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序章:異世界転移してもチートはナシ!

復活のハル

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 すっかり変わってしまったシィさんに連れられて、僕とサルディナが後を付いていく。何となく声をかけづらくて、僕は黙ったままだ。その代わりにシィさんが、キャプテンサワダのクソだの、変態だの、イ○ポだの、何がシィさんぴーよーだとか、あたしはケットシィだとか、罵詈雑言を並べてる。

 シィさんの本名? はケットシィなんだ。へー。

 とてもじゃないが、サルディナには聞かせられないので、翻訳ヘッドセットを取り上げた。サルディナはほっぺた膨らませて怒ってる。

 ごめんよ。君にはまだ汚れないでいてほしいんだ。

「さてと、この部屋だ」

 通路の突き当たりまでくると、シィさんは壁のパネルを操作する。すぐにガチャという音がして、扉のロックが外れた。

 「おーい、ハル起きてるかぁー!」

 扉をあけ、大声で仲間のアンドロイドを呼ぶシィさん。しかし、返事はなく物音もしない。シィさんは真っ暗な部屋の中に、ドカドカ足音を鳴らして行ってしまった。
 勝手に人の部屋に入る気になれず、僕は扉の前で様子を見ている。
 サルディナは固まってる僕から、翻訳ヘッドセット奪ってつけていた。

 程なくして、部屋の明かりがついた。シィさんが入ってこいと僕らを呼ぶ。恐る恐る入っていくと、部屋の真ん中には小さな女の子が座っていた。眠たそうに目を擦っている。

「起きたか? ハル」

 シィさんが声をかけると、その子の体がフワッと浮いて足が霞む。直後、ズババァァァンと破裂音が響き、シィさんが吹き飛んだ。

「シィさん!?」
「無敵は素敵、素敵な無敵」

 思わずシィさんの吹っ飛んでった方を見る。ひしゃげたロッカーに頭から突き刺さっていた。女の子が寝ぼけた声でよくわからない事を言ってる。

 慌ててシィさんを助け起こすと、首が一八〇度後ろにまわってた。僕は腰が抜けてしまってパニックになってる。

「あー、いってぇなぁチクショー」

 シィさんが後ろを向いた自分の頭を掴むと、ぐりっと元の位置に回す。近くで腰が抜けてる僕と目が合うと、ニヤニヤと嬉しそうな顔をした。

「死んだと思った? 残念でしたー! アンドロイドだから、簡単には死なないよーだ!」

 イタズラが成功したような表情で、小さく舌を出す。

「おはよう、シィ。あいつと間違えた。ごめん」
「お、おはようハル! 大丈夫だから気にすんな!」

 ハルがシィさんに挨拶した後、僕を見つけて首を傾げる。

「あいつ、縮んだ?」
「ちげーよ。こいつはあきら。キャプテンクソダじゃねぇよ」
「ふーん、とりあえず一発殴ってみる」

 拳を構えて近づいてくるハルから必死に距離を取ろうとする。

 やめて! あの力で殴られたら死んじゃうから。

 だけどまだ腰が抜けたままで、思うように動けない。ジタバタしていると、ハルが拳を下ろした。

「ホントに別人なのね。あいつなら喜んで殴られに飛び付いて来るはず」

 サワダさん、あんたいったい何者だよ。エム属性まで持ってんのかよ。

 涙目で恐怖で乱れた呼吸を深呼吸して整え、なんとか立ち上がる。負けちゃいけない。

「僕はあきら。あっちの人魚族の子はサルディナ、よろしくねハルさん」
「ハルでいい。よろしく。あきら、サルディナ」
「よろしくー」

 ニコニコとサルディナが挨拶を返す。僕の心の中で、ずっとハルを呼び捨てしてたのは内緒だ。

「気分はどうだ? ハル。起こす前に制限解除しといたけど」
「うん、いい気分。何があった?」

 そこでシィさんは、今日、僕とサルディナがきてスリープモードから目覚めたこと、ここが勇者軍に襲われたこと、キャプテンサワダが最後に制限解除のパスフレーズを残したことを簡単に説明した。

「そう。あいつ……、もういないのね」
「あれから三〇〇年だ。流石に生きてはいないだろ」

 そうつぶやいたハルとシィさんは、あれだけ酷い事を言ってたのに、少し寂しそうだった。
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