上 下
16 / 48
七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ

はじめての情報戦らしいですよ2

しおりを挟む

 我はアダマンティオス辺境伯である。このプロタトスを拠点に、腐ったこの世界を粛清する男である。
 あの英雄も死に、家族もバラバラにした今、我が野望を止めるものはいない――はずだったのだが、どうも最近、英雄の娘がまたでしゃばってきているようなのである。我がばら撒かせた石化病を治療しまくっているようなのである。このままでは、街の郊外の住民を皆殺しに浄化する計画が失敗しそうなのである。――早く英雄の娘どもを始末しなければいけないのである。

「お困りのようですね、アダマンティオス辺境伯様」

「ライオス、遅いのである。それとノックぐらいするのである」

 我が考え込んでいると、ふいに声が聞こえたのである。我が汚れ仕事をするときに、窓口になっている男――ライオスである。長身痩躯で顔を青い布で巻いてる為、顔すらわからんのである。その辺のチンピラに金を握らせ依頼すると、――魔法で多数の防御結界がかけられたこの部屋に――いつの間にか現れよる。

「これは失礼致しました。何しろ私は、実体のない影ですので」

 全く気持ちのこもっていない、形だけが完璧な礼――慇懃無礼というやつである。
――ふん、まぁいいのである。

「最近、英雄の娘どもが郊外で石化病の薬を配りまわっているようなのである」

「おや? 薬の買い占めはうまくいっていたはずでは?」

「――何やらが薬の材料を持ち込んだらしいのである」

「落人――ですか」

 思わず苦虫を噛み潰したような顔になってしまうのである。

「奴が英雄の娘どもと組んで、薬を作りまくっているのである」

「製薬のできる薬屋をつぶすことは?」

「奴らが製薬を頼んでいる相手は、数百年も生きていると噂の魔女――メデイアである。もしかするとあの英雄より手強いかもしれん」

「なるほど」

 なるほどじゃない、お前も少しは考えるのである。むぅ――きっかけは落人――である。

「――落人がいなくなれば、あの英雄の娘どもも諦めるかもしれん。諦めないなら、その時はいっそ落人と一緒に消してしまえばいい。――どうにかして街から誘い出せれば」

「そうですね。――近くの洞窟に三目熊がでたと噂を流すのはどうでしょう」

「それでは、冒険者どもも集ってしまうであろう?」

 我が渋い顔をしていると、ライオスが提案してきたのである。――が、何を馬鹿なことを言ってるのである。そんなことをすれば冒険者どもが群がって来てしまい、噂が嘘だとすぐにバレるのである。薬の素材集めのうち三目熊の瞳の採取が一番高額な報酬なのである。

「おっしゃる通りです。ただ――冒険者が洞窟に行ったまま帰ってこないなど、よくある事でございましょう?」

――こいつ、洞窟にくる冒険者を皆殺しにするつもりらしいのである。事もなげに言うライオスの言葉に、嫌な悪寒を感じた我は、全部こいつに任せることにしたのである。我は何にも知らないのである。

「ふむ。我は今の話、聞こえなかったのである。洞窟の三目熊のことも、それを捕りに行った冒険者どもに何か起きたとしても、我は知らないのである」

「――かしこまりました。では、早速、私は準備にかかります故失礼いたします」

「うむ」

 頷いて顔をあげると、もうそこにライオスの姿はなかったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隠し称号『追放されし者』が欲しい勇者はパーティーみんなに引き留められる(なおそんな称号はない)

なつのさんち
恋愛
パーティーの中で自分だけが極端に弱く、どうすれば強くなれるのか思い悩んでいる勇者。 パーティーメンバーである聖職者・戦士・魔法使いは勇者の近くにいると自身の能力が急激に引き上げられる事を知っている。 ある日王女から、パーティーから追放された初代勇者が突然強くなったという話を聞かされる。 「追放されれば強くなれる!」と思い込んだ勇者と、絶対に逃がすまいとするパーティーメンバーとのドタバタファンタジーコメディです。

目が覚めたら異世界?にいたんだが

睦月夜風
ファンタジー
普通の中学生の睦月夜風は事故で気を失い目が覚めたらさまざまな種族がいる世界神龍郷に来ていた

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...