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七つの厄災【不安編】:不安は心配からくるらしいですよ

聖邪降臨

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 念の為に【箱】を使ったが、巨大なスケルトンは吸い込まれなかった。こいつは厄災の使い魔じゃなくデルフィニアの封印を護る為の守護者だったってことだ。
 通路を通ろうと台座に近づく者全てに対し、攻撃していたんだろうな。

「これでこの通路が通れるな」  

 台座を乗り越えて先に進む。最初は棺の多かった広場と同じく、壁が髑髏に覆われていたが、しばらく歩くと石の壁に変わる。壁には石を積んだものでは無いようで継ぎ目がない。天然の洞窟を利用して作られているようだ。

「ノゾム、ここ――凄く魔素が強いよ」

「魔素ってなんだ?」

「空気中に漂っている魔力の素――かな? 体内の魔力で外の魔素に働きかけて、魔法を発現させるの」

「ごめん、よくわかんねぇ」

「まぁ、大体の落人は理解できなかったみたいだし、気にしなくていいわよ」

 メディに魔素についてざっくりと説明され、理解できないことをエウリュアにフォローされながら一分ほど歩くと、少し広い部屋に出た。
 縦も横も四メートルくらいの正方形の部屋で、天井は天然の洞窟のまま。壁には簡易な人物のイラストに、漫画でよく見るような魔法陣があちこちに散りばめられて描かれている。

「なぁ、これって――」

 左の壁面には沢山の目の赤い影を率いた、一人の女が描かれている。そのまま正面の壁に進軍する影の軍団の先には、槍を持った白い鎧の兵士達。続いて右の壁には上でみた神殿のような建物と空に浮かぶ神殿が描かれている。

「これは戦争の絵ね。つまりこの女がデルフィニア」

「たった一人で死人の軍隊を率いて、この国に戦争を起こしたのか」

 三面の壁画に囲まれて、部屋の中央には石の棺が置いてある。ただし、中央の棺がやや大きめで、手前に小さい石の箱一つ、左右に長細い箱が二つ。中央の石箱の向こうに二つ。
 恐らく台座の石版に書かれていた通り、頭、体、両手、両足とバラバラに入れられ、それぞれに封印がかかっているのだろう。箱にも蓋にも封印の為の記号が彫られているとメディが教えてくれた。
 
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。この封印もう解けてるみたい。術式に魔力を感じない」

「ってことは、中身は空ってことだよな? よっと――」

 デルフィニアが復活してる以上、中身は空のはずだ。そう思って一番手前の箱の蓋を外してみる。

「エウリュア! メディ! 中身入ってる!」

 俺が開けたのは、予想通り頭の入っている箱だった。予想と違ったのはまだ中身があったことだ。目と口にきつく布が巻かれているが、かなりの年月のせいでぼろぼろになっている。
 だが、顔の肌は透き通るような白さで頬がほんのり赤くなっている。恐る恐る触ってみると赤ちゃんの肌のように弾力がありすべすべと指先に心地いい。髪は艷やかで天使の輪が出来ているし、首は今切り落としたかのように――絶え間なく血が流れ出ていた。不思議なことに血は、底を赤く濡らしたままで溜まっていく様子もないし、固まってこびりつきもしない。

「ふふふ――どうです? 私の首、綺麗でしょう?」

「――!」

「っ!」

「えぇ!?」

 俺とエウリュアがすばやく武器を構える。声の方に視線を向けると、足が入っているはずの箱の向こうにデルフィニアが立っていた。

「守護者を倒していただきありがとうございました。おかげさまで、私の本当の躰を取り戻すことができました。どんなに鮮度の高い死体を使っても、どうしても腐りやすくて――」

 古代魔術――箱の蓋が勝手にはずれて、手、足、体、頭が空中に浮き、血を迸らせながらつなぎ合わさっていく。つなぎ目の傷はすぐになくなり、浮かび上がる裸体からだのラインが、見たものの脳に直接【美】を刻み込む。――この世には存在しない、死者だから持つ生のない美しさ。

「私――綺麗?」

 しまった、長く見すぎた。
 空中のデルフィニアの両眼が赤く光り、体が痺れて動かなくなる。視界の端に映るメディとエウリュアも同じように動けないようだ。
 うふうふと元のデルフィニアが嗤い、空中に浮く裸のデルフィニアを妖しく抱きしめる。

「そんなに見つめては駄目です、落人殿。この躰は愛するあの人の為のもの。ですが貴方は私を開放してくださいました。私は今、とても気分がいい――お礼に貴方も私の配下にしてさしあげます」

 デルフィニアの偽りの体が急激に土気色へ代わり、肌が泡立ち悪臭を放って腐り落ちる。落ちた手足は骨すら溶け、足元に不快な水たまりを作っていく。空中に残ったペンダントがゆっくりと真の体の胸元へ。同時に血煙があがり、真っ赤な衣服に代わる。

「あぁ――やっぱり自分の体は最高ね。魔力も気力も超充実! もう、モイラ姉様にだって負ける気がしないわ!」

 モイラ――姉様? 

「知りたい? 知りたい? 知りたい? 知りたい? 知りたい? モイラ姉様は私の魔法の師匠であり私が唯一尊敬する御方。ドラゴンとの戦いで魔力を使い切り、全部忘れてしまっているみたいだけど。だけど――」

 デルフィニアが敬語やめて物凄い早口で喋っている。あれが本来のデルフィニアってことか。

「モイラ姉様は私が愛する人。誰にも渡さない。奪う奴は許さない」

 目の焦点がここではないどこか遠くを見たままになっている。

「モイラ姉様を奪った英雄とか呼ばれた低俗な男はもういない。そこの子供達を殺して全部なかったことにする! その後は――うふ。うふうふ、うふふ」

 デルフィニアが両手で自分自身を抱きしめ、赤い目がさらに輝きをます。心臓の動きが段々とゆっくりになっていくのがわかる。苦痛がないせいか死の恐怖も薄い。疲れ切って眠るような心地よさだ。――もう、全部どうでもいい。

「相変わらず気持ち悪い笑い方しやがって――やめろって何度も言っただろ、デルフィ!」

 薄れていく意識の中、後ろの入り口から聞こえてくる声は――モイラさん?

「モイラ姉様! 思い出してくださったのですね! 私の為に来てくださったのですね!」

「誰がてめぇの為に来るかってんだ! 可愛い子供達とその彼氏の為に決まってんだろ! 通年色ボケ桃色脳みそ!」

 デルフィニアが恋する少女のように瞳を麗せ頬を染め驚喜の声をあげる――パァン! 突然、部屋中にクラッカーのような音が響き、俺の体が楽になる。

「母さん――」

「お母さんが――」

「「本気で怒ってる!」」
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