虎と僕

碧島 唯

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 神社の子狐――3

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 石の場所まで来ると、道の端というよりは道の端を起点に同じような石が草っ原に点在していて、なんだか環状列石が思い起こされる。
 まぁ、思い浮かんだだけで、この石は座っても別に遺跡じゃないし構わないよな。
 随分歩いたような気もするし、休憩だ、休憩と石に腰を下ろす。
「まぁ、そんなものだったら、もっと大きいよなぁ?」
 思っていた事が口に出たらしく、僕の頭から石の上に降りた子狐が僕を見上げていた。
『何が、なのです?』
「あ、いや……ごめん、口に出てた?」
『はい、大きいのは何がです?』
「外国にある遺跡とかそういうのを思い出してつい、口に出ちゃったみたいだから気にしないでいいよ」
『ガイコク……行ったことあるです?』
 見上げる瞳が興味津々のように見えて、つい、伸びた手が子狐の頭を撫でてしまう。
 ああ、やっぱり柔らかくてふかふかだぁ。
「僕はまだ無いけど、うちの父さんと母さんは何度も行ってるな、今もなんだけど」
 次に帰国するのはいつなんだろう、と赴任中の父さんと付いていった母さんを思い浮かべる。
「ふーゆーきー」
 父さんと母さんのことを思い出していたら、僕の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「おぉーい、ふーゆーきー」
 あれ? 今、想像じゃなく、僕を呼んだのは誰だ?
 空耳じゃなく、本当に呼ばれてる。
 振り返ると、台所でコーヒーを飲んでたはずの秋音が手を振っているのが見えた。
「え?
 秋姉、なんで……?」
 タンクトップとミニスカートの秋音が軽快に走って来るのが、見間違えようもなくはっきりと目に入った。
 どこに散歩に行くかとか言ってこなかったのに、なんでだ?
 まさか神社の中の悪霊とかそういったものが化けて……るにしてはそっくりすぎる。
『きゃ、何するですぅー?』
 子狐を頭の上にぽいっとに放り投げて乗せると、立ち上がって秋音に向かって歩き出す。
 だが、秋音のスピードが増して、何だが足元に砂煙が立っているように見えるのはなぜなんだろうな、夏の蜃気楼なんだよ、きっと。
「冬樹―」
 あっという間に僕の目の前まで来たなとか思った瞬間、秋音が両手を伸ばして抱きついて来た。
 両手が背中に回され、しっかりホールドされて、秋音の肩に僕の顎がガツンと当たって痛い。
 ついでに言えば、ぎゅーっと抱き締められて苦しい。
『どなた様です?』
 子狐が頭の上で振り落とされないように髪の毛にしがみついていて、引張られてちょっと痛い。
 ……後々ハゲたりしないといいんだけど。
「やったー、追いついたー」
 腕に力を込めながら嬉しそうに言われるものの、そろそろ肺が潰れそうで、息が苦しくなってきた。
「秋……姉……、くるし…………」
 肺の空気がそろそろ限界、というところで秋音の肩を叩くと、漸く腕を離してくれて新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。
「ところで、何でここだって分かったんだよ?」
「なんとなく?
 こっちに来たら冬樹が居るような気がしてさー、大当たりだったみたい」
 感が当たったとばかりに嬉しそうに言う秋音に、そういえばこの人はテストのヤマとかも勘でばっちり当てたりしてたなぁ……、そういう感は鋭いのに、なんで視えないんだろう。
「へー、こんな所にお稲荷さんがあったんだー。
 なんか渋い? いや、寂れた? まぁ、いっか。
 せっかくだし、お参りしていこーよ、おみくじあるといいなー」
 いや、さすがにおみくじは無いだろう、売る人が居ないんだから。
 ああ、もうっ、ミニスカートでそんな大股開きで階段を勢いよく上るんじゃない!
 スカートの中が見えそうで、たとえ姉でも目のやり場に困るってば!
 人の気も知らないでのほほんと神社の中に入って行く秋音の背中を見ると、タンクトップの背中に泥が付いて──いや、泥っぽい色の霊がくっついていた。
 その泥がうねうねと背中を上っていくのが、ちょっとは何か感じたのか背中を掻く秋音。
 カリカリと背中を掻くとタンクトップが捲くれあがって背中がちらりと見える。
 さすが夏だ、タンクトップの下は素肌で、夏でも焼けない部分の白さが眩しかった。
 視線を逸らしてから戻すと、秋音の背中にはもう何もついてなくて、どこかに行ったのか、はたまた──考えるとちょっと怖いけど──カリカリしてた爪でこそぎ落としたのかは分からなかった。
 秋音になのか、僕になのか、子狐──もとい、本来の神社の主──になのか、鳥居の下辺りまでわらわらといろんなモノが集まって来ていた。
 黒っぽい影のようなモノとか、鳥だか獣だか分からないようなモノとか、人間の身体の部品みたいなモノとか、本来ならこんな場所には有り得ないようなモノがうようよとしていて、思わず視線を逸らす。
「うわぁ……なんていうか……見たくねーぞって感じ」
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