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七つの厄災【不安編】:不安は心配からくるらしいですよ
王心放漫
しおりを挟む俺達は嘆願書を渡し、竜と隣国、厄災のあらましを王様に報告。それからエウリュアの母の解放を王様に求めた。
「ならぬ。古代魔術は戦に必要な力。いや、まて、そなた達は英雄の娘――そなた達からも術を伝える様、モイラを説得せよ! さすれば解放しても良い! これは王命である!」
開口一番王命かよ。エウリュアの母さんは、古代魔術を王宮の魔術師達に伝えるよう王命を受けそれに背いたから投獄された。その娘に――。
「王命――。断れば罪人としてとして投獄される」
エウリュアがつぶやく。メディは歯を食いしばって涙を堪えてる。
「お断りだ!隣国の竜は俺が倒した。それなのにまだ怯えるてめぇは王の器じゃねえ。そんな命令にも従う価値なんかねぇっ!」
「ひぃ……?」
王が悲鳴をあげる。俺の顔をみたせいだ。
「な、なんだこいつは! 誰か、誰かこいつを捕まえろ! 殺せっ!」
兵士が剣を抜き、魔術師が杖を構える。――ここまでか。くっそみてぇな世界だったがエウリュアに会えた。それで良しとするか――。俺は覚悟を決め拳を握りしめる。太刀はこの部屋に入る為預けてしまっていた。
「お待ち下さい。王様。落人様」
凛とした声が響き、女がやってきた。金糸の刺繍を施した真っ赤な法衣と帽子を着崩し、華美で長大な杖をもった女は、王様の前まで来ると恭しく頭をさげる。兵士も王もその美しさに動けなくなる。――俺も一瞬。
「おぉ、デルフィニア」
「落人様はこちらの世界の理にまだ慣れていらっしゃらないご様子。さらに英雄の娘に想いあれば感情的にならざるも得ません」
デルフィニアと呼ばれた娘の目が赤く光る。
「英雄の娘の想い人であったか。うむ。今回はデルフィニアに免じて許そう。母とも会うがいい」
王の様子が変わった。変えた女が俺の方へ振り向く。
「私は宮廷魔術師のデルフィニア。どうぞよろしく落人様」
女は俺を見て、もう一度恭しく頭さげた。
「こちらがモイラ様のいらっしゃるお部屋でございます」
侍女に案内されて俺達が通されたのは豪勢な部屋だった。投獄なんて言われちゃいるが、王の言うことを聞くまで軟禁するってのが実情らしい。ましてやこの国の危機を救った英雄の妻だ。無碍にすると民衆の支持も落ちるってとこか。
豪華な装飾を施されたドアを開けると、一人の女性のシルエットが見えた。窓から眩しい日差しが差し込んでいる。
「母さん!」
「お母さん!」
エウリュアとメディが抱きつく。女性も二人を抱きかえす。その顔はエウリュアにもメディにもとてもよく似ていて、三人の子がいると思えないほど若い。
「貴方が落人のノゾムさんですね。娘がお世話になっております」
「いえいえ、俺は特に何も……ってどうして俺の名前を?」
慣れない敬語を使おうとして――言葉に詰まってしまった。
「城の中の噂話よ――いい男ね。母さん、味見してみたくなっちゃった。ねぇ、駄目? エウリュア?」
「――! 母さん何言ってるの? 駄目に決まってるでしょ!?」
エウリュアの顔が真っ赤になる。メディは少し驚いて――がっくりと肩を落とした。
「変わってないなー、お母さん……。よく、それでお父さんと喧嘩してたっけ」
「ルセウス相手なら満足してたわよ。だから実際に手を出してないでしょ? あ、とりあえず適当に座って」
勧めらて椅子に座ると、ティーセットが飛んできた。カップと皿が俺達の前に並び、ポットが浮いて紅茶を注く。
「これが古代魔術? すげぇけど、こんなのでどうやって戦うんだ?」
「お兄ちゃん。ティーセットが軍隊、カップと皿は兵士、ポットは魔法制御の兵器って置き換えてもおんなじことが言える?」
メディが自慢げに言う。
主を絶対裏切らない人造兵士。それが大軍で空を飛んであっという間に行軍してくる。しかも大砲など兵器は自動で勝手に動くってことか。
「なるほどなぁ、それならあの竜だって倒せるかも知れないな」
「そんなにうまくいくわけ無いでしょ? 古代魔術なんて大層な呼ばれ方してるけどね。私のいた時代は生活で魔力を使うのは当たり前だったのよ」
俺がそんな事を考えて言うと、モイラさんがつぶやいた。
「私の時代、魔法に名前はなかったの。イメージに魔力を注いでイメージを実現させる、それだけ。でもそれは、その都度イメージして魔力を注ぐという効率の悪いものだったの。だから魔力を効率的に使うため、あらかじめやることをまとめて名前を付けた。これが今の魔法。」
モイラさんはそこで一旦、言葉を区切ると、
「瞬間的に魔法を使う必要があった、戦争の為に産まれた技術よ」
と、寂しそうな顔で言った。
「私達は小さい頃からお母さんの真似して魔力を使っているから少しはできるけど――。普段から魔力を使っていない人じゃ、扱える魔力そのものが少なくてこんな事できないよ」
メディがモイラさんの言葉を引き継いて説明してくれる。メディがティーポットを魔力で操っておかわりを注いでた見せてくれた。
「だから今の人に教えたって古代魔術は使えないって、言ってるんだけど聞いてくれないのよね。あの宮廷魔術師さん」
「なるほどなぁ。地道な練習あってこそってことか」
「そんな都合のいいことなことなんてないってことね」
モイラさんの言葉に俺は納得、エウリュアが批評した。すると――コンコンとドアが叩かれた。
「どうぞ」
モイラさんが短く答える。
静かに開いたドアから現れたのは、真っ赤な色の衣に身を包み、華美で長大な杖を持った女、――宮廷魔術師デルフィニアだった。
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