欲しい、と思っているだろう」
「なんでわかるんですか? ちょっ、右!」
今なら名言を盗れたけど焦って言えなかった。次は言おう。
「見ればわかる」
言われた。
勇者様はバケツを回す。遠心力で速度が上げられたバケツに当たり、プランポルンが倒れる。
なんでバケツで倒せるんですかね……。
「聖剣って、普段使わないじゃないか」
バケツも普段使わないと思うんですけど。
「君は聖剣とバケツ、どちらの使用頻度が高い?」
「バケツ、です」
聖剣など使ったことがない。
「そうだろう」
そうですけど。質問の仕方がせこい気もする。
「使い慣れた物の方が使いやすい。これは宇宙の真理だ」
宇宙レベルまでいくと確証持てませんが。
「大事なのは手段ではなく結果だ。聖剣を使えずモンスターに食い殺されるのと、バケツを使ってモンスターを食い殺すのとの違いだ。違うか?」
モンスター食い殺すんですか。
「でも勇者って、カッコよさも必要だと思うんですよ」
「今の私はカッコよくないか?」
「カッコいいです!」
「それならいいではないか」
「でも、今以上に、」
「仕方ないな」
勇者様は聖剣を取り出す。
それ何処から出したんですか。
「あまり慣れてないから不安だが……」
勇者様が聖剣を担ぐ。
カッコいい。
「恨むなよ?」
勇者様が構える。何かぶつぶつ呪文を唱え、やがて聖剣は赤く光り始める。
勇者様が聖剣を振ると、その赤い光は聖剣の先から伸びる、マオに向かって。
「マオ!!」
マオに赤い光は当たらなかった。
それはつまり、勇者様が。
「ガハッ…!」
「勇者様!」
勇者様が、赤い液体を吐く。
これがマヨネーズじゃないってことは、血液ってことで。
「えと。冗談、ですよね……?」
恐る恐る訊いたマオは、もうわかっていたはずで。
でも、認めたくなくて。
だって極東支部のモンスターのときには、自分で。
「すまぬ、な……」
「もう喋らないでください!」
「やはり私には、聖剣は向いていないようだ……」
また血が落ちる。
「自分の攻撃は、自分で治せなくて、な……」
「えっとまず止血、その前に回復薬を、いやその前に、その前に!!」
「マオ」
勇者様が、マオの名前を呼ぶ。染み込むような声。
「落ち着け」
ひぐっ、とマオは顔を歪める。
「泣くな」
「泣いてないです!」
その声が震えているのが、自分でもわかっていた。
「私は死なない。何故ならマオが、治してくれるから、な……」
「勇者様!」
「冗談だ」
何処から冗談なんですか。
「本当は、な…………」
勇者様の息が少しずつ細くなっていって。そして。
プランポルンは足を止めずに向かってくる。
何か。
何か、しないと。
マオには何ができるんだろう。
回復、くらいしか思い浮かばない。
でも、弱いし。
でも、人に当たらないし。
でも、でも。でも。
何もしないよりは。
勇者様に2回も救われたこの命を、最期くらいは勇者様のために。
どうせ死ぬのなら、マオの魔力を全て使っても。
プランポルンはすぐ近く。マオは呪文を唱える。
右手が緑色に光り始め、力を込めると光が放出される。
神様、もしいるのなら。
この命などいくらでも差し上げますので、勇者様を。
光が、勇者様を包む。
プランポルンがその光を見て後退る。
勇者様の傷がゆっくりとふさがり、顔に生気が戻ってくる。
光が消える。
「……ん?」
「勇者様! もう全方向!」
勇者様はまるで緊張感のない顔で起き上がり、バケツを振る。
マオは自分の身体から力が抜けていくのを感じた。
視界が黒くなる。
プランポルンが倒れる音だけが、遠くで聞こえていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
俺のストーカーくん
あたか
BL
隣のクラスの根倉でいつもおどおどしている深見 渉(ふかみわたる)に気に入られてしまった中村 典人(なかむらのりと)は、彼からのストーカー行為に悩まされていた。
拗らせ根倉男×男前イケメン
Please me
金木犀
BL
男女の性別の他に、第二次性として認知されるようになったDomとSub
世界的に認知されるようになってから時間が経過しているにも関わらず、Subの蔑視が蔓延している社会で、例に違わずSubの山本彰人も強いトラウマを抱えて過ごしていた。
大学入学を機にトラウマ克服のために入会したサークルで出会ったDomの須田駿介に優しくされることで少しずつ心を開いていく。
トラウマを抱えて傷ついたSubとそんなSubを愛したいDomの、不器用で怖がりながらも少しずつ前を向いて過ごしていく物語。
*初投稿のため少しずつ更新していきます。
*お名前と登場キャラクターの設定を某知識集団の方達を参考にさせて頂いておりますが、内容には一切の関係ございません。
不快に思われた方がいらっしゃれば公開を改めさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる