虎と僕

碧島 唯

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喫茶店の美味しいコーヒー

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 天気のいい日曜日、フリーマーケットに行くよと秋音と夏海に(ようするに、帰りの荷物持ち兼、荷物番)海の近くの会場へと、連れられて行くという事に、僕の知らない間に決まっていた。

 開場前なのにかなりたくさんの人が並んでいて、びっくりしていたら、そっちの列じゃないと手を引っ張られる。
 さっき見た列よりこじんまりとした列があって、並んでいるのは皆ショッピングカートや大きいカバンを持っているのが見て取れた。
「入場までまだ時間があるからお茶でも飲もうか」
 腕時計を見るとまだ十時になるかならないかで、返事を待たずに夏海と秋音がすたすたと喫茶店を目指して歩いていた。
 夏海と秋音はこんな時のチームワークはとてもいい。

 後から少し離れて見ると、夏海はピンクのノースリーブのワンピースに肩にレースみたいなスカーフみたいなのがかかっていて、秋音は両肩が出て胸の上から腹巻みたいな……なんていうんだろう、携帯で画像検索してみるとチューブトップと出てきた。
 へぇ、そういう名前なんだ、それにGパンで、こうしてみるとまったく系統の違う服装で、それは二人の性格の違いを現してるみたいだった。
 
 一人残された僕に気付いたのか、夏海と秋音が手を振って、数メートル先で待ってくれているのに慌てて走り出す。
「人が多いんだからぼーっとしてちゃだめじゃない」
「ああ、気をつける。
 さっきのすごい列って何?
 あれもフリーマーケットじゃないの?」
 僕が言うと夏見がチラシを眺めてこれかな、と指を差す。
「なんかね、ライブらしいねぇ。
 あれ、違うかな?」
 チラシを貸してもらって注意事項として書かれているのを読んでみる。

【近くでは別のイベントも開催されていますので間違わないよう気をつけてください。尚、別のイベントは大変人数が多く混雑が予想されますので、お帰りの際には、切符を事前に購入しておくとよいでしょう】

「イベント、としか書いてないみたいだな。
 夏姉、なんでライブって思ったんだ?」
 何故ライブだと思ったのか聞こうと顔を上げるとちょうどなんとかちゃんラブとかなんとかちゃん親衛隊とかハートマークが大きく背中に書かれたピンクのハッピの男の集団が目に入った。
「……ああ、分かった。
 アイドルか何かのライブなんだろうなぁ」
 よくよく見ると、紙袋からはみ出たウチワらしきものや、ペンライトを握り締めている人が大勢列に並んでいた。
「……すごいねー」
 漸く秋音が口にしたのは列の長さか、並んでいる人たちの格好なのかは分からなかった。

「フリーマーケットの方はのんびりしてていいの?」
 喫茶店の入り口で聞いてみる。
「十一時開場だからねぇ、早く来過ぎたのよ。
 モーニングまだやってるみたいだから食べる?」
「あ、うん」
 店の隅にあつた四人掛けの席に座り、三人ともモーニングのホットコーヒーを頼む。
 奥の椅子に夏海が座り、秋音がその横、僕が秋音の前だ。
 コーヒーが自慢らしく、いい匂いがする。
「あ」
 カウンターの奥にあった水出しコーヒーの装置に思わず声が出た。
「うわぁ、アイスコーヒーにすればよかった」
「今からでも大丈夫じゃない?」
 迷っていると、注文のモーニングの皿が先に来て、厚切りトーストとミニサラダがテーブルに乗せられる。
「あの、ホットをアイスにってまだいけますか?
 あの水出しコーヒーの装置見たら飲みたくなっちゃって」
 おそるおそる、白いフリルのついたエプロンをした店員さんに聞いてみると、にっこり笑って、いいですよ、と言ってくれたので、それに甘えることにした。
 そして、ホットコーヒーが二つ、遅れてアイスコーヒーが一つテーブルに来る頃には僕のトーストはすっかりお腹の中に消えてしまっていた。
「ん~っ、美味しいっ」
 水出しのアイスコーヒーは、香りも、味も最高だった。
 舌触りのまろやかなアイスコーヒーには酸味も苦味もなく、時間をかけて抽出した水出しだからこその旨みと香りで、なのにどうして日曜だというのに客が少ないんだろう? と周りを見渡してみる。

 シックなこげ茶纏められたテーブルと椅子、緑が綺麗な観葉植物もあちこちにあって、音楽も流行のアイドルとかじゃなく、クラシックだろうか、僕には分からないけど落ち着いた曲が流れていた。
 まさに癒しの空間を実現したような店内。

「こんなに美味しいのになぁ」
 エプロンの店員さんも可愛い女の人で、店のマスターも、こう、年配の落ち着いた渋い雰囲気を出していて、がんこ親父の店だから足が遠のくという感じはしない。
 どちらかといえば、馴染みの常連さんがいつも何人か居るといった店内こそが、この店には似合いそうな……。
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