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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ

はじめての厄災封印らしいですよ

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「ばかなぁ! ばかなぁ、ばかなぁ、ばかなぁ! この体が! この巨体が! 吹き飛ぶだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 いまだ吹き飛ぶ勢いがとまらないオイディプスが叫ぶ。俺はあふれ出る力に手こずりながら、オイディプスを追い空中を駆けていく。

「我が! 我が! 我が! 我が! ワレガワレガワレガァァァァァァァァ!」

 オイディプスが翼を広げ上空へ方向を変え飛び上がる! 俺も合わせて向きを変え――やっちまった。力のコントロールに気を取られ戦いに集中しきれてなかった――大きく開いたドラゴンの口にエネルギーが集まっていく。いまさら方向転換しても間に合わねぇ! このまま突っ込む!

「間ぁにあえぇぇぇぇ!」

 思考が! 体の……スピードに追い……ていかれる! 空……気を蹴る……足に更に力を込め……る! ドラゴンの……口……の力が! 力が弾ける! 口の中が! 輝いて! その顎に!!

「と……ど、――届けぇ!!!」

 闇雲に振り抜いた拳が顎まで届いた!かち上げたオイディプスの顎の中でブレスが発動する。くぐもった爆音――口端から漏れた爆風が俺を吹き飛ばす。砕けた牙のかけらが俺の体のあちこちに突き刺さってくる。

「ワレガ!ワレガ!ワレワレレレレレレレレ!!」

 オイディプスが羽ばたいて爪を振りかざす。口の中でブレスが爆発したのにまだ動くのかよ。手や足で空気を押して衝撃波ソニックブームを起こして体勢を立て直す。爪じゃ防御の方法もない。人の皮膚じゃただ裂かれて終わりだ。
 爪を振るう腕の軌道を避けて、胸に向けて突進する。胸――心臓あたりに手のひらを添え、腰を落とし深呼吸。鋭く吐く息とともに――放つ。足場を固める地面がないのなら、空気を踏み固めればいい! 今までにない強さで空気を踏み込む。

――ズゥゥゥゥン。

 手応えあり。口から大量の血を吹き出し、オイディプスの目から輝きが消える。

「――マスターに提言。箱の行使を推奨――」

「あぁ、わかった」

 俺は落ちながらも、なんとか箱を取り出して蓋を開けた。ドラゴンが徐々に光に変って、開かれた箱の中に吸い込まれていく。光の中にたくさんイメージ浮かび上がり、俺の周りを回っている。

――光の鎖で繋がれ、泣き叫ぶ蒼い鱗のドラゴンが映っている。

「人よ、何故だ! 何故、私の子を奪う。何故、私を裏切る」

「全ては我が国を盤石にせんが為――貴方の雛達をより強靭にしなければなりません」

「国を護る役目は果たしてきたではないか!」

「これから国を大きくするためにも、貴方の力が必要なのです」

 言いながら女が笑う。液体が入った円筒が四本。それぞれに浮かぶ子供のドラゴンが苦しんで叫んでいる。ドラゴンの子を思う心と絶望が、悲しみになって俺の中に流れ込んでくる――。


――意識を失い暴れるドラゴンと剣を構えた男が映っている。

「俺も親。お前の嘆きはわかるがその鎮め方を知らん――悪く思うな!」

「ウォォォォォォォォォォォン――」

 さっきのドラゴンだ。意識がなくただめちゃくちゃに暴れている。威力はあるが隙の多いドラゴンの攻撃を避けながら、男の剣が幾度も振るわれる。嘆きと痛みが混ざり合い、苦しみになって俺の中に流れ込んでくる。

――荒野に佇む竜の像が映っている。
 竜の子を実験に使っていた女が竜の石の横で佇んでいた。女の体が崩れ落ち、飛び出した光が竜の体を一周すると、竜の額に吸い込まれていった。石がボロボロと崩れ落ち、石の中から蒼い鱗の竜が現れた。

――蒼い鱗のリザードマン――ライオスが映っている。
 街の郊外。足元には夫婦と思われる男女と一人の子供が死んでいる。三人の頭に、腕に、足に、体に、真っ黒な針が幾本も突き刺さっている。そしてすぐ、黒い針が消えた。

――泣き叫ぶ辺境伯が映っているのもあった。
 両膝をつき、泣きながら小さな子供の遺骸を抱きしめている。
 辺境伯に青い布を巻いたライオスが近づいて、数度言葉をかわして立ち去った。
 辺境伯はライオスから渡された薬瓶を思いっきり壁に投げつけた。

――町の郊外、たくさんの人が石化の病で苦しんでいる映像もあった。
――エウリュアがメディの看病をしてる様子もあった。
――小屋の中に横たわる子供達デジーとニックもあった。

 これは――厄災の記憶なんだろう。【悲哀の厄災】が起こした一連の出来事が、まとまりもなくただイメージとして俺の周りを回ってる。ありきたりだけど、人々の悲しみそのものが【悲哀の厄災】のエネルギーってことなんだろう。ドラゴンも辺境伯も街の人々も、エウリュアもメディもニックもデジーもヤニス達も、ただ厄災に利用されていただけだったってことか。これが箱に封じられた厄災か。

 目まぐるしく変わる映像達が全て箱に吸い込まれた。そして、雲ひとつない月明かりの空から俺は落ちた。
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