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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ
はじめての情報戦らしいですよ2
しおりを挟む我はアダマンティオス辺境伯である。このプロタトスを拠点に、腐ったこの世界を粛清する男である。
あの英雄も死に、家族もバラバラにした今、我が野望を止めるものはいない――はずだったのだが、どうも最近、英雄の娘がまたでしゃばってきているようなのである。我がばら撒かせた石化病を治療しまくっているようなのである。このままでは、街の郊外の住民を皆殺しにする計画が失敗しそうなのである。――早く英雄の娘どもを始末しなければいけないのである。
「お困りのようですね、アダマンティオス辺境伯様」
「ライオス、遅いのである。それとノックぐらいするのである」
我が考え込んでいると、ふいに声が聞こえたのである。我が汚れ仕事をするときに、窓口になっている男――ライオスである。長身痩躯で顔を青い布で巻いてる為、顔すらわからんのである。その辺のチンピラに金を握らせ依頼すると、――魔法で多数の防御結界がかけられたこの部屋に――いつの間にか現れよる。
「これは失礼致しました。何しろ私は、実体のない影ですので」
全く気持ちのこもっていない、形だけが完璧な礼――慇懃無礼というやつである。
――ふん、まぁいいのである。
「最近、英雄の娘どもが郊外で石化病の薬を配りまわっているようなのである」
「おや? 薬の買い占めはうまくいっていたはずでは?」
「――何やら落人が薬の材料を持ち込んだらしいのである」
「落人――ですか」
思わず苦虫を噛み潰したような顔になってしまうのである。
「奴が英雄の娘どもと組んで、薬を作りまくっているのである」
「製薬のできる薬屋をつぶすことは?」
「奴らが製薬を頼んでいる相手は、数百年も生きていると噂の魔女――メデイアである。もしかするとあの英雄より手強いかもしれん」
「なるほど」
なるほどじゃない、お前も少しは考えるのである。むぅ――きっかけは落人――である。
「――落人がいなくなれば、あの英雄の娘どもも諦めるかもしれん。諦めないなら、その時はいっそ落人と一緒に消してしまえばいい。――どうにかして街から誘い出せれば」
「そうですね。――近くの洞窟に三目熊がでたと噂を流すのはどうでしょう」
「それでは、冒険者どもも集ってしまうであろう?」
我が渋い顔をしていると、ライオスが提案してきたのである。――が、何を馬鹿なことを言ってるのである。そんなことをすれば冒険者どもが群がって来てしまい、噂が嘘だとすぐにバレるのである。薬の素材集めのうち三目熊の瞳の採取が一番高額な報酬なのである。
「おっしゃる通りです。ただ――冒険者が洞窟に行ったまま帰ってこないなど、よくある事でございましょう?」
――こいつ、洞窟にくる冒険者を皆殺しにするつもりらしいのである。事もなげに言うライオスの言葉に、嫌な悪寒を感じた我は、全部こいつに任せることにしたのである。我は何にも知らないのである。
「ふむ。我は今の話、聞こえなかったのである。洞窟の三目熊のことも、それを捕りに行った冒険者どもに何か起きたとしても、我は知らないのである」
「――かしこまりました。では、早速、私は準備にかかります故失礼いたします」
「うむ」
頷いて顔をあげると、もうそこにライオスの姿はなかったのである。
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