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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ
はじまりの街は色んな意味で賑やからしいですよ1
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エウリュアと一緒にプロタトスの街まできた。辺境の街と言うが、かなり大きくて活気がある。
相変わらず言葉はわからないが、終始エウリュアがにこにこしてくれているので、道中はとても楽しいものだった。途中二回ほど野宿して、美味しい熊鍋を振る舞う。ここでも香草と辛みのある草が役に立ったので、目に見える範囲全部を取り尽くす勢いで採取していたらエウリュアに怒られた。――何故だ。
そんなことを考えながら街の門まで進むと、門の兵士らしき人物に止められ何かを出すよう手をだされる。そっと、手を乗せてワンと鳴いてみる。
「●△■●●!」
あ、やっぱり違うのね。言葉がわからないと不便だな。
エウリュアがその様子を見てちょっと考えると、兵士にコインを何枚か渡していた。
兵士とエウリュアは顔見知りらしく、兵士は頭をボリボリかきながらも俺を通してくれた。エウリュアに子供のように手を引かれて門を通り抜けるのは、ちょっと恥ずかしかった。
そのまま、エウリュアと手を繋ぎなから歩いていくと大きな建物にたどり着く。ずんずんと建物の中にはいるエウリュアに引っ張られる俺を、たくさんの男たちが凝視してきた。腰辺りのベルトや手元、足元には、短剣から片手剣、長大な斧や槍が輝いてる。
おいおい、こんなところで刃物出すとか、どんだけエウリュア人気者だよ?見ているのは男ばっかりだ。そして、俺はエウリュアと手をつないでいたんだ。鈍感バカ以外はすぐ気付く。
ちらほらいるおねーちゃんたちは、心配した顔でオロオロしてたり、ヤニヤしながら頬杖ついてたりしているが助ける様子は――一切ない。あー、女って怖いね。
エウリュアに引っ張られ、後ろ――エウリュアの向いてる受付?の方向に振り返るとナイフが飛んできた。何かの警告の意味だったのか俺にあたらない軌道だったが、わざわざ手を伸ばして空中で掴み――ポケットにしまう。ナイフゲットラッキー!
「■●▼▽▼▽▼▽▼▽ー!!!」
言葉がわからなくてもこれはわかる。殺気と怒号。盛大なブーイング。同級生のふにゃけた顔が脳裏に浮かぶ。冒険者ギルドで絡まれるのは異世界転移のテンプレだったっけ。
脳みそにアドレナリンが溢れてくるのがわかる。エウリュアもその前に座っている受付っぽいひょろい男も、状況に気付いたが青くなっているだけだ。俺はもう一度男どもの方へ振り向き、拳をつくって指をボキボキさせながらゆっくりとあるいていく。
その肩を大きな手で掴まれた。俺はかなり驚いたよ、全く気配を感じなかったんだから。
「○□△△△!」
静まれ――かな? 怒号をかき消すようなひと声で殺気まで霧散していく。振り返ろうにも肩に置かれた手が身動きをさせてくれない。ただし、殺気がないのもわかっているので、俺も変に抵抗しない。
エウリュアと何やら野太い声の女が二言三言話すと手が離された。振り向くと――さっきからくるくる回ってるな俺――俺の眼の前にごっついおっぱいがあった。肩幅は広く身長は――俺よりも頭ひとつ大きい。その顔は思ったより――いや、全然ゴツさなんてなく、優しそうな目で笑っていた。はっきり言って超がつくほどの美人だ。光沢のあるブルーの髪と驚くほどの白い牙が輝いている。
俺が惚けていると、エウリュアが俺の背中を押して、ギルドの奥にある部屋の中へと連れて行く。その様子を見てまた殺気立つ男共と、ガッハッハと豪快に笑い出すごつい美人。
俺達が部屋の中に入ると、美人は書類が山になった事務所机に座った。俺達は机の前にある長椅子に座る。俺達に美人が何やら訪ねてくるが、当然、俺には全くわからない。
エウリュアが事情を――多分、話してくれてると思う。美人が机の引き出しをごそごそ漁ると、一抱えもありそうな巻き貝を机の上に置く。さほど厚みのない引き出しからでてくるということは、俺の箱と同じような機能をもっているらしい。
「これで言葉がわかるでしょ。私は冒険者ギルドのマスターをやっている、カサンドラってものだ」
「うぉ、言葉がわかる! あ、いや、失礼しました。俺は時逆希望です。はじめまして」
俺は驚いて思わず叫んでしまう……が、失礼だったことを思い出し、頑張って敬語をつかう。完璧じゃないのは許して欲しい。
「おや? ホールの様子と違って意外と紳士じゃないか」
「あはは、そうでもないですよ」
殺気を受けるとアドレナリンが出て性格がかわる――なんて言えるわけもなく、ここは笑ってお茶を濁す。
「どうやら彼は落人のようなんです。身分証もないので冒険者登録をしようかと思って連れてきました」
エウリュアの唇と聞こえている言葉が噛み合わない以上、落人ってのはこの巻き貝が翻訳した言葉らしい。
「なるほど、言葉が通じないのもそのせいか」
納得したようなカサンドラと、俺のためにわざわざ連れてきてくれたエウリュアを交互に見渡し、俺は黙っていられずに聞いてみた。
「落人ってのはなんなんだ?……です?」
「言葉は楽にしていいよ。あたいもかしこまった言葉はなれないしね。……さて、落人のことだけど、まずはどこから話していこうか」
カサンドラは俺にわかるようできるだけ噛み砕いて話してくれた。
この世界には時折、こことは違う世界からやってきたとしか思えない知識、容貌の人たちが現れるそうだ。
最初に現れた落人は雲ひとつない青空から落ちてきたそうだ。その落人は魔王を倒し世界を救った勇者となった。以来、違う世界の人間を、落ちてきた人――落人と呼んでいるそうだ。ここ数十年現れなかったらしいけど、今でも何人かはこの世界で生きているそうだ。
落人は発見された地域で扱いが変わるそうだ。森に落ちて国王まで成り上がるものもいれば、国に使われて一生を過ごすものもいる。落ちた場所が悪すぎて世界を憎み、魔王に成り果てた者もいるらしい。
ここ、冒険者ギルドで落人を保護した場合は、身分証をあたえできるだけ自由に生きれるよう手助けすることになっているらしい。
「というわけで、早速身分証を作ろうと思うがどうだい?」
なるほど、身分証を作るかどうかも俺の意志に合わせてくれるのか。本気で自由にしていいみたいだな。
「お手数かけますが、よろしくお願いします」
俺はできるだけ感謝を込めて返事をした。
相変わらず言葉はわからないが、終始エウリュアがにこにこしてくれているので、道中はとても楽しいものだった。途中二回ほど野宿して、美味しい熊鍋を振る舞う。ここでも香草と辛みのある草が役に立ったので、目に見える範囲全部を取り尽くす勢いで採取していたらエウリュアに怒られた。――何故だ。
そんなことを考えながら街の門まで進むと、門の兵士らしき人物に止められ何かを出すよう手をだされる。そっと、手を乗せてワンと鳴いてみる。
「●△■●●!」
あ、やっぱり違うのね。言葉がわからないと不便だな。
エウリュアがその様子を見てちょっと考えると、兵士にコインを何枚か渡していた。
兵士とエウリュアは顔見知りらしく、兵士は頭をボリボリかきながらも俺を通してくれた。エウリュアに子供のように手を引かれて門を通り抜けるのは、ちょっと恥ずかしかった。
そのまま、エウリュアと手を繋ぎなから歩いていくと大きな建物にたどり着く。ずんずんと建物の中にはいるエウリュアに引っ張られる俺を、たくさんの男たちが凝視してきた。腰辺りのベルトや手元、足元には、短剣から片手剣、長大な斧や槍が輝いてる。
おいおい、こんなところで刃物出すとか、どんだけエウリュア人気者だよ?見ているのは男ばっかりだ。そして、俺はエウリュアと手をつないでいたんだ。鈍感バカ以外はすぐ気付く。
ちらほらいるおねーちゃんたちは、心配した顔でオロオロしてたり、ヤニヤしながら頬杖ついてたりしているが助ける様子は――一切ない。あー、女って怖いね。
エウリュアに引っ張られ、後ろ――エウリュアの向いてる受付?の方向に振り返るとナイフが飛んできた。何かの警告の意味だったのか俺にあたらない軌道だったが、わざわざ手を伸ばして空中で掴み――ポケットにしまう。ナイフゲットラッキー!
「■●▼▽▼▽▼▽▼▽ー!!!」
言葉がわからなくてもこれはわかる。殺気と怒号。盛大なブーイング。同級生のふにゃけた顔が脳裏に浮かぶ。冒険者ギルドで絡まれるのは異世界転移のテンプレだったっけ。
脳みそにアドレナリンが溢れてくるのがわかる。エウリュアもその前に座っている受付っぽいひょろい男も、状況に気付いたが青くなっているだけだ。俺はもう一度男どもの方へ振り向き、拳をつくって指をボキボキさせながらゆっくりとあるいていく。
その肩を大きな手で掴まれた。俺はかなり驚いたよ、全く気配を感じなかったんだから。
「○□△△△!」
静まれ――かな? 怒号をかき消すようなひと声で殺気まで霧散していく。振り返ろうにも肩に置かれた手が身動きをさせてくれない。ただし、殺気がないのもわかっているので、俺も変に抵抗しない。
エウリュアと何やら野太い声の女が二言三言話すと手が離された。振り向くと――さっきからくるくる回ってるな俺――俺の眼の前にごっついおっぱいがあった。肩幅は広く身長は――俺よりも頭ひとつ大きい。その顔は思ったより――いや、全然ゴツさなんてなく、優しそうな目で笑っていた。はっきり言って超がつくほどの美人だ。光沢のあるブルーの髪と驚くほどの白い牙が輝いている。
俺が惚けていると、エウリュアが俺の背中を押して、ギルドの奥にある部屋の中へと連れて行く。その様子を見てまた殺気立つ男共と、ガッハッハと豪快に笑い出すごつい美人。
俺達が部屋の中に入ると、美人は書類が山になった事務所机に座った。俺達は机の前にある長椅子に座る。俺達に美人が何やら訪ねてくるが、当然、俺には全くわからない。
エウリュアが事情を――多分、話してくれてると思う。美人が机の引き出しをごそごそ漁ると、一抱えもありそうな巻き貝を机の上に置く。さほど厚みのない引き出しからでてくるということは、俺の箱と同じような機能をもっているらしい。
「これで言葉がわかるでしょ。私は冒険者ギルドのマスターをやっている、カサンドラってものだ」
「うぉ、言葉がわかる! あ、いや、失礼しました。俺は時逆希望です。はじめまして」
俺は驚いて思わず叫んでしまう……が、失礼だったことを思い出し、頑張って敬語をつかう。完璧じゃないのは許して欲しい。
「おや? ホールの様子と違って意外と紳士じゃないか」
「あはは、そうでもないですよ」
殺気を受けるとアドレナリンが出て性格がかわる――なんて言えるわけもなく、ここは笑ってお茶を濁す。
「どうやら彼は落人のようなんです。身分証もないので冒険者登録をしようかと思って連れてきました」
エウリュアの唇と聞こえている言葉が噛み合わない以上、落人ってのはこの巻き貝が翻訳した言葉らしい。
「なるほど、言葉が通じないのもそのせいか」
納得したようなカサンドラと、俺のためにわざわざ連れてきてくれたエウリュアを交互に見渡し、俺は黙っていられずに聞いてみた。
「落人ってのはなんなんだ?……です?」
「言葉は楽にしていいよ。あたいもかしこまった言葉はなれないしね。……さて、落人のことだけど、まずはどこから話していこうか」
カサンドラは俺にわかるようできるだけ噛み砕いて話してくれた。
この世界には時折、こことは違う世界からやってきたとしか思えない知識、容貌の人たちが現れるそうだ。
最初に現れた落人は雲ひとつない青空から落ちてきたそうだ。その落人は魔王を倒し世界を救った勇者となった。以来、違う世界の人間を、落ちてきた人――落人と呼んでいるそうだ。ここ数十年現れなかったらしいけど、今でも何人かはこの世界で生きているそうだ。
落人は発見された地域で扱いが変わるそうだ。森に落ちて国王まで成り上がるものもいれば、国に使われて一生を過ごすものもいる。落ちた場所が悪すぎて世界を憎み、魔王に成り果てた者もいるらしい。
ここ、冒険者ギルドで落人を保護した場合は、身分証をあたえできるだけ自由に生きれるよう手助けすることになっているらしい。
「というわけで、早速身分証を作ろうと思うがどうだい?」
なるほど、身分証を作るかどうかも俺の意志に合わせてくれるのか。本気で自由にしていいみたいだな。
「お手数かけますが、よろしくお願いします」
俺はできるだけ感謝を込めて返事をした。
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