境界線

風枝ちよ

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夢が、醒めない。
夢が覚めない。
夢のはずなのに。
こんなのはたまに見る悪夢のはずなのに。
覚めるはずなのに。
すぐに朝が来て日常が戻ってくるはずなのに。
なんで、と自問する。
なんでだ。
なんで俺はこんな仕打ちをされなきゃいけない。
なんで。



俺はひとりだった。
俺はいつもひとりだった。
俺はずっとひとりだった。
友達の存在なんて虚像にすぎなかった。
人との繋がりも微塵も感じていなかった。

ひとりだった。

それが心地よかった。
表面上の付き合いに意味などなかった。
あんなに脆いものなら壊れてよかった。
もっと早く壊しておくべきだった。
そもそも作るべきじゃなかった。
友達なんていらない。
いつか壊れてしまうものなんていらない。
そんなものはいらない。
だってそうだろう?
無理して付き合っても何もないんだから。
愛想笑いをして表面だけ取り繕っても何も生まれないんだから。
そんな関係を続ける必要なんてない。
だってそういうことだろう。
友達などいらない。
もう何もいらない。
友達も、友人も、友情も、何も。
何もいらない。

友達なんて馴れ合いじゃないか。
同じ仲間で固まりあって縮こまってるだけじゃないか。
それのどこに意味があるんだろう。
意義があるんだろう。
友達という単語に縛られて、友達ごっこをして。
それが何になる?
そこに何がある?
何にもならない。
何もない。
友達という関係は何も生まない。
誰かが傷付いて、誰かを傷付けて。
傷だけが積み重なって。
ボロボロになって。
そうまでして関係を続けても得られるものは何もない。

友達は嘘に満ちている。
友達は嘘でできている。
友達は嘘でしかない。
友達は嘘だ。
嘘の関係だ。
みんながみんな嘘をついて、友達をするのに精一杯になっている。
そんなことをしても何も始まらないというのに。
友達なんていても重いだけなのに。

友達なんていらない。
友達なんて必要ない。

俺はひとりだ。



俺はパトカーに乗せられていた。
後部座席で、両側に警察官が座っている。
妙に非現実的だった。
俺が此処にいることが信じられなかった。
ただ、俺は夢を見ていただけだ。
夢の中にいたんだ、ずっと。
現実から逃げて、夢の中に隠れて夢の中で生きていた。
夢の中だけが安心できる場所だった。
夢の中でなら俺は何でもできた。
自分の好きなことができた。
そのはずだった。

なのに。

俺は現実に引き戻されてしまった。
気付けば現実になっていた。
何処に境界線があったのだろう。
何処までが夢で、何処からが現実だったのだろう。
俺は何をして、何をしなかったのだろう。
俺は今何処にいる?
これは夢なのか?
それとも現実なのだろうか。
俺はまだ夢の中を漂っているのだろうか。

パトカーの窓の向こうで風景が流れていく。
一瞬、俺を指差している子供が見えた。
すぐに後ろに流される。
何か、どうしようもないことをしてしまったような気になる。
こんな悪夢早く覚めてしまえ、と俺は強く思う。
パトカーは俺を乗せて進んでいく。
風景は流れていく。
動き続ける現実の中で俺の夢だけはいつまでも醒めない。



夢と現実の境界線を、俺は何処に忘れたのだろう。
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