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序章:異世界転移してもチートはナシ!

古代の技術と原始の技術その二

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 だんだんと落ちついてきたら、今度は急に恥ずかしくなってきた。
 慌てて彼女にお礼をいいながら、逃げるように魚の焼き具合を確かめる。
 彼女は急に動き出した僕にびっくりしたけど、すぐにニコニコと僕を見てる。僕が元気になって喜んでくれてるみたいだ。

 魚はいい感じに焼けていて、フーフーと冷ましてからかぶりつく。ホクホクとした身が美味しいけど、塩っ気がなくてちょっと物足りない。
 ひとくちかじった魚を、今度は僕が彼女に勧める。さっきのお礼のつもりだ。
 彼女は湯気がでて、熱くなってる魚に戸惑ってるみたいで、代わりに僕がフーフーと魚を冷ましてあげる。
 彼女は意を決したような顔をして魚にガブリとかぶりつく。結構冷ましたけどそれでも少し熱かったみたい。びっくりしてるけど、口はちゃんともぐもぐ動いてる。生魚とは違うホクホクした食感を気に入ったのかドンドン食べて、あっという間に一匹食べきってしまった。骨だけになった魚を持ったまま、しょんぼりと僕を見る。
 コロコロ変わる表情がおかしくて、つい笑ってしまった。笑われて怒ったのか頬を膨らませる彼女に、いい感じに焼けた魚をもう一匹渡す。受け取ろうとした彼女は、ちょっと考えるような仕草をしてまた水に潜っていった。すぐに戻ってきた彼女の手にはあの大きな果物が二つ。そのうち一個を僕に差し出す。交換ってことらしい。
 元々、魚も彼女が取ってきたものなので、気にしなくていいのにと思いながらも、それを伝える手段がない。仕方なく果物を受け取り、代わりに焼けた魚を手渡した。
 彼女はニコニコしながら、果物と魚をひとつづつ持って僕に見せる。僕も真似をして、ひとつづつ持って彼女に見せた。

「一緒!」

 僕がそう笑うと彼女の口がモゴモゴ動いて、イッショとつぶやいた。

「そう、一緒! 一緒!」
「イッショ! イッショ!」

 僕の真似をする彼女に嬉しくなって、一緒、イッショと笑いながら、楽しく食べることができた。




 満腹になり体の痛みも大分ひいてきたせいか、少し余裕がでてきた。
 この建物は、どう見てもあの召喚のあった建物より精度が高い気がする。床はタイルのようにツルツルしているが、組み合わせたような溝がない。壁も同じくツルツルして、組み合わせたような溝がない。天井は淡く光っていて、薄明かりでもちゃんと見えていたことに今更ながら気がついた。
 しかし、しばらく放置されてるのか人が使っている形跡はなく、あちこちに土埃が溜まっている。
 僕の後ろはかなり奥まで続いていて、途中の壁には扉もあり、通路のようだった。

 通路の奥に行ってみたいが、彼女のことも気になる。水から出ても苦しくなさそうだけど、足の代わりに魚の尾がついているから、歩けそうにない。
 通路の奥と彼女を何度も見比べて考え込んでいると、いきなり彼女が立ち上がろうとした。バランスを崩して倒れそうになる彼女を慌てて受け止める。

「うあ、軽い!」

 非力な僕でも彼女をお姫様だっこできるくらいに軽い。

「これなら一緒にいけるね」
「イッショ!イッショ!」

 にっこり笑う彼女にイッショと言われて嬉しくなる。

 火をつけるのが大変なので焚き火はそのままにした。壁も床も燃えなさそうだし、近くに水もある。多分大丈夫だろう。

 取り敢えず僕達は、一番手前の扉から調べることにした。抱っこで両手を塞がれた僕の代わりに、彼女が扉を横に引く。彼女の軽い力でも問題なく、扉は滑るようにスライドして開いた。

 部屋の中は廊下と違って暗く、奥のほうはよく見えない。机といくつかの椅子があり、その中にキャスターのついた椅子を見つけた。
 彼女をその椅子に座らせると、ちょっと寂しそうな顔をする。僕だっていつまでも抱いていたいけど、それじゃ両手がつかえないしね。

 急に降ろされて不安だったのか、僕をみる彼女は泣きそうな顔をしている。水辺から離れたこんなところに置き去りにされたら大変だもんな。

 僕がゆっくり椅子を押しながら、「一緒」と言うと、わかってくれたみたいで笑顔に変わった。

 椅子を押しながらあたりを調べる。壁側の机にはモニターのような窓とボタンのようなものがいくつも並んでいる。だけどモニターらしき窓は真っ暗で、ボタンを適当に押してみても何の反応もない。

「あれ? これはもしかすると……」

 机のヘコみの中に懐中電灯ライトのようなものを見つけた。透明なカバーを開けて取り出す。

「ボタンの位置も一緒みたいだな」

 僕がライトを確かめてると、彼女は瞳を輝かせて見ている。彼女のこの好奇心に僕は助けられたんだな、なんてことを思いながらボタンを押すと、パッと光ってまわりを照らしてくれた。
 彼女は光にびっくりしたが、僕が平気な顔してるのがわかると、また好奇心の塊のような瞳にかわる。机の上を照らすと、もう一個ライトをみつけたので彼女にあげた。嬉しそうにカチカチ点けたり消したりしている。

 人がいなくなって、どれだけ時間が経っているのかわからないこの場所で、問題なくライトが使えたことに、僕は驚いた。

「これ、もしかすると召喚された人が作ったんじゃないかな?」

 道具のデザインや部屋のつくりが僕の世界に良く似ていることから、同じように召喚された人がやったことじゃないかと推測する。
 モニター類は動力が供給されていないようで、どのボタンを押しても全く動かなかった。

 部屋の奥のを照らすとロッカーのようなものが並んでいた。不思議なことにロッカーは全部開いていて、中にあったと思われる物が床に転がっている。

「何かあったのかな?」

 彼女もつれて近付こうとしたが、床が散らかっていてうまく通れなかった。仕方ないので、ちょっと離れたところで待っていてもらう。彼女はライトであちこち照らしてキョロキョロしているから、ほっといても大丈夫だろう。

「ちょっと見てくるね」

 伝わらなくても一応声をかけて、僕はロッカーらしきものを物色し始めた。

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