サイバーパンクの日常

いのうえもろ

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ペットルーパーハル

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 今、この世界にはたくさんのモンスターが生きている。
 モンスターが産まれたのは今からずっと昔の話。

 多国籍大企業メガコーポを優遇した国が、段々とメガコーポに乗っ取られ始めた頃、あらゆる実験を合法とする国が現れた。
 通称モンスターメーカーと呼ばれたその国は輸出品開発の為に、倫理的に問題のある実験の規制を撤廃した。
 
 たくさんのミルクを出し、肉質も良く、羊毛も取れる羊牛シープカウは貧困国で重宝され、一番の成功例となった。
 ちなみに一番の失敗例として有名なギガントチキンは一日五〇個ほどの卵を生む巨大な四足の鶏。当初は喜ばれたが、肉食で凶暴なこの鶏は扱いづらく養鶏場の廃業が相次ぎ、逃げ出した個体が繁殖、野生化して社会問題となった。

 メガコーポはこれに目をつけ、政府を通して巨額の予算をつけた。

 新種は食用のほか、新たに移動、運搬用生物が貧困国で売れた。
 また、先進国では金持ち連中が自慢する為の愛玩動物としてオーダーメイドできるようになった。
 白鳥と馬のペガサスなど既存生物を掛け合わた幻想生物、化石から再生し小型化したミクロソーなど、オーダーメイドペットは世界で大ヒットした。
 二本足で歩き喋る犬人コボルト猫人ケットシーは子供の良き友として教育関係者から推奨された。
 
 売れるとわかると世界中で研究が始まり、モンスターメーカーはアドバンテージを失っていった。
 焦った国は研究を急がせるとともに利益を守る為に予算を削った。
 あとは予算不足からの人件費削減、人材・人員不足からの事故というよくある話である。
 
 後に第二のカンブリア大爆発と揶揄されたこの新造生物の大量脱走メガスタンピードは、海や地域を越え世界全土で繁殖・野生化していった。




「以上がモンスターの簡単な歴史です。どなたか質問ありますか?」

 先生が耳をすます。しかし、数十名くらいいるはずの教室は静かなままだった。

「ないようですので、授業を終わります」

 途端にざわざわと教室が騒がしくなる。

 ここはペットルーパー養成学校。
 ペットルーパーとはモンスターの驚異から人類を守る民間軍事会社の会社名。

「次の授業は演習です。準備をして演習場に集合してください」

 みんな今日の演習を楽しみにしていた。
 もちろん私も。

 素早くプロテクターを装着しヘルメットをかぶると、教室を出て集合場所に向かう。
 途中、整備のおっちゃんが、私達に銃を渡してくれた。

「今日こそハルに勝つ!」

「にゃっはー、できるならどうぞー」

「おう! 怪我すんなよ、ふたりとも!」

 青い毛並みのコボルト、アオが私に挑戦してきたので軽くいなす。
 私は勝ち負けなんて興味ないのだ。
 私達のやり取りを聞いて、整備のおっちゃんが笑っていた。

 世界中に散ったモンスター達は、その土地々々でほとんど絶滅したけれど、一部は適応、そして進化した。
 人の生活圏内まで繁殖したモンスター達は、家畜や人を襲うようになった。

「今日の模擬実践はギガントチキンだ! モンスターとしては雑魚だが油断すると大怪我するぞ」

 演習担当の先生から装備と銃の説明おさらいが終わり、いよいよ演習開始。
 あたりに緊張感が走る。
 順次ギガントチキンに挑戦していくクラスメイト。

「次! アオ、ハル! かかれ!!」

 マガジンをもらい装填、チャンバーを確認。OK!
 身体の奥底が燃えるように熱くなり、獣の本能が身体を戦闘態勢に変える。

 ある日、巨大化したモンスターに襲われた子供達を守ったのは、良き友として一緒だったコボルトとケットシー。
 彼らは動物並のスピードで走り、人の様に思考し、牙と爪でモンスターと戦った。人のために。

「アオ! そっちいった!」

 私の牽制射撃で誘導したギガントチキンが、アオに向かってまっすぐ走って行く。

「わかってる、任せろ!!」

 私達のご先祖様の話だ。
 人間と比べ驚異的な身体能力と特異なアビリティ持つ私達は、モンスターとの戦闘も可能だった。
 一時はその強さからトラブルもあったけれど、今では獣人と呼ばれ人と変わらない権利も保護されている。

「おらぁ、喰らえ!」

 アオの放った弾丸は、ギガントチキンの頭のど真ん中に命中した。
 銃弾が身体の割に小さい脳をぐちゃぐちゃにすりつぶす。
 だけど、ギガントチキンは走り続けた。
 正面には勝ち誇ったアオがまだ。

「アオ!!」

 咄嗟だった。必死になった私はいつも以上のスピードを出し、体当たりでアオを吹き飛ばす。
 ギガントチキンはそのまま一〇メートルほど走ってから力なく倒れた。

「アオ、大丈夫!?」

「あ、あぁ、助かった……」

 アオは真っ青になっていたが怪我などはないようだ。

「バカアオ! 反射反応でしばらく動くって授業で習ったでしょう!」

「……誰がバカだ。 バカっていうやつがバカだこのアホネコ!!」

「助けてやったのにその態度はにゃんだー!?」

 いつもの光景ケンカに心から安堵した。

 ことができるこの仕事が、私は大好きだ!




「このペットには保護機能をつけておこう。変質者などから子供達を守るために……。これは売れるぞぉ……」
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