上 下
2 / 48
序章:箱の中身は最後の希望らしいですよ

箱の主が俺になったらしいですよ

しおりを挟む

 目が覚めると見たことのない天井だった。

「あ、起きた? おにーちゃん」

 可愛らしいが、やけにキンキンした声が響く。主に頭に。
 ぼーっとしたまま、声のする方を見ると、さきほどの少女が楽しそうに笑ってた俺を見てた。

「アタシ、おにーちゃんが自然に目を覚ますまで、無理に起こさないよう我慢して待ってたんだから! 偉いでしよー?」

 先程の夢の中とはあまりにも違う、妙に軽い雰囲気で話す少女に戸惑いながら、なんとかベッドから上半身だけ起こす。
 すると手に何か硬い感触。
 見ればあの小さな箱を握っていた。

「ねぇ?! ちゃんと聞いてるの? おにーちゃん?」

 ん? おにーちゃん? 俺に妹なんていたか?
 駄目だ、まだ頭がぼーっとする。
 思考がうまくまとまらない。
 とにかく頭を働かせないと。
 自分の名前くらいなら思い出せるはず。
 くらくらしながら必死に思い出す。

 俺の名前は、時逆 希望ときさか のぞむであってるはず。
 年齢は十七歳、高校三年。
 たしか空手部の部長をやってたはず。
 最後の記憶は夏休みの前日。終業式に行くために玄関のドアを開けたところ。
 両親は――健在。
 キレると怖い姉と乱暴物の弟はいるが――妹はいない。よし!

「俺に妹はいない。おまえは誰だ?」

 はっきりしてきた頭をふって問い返す。

「私はパンドラ! なんだ聞こえてるじゃないの。良かった良かった。譲渡失敗したのかと思ったよ」

「譲渡失敗? なんのことだ?」

 キンキン喚きまくるうるさい少女はパンドラと名乗った。
 夢の中とは違って色の派手さこそないが、露出多めの服と飛び出た大きな胸は夢にでてきたあの子と、おそらく同じ人物だろう。
 胸から目を逸らせず直視したままだったが、嫌な予感がするフレーズを俺は聞きの逃さずにすんだ。

「譲渡? 一体何のことだ?」

「その箱の譲渡だよ! そこにあるでしょ? うまくいったんだから安心してよね!」

 俺の視線に気づいたパンドラが、胸を隠し、いやーんと身をくねらせながら答えてくれた。

 ちょっとまて。
 名前がパンドラで持っていたのが箱ってまさか!?
 これ、パンドラの箱か?

 たしか、ゼウスって神がこの世の全ての厄災がつまった箱をパンドラにもたせて地上に派遣。
 地上についた彼女は箱を開けてしまう。
 そうして地上世界は厄災であふれかえってしまったって話のはずだ。
 そんな、神話の物があるわけない。

「その箱って元は壺だった?」

「お! さすがオタクのおにーちゃん。よく知ってるね。慌てて閉めたら箱になったの!」

「オタクじゃねぇよ。厄災娘!」

「ひっどーいwww」

 念の為のしつもんだったんだが――確定だ。
 パンドラの箱は、古い文献では箱じゃなくて壺だったそうだ。
 この少女ーーいや、見た目は少女のようだが、中身は俺よりずーっと年上だ。
 なにせ、地上最初の女だ。
 そして、厄災の詰まったーー壺? 箱? 面倒くさいから箱で統一しようーーを開けた張本人だ。

 厄災娘と言われたパンドラは、ひどーいと言いながらも、全くこたえた様子もなくケラケラと笑っている。

「予想ついてるだろうけど一応言っとくね。今、この時から、その箱はおにーちゃんの物になりました! パチパチパチパチィー」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

目が覚めたら異世界?にいたんだが

睦月夜風
ファンタジー
普通の中学生の睦月夜風は事故で気を失い目が覚めたらさまざまな種族がいる世界神龍郷に来ていた

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...