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ご依頼はお決まりですか?
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俺の名前はトウキチロウ=キシタ。
この街で賞金稼ぎをやっている。
この街はメンドクセェことばっかりだ。
相手は公開された犯罪者だったり、多国籍大企業の重要人物の捜索だったり、金さえ良ければ迷い猫探しから暗殺までやる、要は何でも屋だ。
今日の依頼は二十歳くらいの青年からだった。
名前はセイイチロウ=トキタ。有名俳優と同姓同名。雑な偽名だ。
ひょろっとした青白い面長の顔で黒髪は七三分け。古臭い黒縁のメガネをかけていて、真面目そうに見える。
まぁ、どこにでもいるような男だが、着ている紺のスーツは上等そうだった。どこかのお金持ちの息子ってところだろう。
依頼内容も結婚を約束した恋人が失踪したので探して欲しいという、年に四、五人は来るようなありふれたものだった。
ただ、ちょっと気になったのはその恋人の写真。
普通はイベントだったり観光だったりに行った写真が多いのだが、これは就職活動用のリクルートスーツで胸から上の写真。どうみても証明写真だ。
俺は仕事を一旦保留にし、一時間後に連絡すると依頼主に伝えると、バーチャルスペースからログアウトした。
すぐさま、契約している情報屋のデータベースにアクセスし、教えてもらった彼女の名前を検索すると二〇〇件ほどヒットした。そこから、髪色、年齢などで一〇件まで絞り込み、顔画像を一覧表示する。
依頼人の写真と同じ顔はすぐ見つかった。
詳細情報には、最近トガリ建設に就職した社員で社長の息子と交際中。五日前から失踪、と書かれていた。
交際相手の名前はケイスケ=トガリ。
画像には黒髪でも黒縁メガネでもない遊んでいそうな依頼人が、露出の多い派手な格好をした失踪女性と一緒に写っていた。
「結婚の約束ねぇ……」
俺にはどう見ても遊び相手にしか見えなかった。まぁ、もしかしたら本当に愛し合ってるのかもしれないが……、じゃなきゃこれは、よくある依頼に偽装した失踪人探索……ということになる。
「リョウコ=マミヤ。この女が何をやったかは依頼人から聞くか」
だいたい三〇分でここまでの調査をすませ、依頼用のバーチャルースペースにログインする。
連絡すると待っていたのかトガリはすぐに来た。
「予定より随分早いですね。それで、依頼は受けていただけるのでしょうか」
「いやぁ、おまたせしないように頑張って急ぎましたから」
ありきたりな営業トークで返答する。お客様あっての商売なのはここでも変わらない。
「ご依頼についてですね。それにはまず本当の事を教えていただけますか? トガリさん」
「おや? たった三〇分でバレましたか」
本名に驚きもせず涼しい顔でトガリが答える。少しくらいビビってくれれば値段交渉もしやすいのだが。
七三わけをくしゃくしゃとほぐしながらメガネを外してテーブルに置く。すっかり遊び人のボンボンだ。
「理由をお伺いしても?」
「有名な名前なので」
「女性の方は?」
「結婚の約束を……」
「ははは、冗談がお上手ですね」
ふざけた言葉を遮ってまっすぐトガリの目を見る。
ふぅっと軽く息をはいてトガリが肩をすくめた。
「うちの企業機密を盗られました」
思ったとおりハニートラップだった。
会員制のクラブで知り合い、コネを使って入社させたところ、機密を盗んでとんずらされたそうだ。
ただの失踪人探しと企業機密の奪還では依頼の額がひと桁違う。儲けているくせにケチ臭い。どうせ会社には内密にどうにかしようとしたのだろう。ボンボンめ。
「では、この契約書にサインを……」
企業機密奪還用の契約書を用意しながら依頼人に説明する。
おもいっきり足元を見てボッタクってやる。
久しぶりの高額依頼に口がニヤリと歪むのを俺は止められなかった。
どうだ? ただ依頼を受けるだけでもメンドクセェだろ?
この街は何処もこんな感じ。
メンドクセェことばっかりだ。
この街で賞金稼ぎをやっている。
この街はメンドクセェことばっかりだ。
相手は公開された犯罪者だったり、多国籍大企業の重要人物の捜索だったり、金さえ良ければ迷い猫探しから暗殺までやる、要は何でも屋だ。
今日の依頼は二十歳くらいの青年からだった。
名前はセイイチロウ=トキタ。有名俳優と同姓同名。雑な偽名だ。
ひょろっとした青白い面長の顔で黒髪は七三分け。古臭い黒縁のメガネをかけていて、真面目そうに見える。
まぁ、どこにでもいるような男だが、着ている紺のスーツは上等そうだった。どこかのお金持ちの息子ってところだろう。
依頼内容も結婚を約束した恋人が失踪したので探して欲しいという、年に四、五人は来るようなありふれたものだった。
ただ、ちょっと気になったのはその恋人の写真。
普通はイベントだったり観光だったりに行った写真が多いのだが、これは就職活動用のリクルートスーツで胸から上の写真。どうみても証明写真だ。
俺は仕事を一旦保留にし、一時間後に連絡すると依頼主に伝えると、バーチャルスペースからログアウトした。
すぐさま、契約している情報屋のデータベースにアクセスし、教えてもらった彼女の名前を検索すると二〇〇件ほどヒットした。そこから、髪色、年齢などで一〇件まで絞り込み、顔画像を一覧表示する。
依頼人の写真と同じ顔はすぐ見つかった。
詳細情報には、最近トガリ建設に就職した社員で社長の息子と交際中。五日前から失踪、と書かれていた。
交際相手の名前はケイスケ=トガリ。
画像には黒髪でも黒縁メガネでもない遊んでいそうな依頼人が、露出の多い派手な格好をした失踪女性と一緒に写っていた。
「結婚の約束ねぇ……」
俺にはどう見ても遊び相手にしか見えなかった。まぁ、もしかしたら本当に愛し合ってるのかもしれないが……、じゃなきゃこれは、よくある依頼に偽装した失踪人探索……ということになる。
「リョウコ=マミヤ。この女が何をやったかは依頼人から聞くか」
だいたい三〇分でここまでの調査をすませ、依頼用のバーチャルースペースにログインする。
連絡すると待っていたのかトガリはすぐに来た。
「予定より随分早いですね。それで、依頼は受けていただけるのでしょうか」
「いやぁ、おまたせしないように頑張って急ぎましたから」
ありきたりな営業トークで返答する。お客様あっての商売なのはここでも変わらない。
「ご依頼についてですね。それにはまず本当の事を教えていただけますか? トガリさん」
「おや? たった三〇分でバレましたか」
本名に驚きもせず涼しい顔でトガリが答える。少しくらいビビってくれれば値段交渉もしやすいのだが。
七三わけをくしゃくしゃとほぐしながらメガネを外してテーブルに置く。すっかり遊び人のボンボンだ。
「理由をお伺いしても?」
「有名な名前なので」
「女性の方は?」
「結婚の約束を……」
「ははは、冗談がお上手ですね」
ふざけた言葉を遮ってまっすぐトガリの目を見る。
ふぅっと軽く息をはいてトガリが肩をすくめた。
「うちの企業機密を盗られました」
思ったとおりハニートラップだった。
会員制のクラブで知り合い、コネを使って入社させたところ、機密を盗んでとんずらされたそうだ。
ただの失踪人探しと企業機密の奪還では依頼の額がひと桁違う。儲けているくせにケチ臭い。どうせ会社には内密にどうにかしようとしたのだろう。ボンボンめ。
「では、この契約書にサインを……」
企業機密奪還用の契約書を用意しながら依頼人に説明する。
おもいっきり足元を見てボッタクってやる。
久しぶりの高額依頼に口がニヤリと歪むのを俺は止められなかった。
どうだ? ただ依頼を受けるだけでもメンドクセェだろ?
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メンドクセェことばっかりだ。
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