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風枝ちよ

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という夢を見た。
なんか……、何て言うのだろう。
俺は最近、神ド変態になっている気がする。
夢の内容もそろそろ危ないんじゃないかと思う。
他人に見られないからいいけど。
街の喧騒に包まれて学校に向かう。
もう何処にも、緑なんて見えない。



こん前楽しかったよな、と燥ぐ茶髪の声が廊下にまで聞こえていた。
楽しかったですね、と無機質なメガネの声も聞こえる。
ぜってー楽しくなかっただろ、茶髪のゴミみたいな笑い声。
俺は前よりも違和感を強く感じながら、教室に入る。

「おはよー」
「おはよ!」「おはよう」「まんじゅー!」

いつもの挨拶だ。
何処にも違和感なんてない。
ないはずなのに。

「そーいやさぁ、メガネって頭良かったよな?」
「眼鏡をかけている人すべてが頭が良いというわけではなく、その逆もまた然りなのですが、少なくとも私の成績は上位に食い込んでいると思います」
「んーと、頭良いんだよな?」

茶髪が困惑して言う。

「この前の期末は僕と1点差で学年トップだったよね」
「誰?!」

俺は言ってねーぞ。
オレも言ってないけど、メガネは?
私も、何も。

「僕だよ、僕。あれ、みんな忘れちゃったの? 悲しいなぁ」
「「「まんじゅう?!」」ですか?」

3人の声がハモる。

「どうしたんだよまんじゅう」
「キャラ捨ててんじゃねーよ」
「まんじゅうが足りないのであれば買ってきますよ?」

いつも通り、ではないけど、いつものノリと流れだ。
なら、この違和感は何なのだろう。

「なんつーかさ、……飽きちゃったんだよね」
「…………何言ってんの」

茶髪が恐る恐る訊く。
まんじゅうの発言に、俺の違和感は掻き消されてしまったみたいだ。
でもまんじゅうの話が終われば戻ってくるはずで。

「僕ってまんじゅうしか言ってなかったんだけど、それでもある程度の意思疎通はできるようになってだんだよね。でも飽きちゃったんだ。ただ飽きた。まんじゅうという台詞に、呼称に、存在に飽きてしまったんだ。だから僕に対しては今まで通りに接してほしいし、僕も今までと同じように接していきたいと思ってる。まんじゅうに飽きたっていう、ただそれだけの話さ」

まんじゅうは窓の外を見て溜め息をついた。

「まんじゅう、辛いことがあったら言っていいんだぞ」
「抑圧された性衝動以外なら受け付けますよ」
「頑張れまんじゅう」

茶髪とメガネと俺は必死でまんじゅうを止めようとする。
だがまんじゅうは走り続ける。

「辛いことなんてなかったし性衝動も抑圧してないんだ。さっき言ったみたいにただ飽きただけ、ただそれだけで他に理由なんてあるはずもないよ。人間、いつかは飽きるようになってるんだよ。例えそれが自分の人格の根元に関わるようなことであったとしてもね」

まんじゅうは俯いて長い息を吐く。

「で。メガネ、今度勉強教えてくんね?」
「いいですよ。何処がわからないのですか?」
「ぜんぶ!」
「……はぁ」

俺はまんじゅうの目を見て言う。

「なんかお前、変じゃね?」
「ごめんね。今までまんじゅうっていう一単語だけで生活してきたから他者との関わり方を忘れてしまったんだよ。どんなに大切にしていたことでもいつかは忘れてしまう。それがこの宇宙の真理のひとつなのかもしれないな」
「まんじゅうだけ言ってればいいと思うよ」
「………………まんじゅう」

まんじゅうは普通に戻る。
あくまでもまんじゅうの普通であって一般的な普通ではないけど、さっきよりはましだ。
なんだ宇宙の真理って。
そんなもんねーよ。

「まん、じゅう?」
「まんじゅう、その話はやめとけって」

まんじゅうの言葉を茶髪が制す。

「それってマジな方?」

俺はまんじゅうに訊く。

「まんじゅ
「まんじゅう。静かにしないとまん! じゅう…ですよ」
「まんじゅう……」

まんじゅうが答えようとして、メガネに脅されてちいさくなる。
でも、さっき言ったのが本当なのだとしたら。

「茶髪、こん前3人で遊んだのか?」
「おう。遊んだぜ」
「茶髪…」「まんじゅ…」

なんで呼ばなかったんだよ、と俺はつい声が大きくなる。
クラスの数人が振り向く。
なんで呼ばなきゃいけねーの? と茶髪は面倒臭そうに言う。
なんでって……。
俺はもう議論を諦める。
じゃーとりあえず、次は誘えよ、と茶髪に言う。
茶髪はひらひらと手を振る。
本当は誘いたかったのですけど、とメガネがフォローを入れる。
まんじゅう、とまんじゅうが言う。
こんなゴミみたいな友達と。
こんなゴミみたいな世界に生きる意味って、何なのだろう。
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