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罪と悪
しおりを挟む 祐輔を見送った麗子は、リビングに戻り、夕食は鍋にしよう、と言った。
「お鍋は、確かここに……」
踏み台を持ち出し、吊り戸棚の上を探し始めた。
「危ないじゃないか!」
俺は思わず、麗子を抱きしめた。
「大丈夫だよ」
「ダメだ。どこにあるんだ? 俺が探してやるから」
麗子は少し笑って、吊り戸棚の奥じゃないかと言った。一度か二度使っただけの土鍋は、ダンボールのケースに入っていた。
「これか?」
「ああ、それ。あんまり使わないから、どこに置いたかすぐに忘れちゃう」
「こういうことは、俺に言えよ。大事な体なんだから」
「ありがとう。でも、いつも直輝を待ってたら、何にもできないわ」
「……できるだけ、家にいるから」
「そういう意味じゃないよ。私もママになるんだもん。しっかりしないとって意味」
麗子は、まな板を出して、野菜を切っている。楽しそうに、幸せそうに、今日あったことを、笑いながら、話している。
「でね、村井さん、ナゲットのソースを開けようとしてね、ふふっ、ソースが顔に飛び散っちゃってさ」
だから俺も、麗子と話していると、一緒にいると、自然に、楽しくなる。いつの間にか、笑っている。
「あいつ、そういうとこあるんだよ」
「そうだよね、意外に、不器用なんだよね」
「何か、しようか?」
「あー、じゃあ、鶏肉、切って。私、お肉切るの、苦手なの」
麗子はまな板を空け、豆腐やマロニーを洗い始めた。
「いいよ。俺、鶏、バラせるんだぜ?」
「ホントに? すごい!」
「大学時代は山岳部だったんだ。アウトドアどころか、野営、してたから」
「へえ! ね、赤ちゃんが生まれたら、みんなで山登り行こうよ」
「ああ、そうだなあ。もう何年も登ってないな」
「楽しみー」
俺達は、並んで、笑いながら、生まれてくる子供と、これからの家族の話をしながら、鍋の準備をした。こんなこと、初めてだ。こんなに、俺の隣で、本当の俺のことを、楽しそうに見る女は、初めてだ。
高校生の頃、クラスメイトの女の子に告白されて、つきあったことがあった。初めてのキスも、セックスも、その子とした。でも、俺は山と、図書館と、教会にしか出かけたことがなくて、彼女を楽しませては、やれなかった。彼女はつまらない、と言って、他の男のところへ行ってしまった。
その後も、何人かの女の子が俺に想いを打ち明けてくれて、俺はそのたび、その子を恋人にした。でも、結局、俺の恋人達は、俺をつまらないと言って、俺の元からいなくなった。
大学に入学した俺は、変わろうと『努力』をした。飲みたくもない酒を飲み、吸いたくもない煙草を吸い、騒々しい油臭い居酒屋で、誰かと騒ぎ、愛してもいない女と、愛のないセックスをした。全く、虚無感しか起こらない生活に、俺は疲れ果て、やはり山に登り、教会で祈り、本を読み、空いている時間は、誰かを救うために使う、つまらない生活に戻った。つまらない男だと、自分でもわかっている。それでも、俺はもう、それでよかった。自分を偽らないことで、俺は俺を愛し、救われていた。
「ね、チュウ、して」
麗子は鶏肉で手がベタベタになった俺に、ちょっとおどけて、唇を突き出した。
「今?」
「うん」
キスをしようとした俺の視界にふと、祐輔が残したお茶の入った、マグカップがよぎった。
「ダメ」
「えー、どうして?」
「うがい、してないから。インフルエンザ、あったら大変だろ?」
麗子は、つまんない、と拗ねた顔をした。
「村井、よく来るのか?」
「今日はたまたま。ちょっと用があって電話したら、近くにいるからって、お買い物につきあってもらったの」
祐輔は、この部屋を見て、どう思ったのだろう。会議がなくなって、祐輔の部屋ではなく、ここに帰って来た俺を、どう思ったのだろう。
「お前の世話は、女の子の秘書をつけるよ」
「え? どうして?」
「村井は、男だから」
「村井さんのこと、信用してないの? ひどい、それ」
「そうじゃなくて……俺のいない時に、男が出入りするのは、その、誤解されるかもしれないだろ」
「まあ、それも、そうね」
そんなことは、どうでもいい。俺はこれ以上、祐輔を傷つけることは、したくない。
「……時々、そんな顔するね」
隣で、麗子が寂しそうな顔をしている。麗子には、俺の心の中が見えているんだろうか。
「何か悩み事があるなら、話して欲しいな」
「ごめん、なんでもないんだ」
「ウソ」
「着替えてくるよ。うがいも、してくる」
俺は手を洗って、麗子の髪に軽くキスをして、その場から逃げ出した。俺は、逃げている。麗子からも、祐輔からも……俺は、どうしたらいいんだろう。どうすれば、誰も傷つかないんだろう。ポケットの中の十字架は、少し冷たくて、俺はただ、それを握りしめて、祈ることしかできない。
「何を、祈ってるの?」
気がつくと、寝室のドアが開いていて、麗子が立っていた。
「俺達の、幸せを」
「どこにも、行かないよね?」
麗子……お前は、わかっているのか? 俺が何を考えているのか、俺が何を隠しているのか……何を祈っているのか。
「私も、お祈りしていい?」
「一緒に、祈ろう」
俺達は一つの十字架を、二人で握りしめて、目を閉じて、祈りを捧げた。俺はもう、麗子を愛していた。偽りでも、芝居でも、祐輔のシナリオでもなく、本当に、麗子という妻を、愛している。
「あ……」
「どうした?」
「今、なんか……動いたかも」
俺は慌てて、麗子の腹に手を当てた。
「ほんとに?」
「あっ、ほら、また」
微かに、俺の手に、何かが動く感触があった。
「わかった?」
「うん……動いたな」
俺は麗子の手を取って、十字架と、その母親になる妻の手と、父親になる自分の手を、まだ見えないけれど、確かに生きているその子に、重ねた。
俺は、罪人。嘘に塗れた、罪人。こんな罪人に、親になる資格など、あるのだろうか。
「ねえ、私ね、女の子のような気がするの」
こんな罪人に、こんなに純粋で、こんなに素直で、やっと悲しみから逃れることを許された女を、愛する、いや、愛される資格が、あるのだろうか。
「女の子は、パパに似るんだって。なら、絶対美人よね」
麗子は、痛々しいほど、無理に笑っている。俺に、悲しい顔を見せまいと、必死で、笑っている。
「麗子……」
「家族に、なるんだよね……」
俺は、どこまでも、罪を重ねる。
「家族に、なるんだよ」
「……大切な人が、いるんだよね……」
神よ、私に、全ての悲しみを私に背負わせてください。
「お前だけだよ」
罰を受けるべきは、私です。
「愛してる?」
「愛してるよ。麗子、お前だけを、愛してる」
俺はいつも、思う。こうやって、麗子を抱く夜を、祐輔はどう過ごしているんだろう。一人きりのベッドで、どう過ごしているんだろう。
初めて会った祐輔は、少し長い髪を金色に染めて、度のきつい眼鏡をかけた、痩せた、色白の、まるで近未来から来たかのような、バーチャルチックな青年だった。
「ここ、よろしいですか」
ガラ空きのカフェテリアで、祐輔は俺のテーブルに座った。変な奴、と、俺は読んでいた本から少し視線を上げ、どうぞ、と彼のためにスペースを作った。
「いつも、本を読んでおられますね」
どこで、俺を見ていたのかはわからない。俺は彼を初めて見たけど、彼は俺をずっと見ていたようだ。
「情報科学部の、村井祐輔と申します」
「……野間直輝、です」
「二回生ですよね?」
「はあ」
「僕は一回生です」
俺達は不思議な自己紹介を終え、そのまま黙ってランチセットを食べた。
「野間さん」
「なんでしょうか」
「はっきり、申し上げます」
「はあ」
「僕は、男性ですが、男性としか、恋愛が、できません」
突然、何を言うのかと思ったけど、なぜか、その時の俺は、全く驚かなかった。
「そうですか」
「野間さんは、どうですか」
「えーと、俺は……あまり、恋愛自体に興味がないので……」
「今、恋人はいらっしゃいますか」
「いない、かな」
「僕を、恋人にしていただけませんか」
話の流れから、そういうことかとは、予想できていた。
「すぐに、とは言いません。しばらく、僕と友人として付き合い、その後、判断していただければ結構です」
祐輔は、淡々と、まるで何かの数式を読み上げるかのように、一語一句、正確に、愛の告白をした。
「なぜ、俺なの?」
「本を読む姿が、あまりに、崇高でしたので」
変な奴。本日二度目、変な奴。
「僕の、理想の男性なんです」
「俺の、何を知っているの?」
「野間直輝さん。文学部の二回生、趣味は読書、クリスチャンで、休日は登山か教会か、ボランティア。面白味がないと理由で、半年前に、ひと月だけ交際した女性に失恋、というところで、どうでしょう」
「それのどこが、君の理想なわけ?」
「僕は俗的なことが、嫌いなんです」
俺は祐輔の、痩せた首と手と、少し傷んだ金髪を見た。どきついレンズの向こうの瞳は、悲しみが溢れ、孤独と絶望に染まっている。何が、そんなに彼を悲しませているのだろう。彼は何に、そんなに絶望しているのだろう。
「孤独、なんだね」
俺のその言葉に、祐輔は、ポロポロと涙を流した。拭うでもなく、俯くでもなく、彼は俺を見つめたまま、涙を流している。
「君の孤独が埋められるなら、俺はそれで幸せだよ」
その時の俺は、本心から、そう思った。本当に、祐輔を、悲しみから、救いたかった。
「今日さ、村井さんのメガネとったとこ、初めて見た」
「なんで?」
「ナゲットのソースが飛んだ話したじゃん。メガネについたの、ソースが」
俺は膨らみかけた、麗子の腹を撫でながら、時々キスを交わしながら、麗子の話を聞いていた。
「見たこと、ある?」
「まあ、そりゃ、時々はな」
「意外にいけてて……かっこよくて、ビックリした」
確かに、祐輔は眼鏡をとると、随分印象が違う。普段はクールな、というより、冷淡なビジネスマンだけど、素顔の彼は、ずっと少年ぽくて、ユニセックスなオーラを出している。
「コンタクトにしたらって、言ったの。絶対もてるのに」
「そうだなあ」
祐輔は、自分の容姿が嫌いだと言う。痩せていて、色白で、細長い体が貧相で、俺の筋肉質で、小麦色の体が、羨ましいと言う。初めてキスをした時も、初めてセックスをした時も、祐輔は、僕を見ないでくれ、と悲しげに言った。なぜ、祐輔はそんなに自分を嫌うのだろう。麗子が言うとおり、醜いわけでもなく、美少年の部類に入るはずなのに。
「いけてる、って、ダメなの?」
「うん?」
「村井さんに、そんな言葉使いはそろそろやめなさいって、怒られちゃった」
「そうか。あいつは、俗語が嫌いなんだよ」
「ふうん。ねえ、次は、俗語が嫌いじゃない人にしてね。もう何か言うたびに怒られてたらストレス溜まっちゃう」
「村井は村井で、お前のことを考えてるんだ」
人は、それを同情というかもかれない。たとえそうでも、何がいけないんだ。苦しみ、悲しみに悶える誰かを救うことは、人の使命ではないのか。
「僕達の関係は、秘密にしておきたい」
「なぜ。別にいいじゃないか。俺達は愛し合ってるんじゃないのか?」
「俗的な人間には、僕達の崇高な愛が理解できないんだよ」
俺は、祐輔を、男だとか、女だとか、そんなことはどうでもよく、ただ、『村井祐輔』という一人の人間として、彼を愛していた。だから、俺達の愛を知られることに恐怖はなかったし、羞恥もなかった。だけど、祐輔はそうではなかった。彼は世間と距離を置き、俺以外の人間とは、一切の関わりを持たずにいた。彼は相変わらず孤独で、悲しみに溢れた目で、分厚いレンズの奥から、『俗世』を淡々と眺めていた。
「ねえ、村井さんって、どんな学生だったの?」
「そうだなあ。成績は良かったらしいな」
「へえ、そうなんだ。頭、良さそうだもんね。私なんて、毎年単位ギリギリでさ、よく卒業できたって、みんなに言われた」
「でも、CAになれたんだろ? すごいじゃないか」
「CAは、子供の頃からの夢だったの。勉強は大嫌いだったけど、英語だけは、がんばったかな」
夢。俺はある夜、祐輔に、夢を語る。大金持ちになって、世界中の困っている人を、助けたい。それは、麗子のような、明確な『夢』ではなく、言うなれば、小学生が、立派な人になりたい、なんていう、漠然とした、なんの現実性もない、ただの『夢』。
俺は、成績も普通で、文学部といいながら、熱心に学んだのは哲学と宗教学だけで、三回生になっても、皆のように、就活にも身が入らず、できれば、どこかの山小屋でハイカーガイドか、古書を扱う店で本に埋れて生活できれば、それでいいと思っていた。なんならもう、大学も辞めようと思っていた。それくらい俺は、金とか、生活とか、そんなものに興味のない、人間だった。
「僕が叶えてあげるよ」
祐輔はそう言って、黙々と何かを始めた。その頃はもう、俺達は一緒に暮らしていて、八畳のワンルームで、俺達だけの世界で暮らしていた。毎日、祐輔は何台かのパソコンに向かい、何かをしている。俺にはさっぱりわからない。何をしているのかと聞いても、祐輔は、君はただ、僕を信じてくれればいい、と言うだけだった。
「髪を切りに行こう」
祐輔は俺を、オシャレな美容室へ引っ張って行き、勝手にオーダーして、俺の髪型を、まるでモデルか俳優のように変えてしまった。
「これを着て、写真を撮るよ」
祐輔が買ってきた服は、俺が今まで着たことのない、着ようと思ったこともない、薄いピンクのポロシャツに、白いパンツ。首にはゴテゴテしたネックレスをかけ、手首には高そうな時計。
「時計はレンタルだからね。傷つけないでよ」
俺を写真部の部室へ連れて行き、俺は見合い写真でも撮られているのか、という勢いで、無理な笑顔の写真を何枚か撮られ、違う衣装で、本を読んでいるところだとか、山に登るロケまでして、何枚も写真を撮った。
「しばらくは、これでいいな」
パソコンの画面の中には、ピンクのポロシャツを着た、どうみてもナンパな男がいる。
「これ、何?」
「君のFacebookとインスタグラム」
プロフィールページには、『オフィスノマ 代表』と書いてある。
「代表?」
「そう、君は社長なんだよ」
「何の?」
「人材派遣会社の」
祐輔は、知らない間に、俺を社長にして、起業していた。
「ちょっと……俺には、そんなことできないよ」
「君は何もしなくていいんだ。全て僕がやる。ただ君は、僕のシナリオ通りに、振舞ってくれれば、それでいい」
「大学の時に、起業したんでしょ?」
「え? ああ、そうだな」
「すごいねえ」
俺は別に、すごくない。全ては祐輔の力で、シナリオ。俺はただ、祐輔の書いたシナリオ通りに、振舞ってきただけ。
俺はそれに、ずっと罪悪を感じていた。俺は世間を欺き、祐輔を陰に埋らせている。そして、祐輔のシナリオは、『俗的』で、俺は、そのシナリオに、葛藤していた。でも、やめられなかった。金とか、地位とか、そんなものではなく、俺は、何かに成功するたび、会社が大きくなるたび、嬉しそうに、満足そうに笑う、祐輔が、嬉しかった。いつしか祐輔の目からは悲しみが消え、孤独が消え、絶望は希望に変わり、俺はただ、俺が祐輔のシナリオを演じることで、祐輔が救われるなら、それでいい、祐輔が幸せなら、それで構わなかった。だから、俺は、精一杯、祐輔のシナリオを演じた。この十年、俺はずっと、演じてきた。俺はずっと、自分を欺き、世間を欺き、祐輔を欺いている。成功を喜んでいる振りをして、祐輔を欺いてきた。俺は嘘でしかない。本当の俺は、もうどこにもいない。
そしてまた、俺は……
「何を、考えているの?」
麗子は、恐れている。俺が、いや、死んだ恋人が、彼女を置き去りにしたように、また俺が、彼女を置き去りにするのではないかと。
「また、悲しい顔、してる」
話してしまいたい。俺の真実を。麗子なら、俺を受け入れてくれるかもしれない。この罪から、俺を救ってくれるかもしれない。
「あなたのこと、全部知りたいの」
そっと抱き寄せると、麗子の膨らんだ腹が、俺の腹に触れた。
「この子のためにも」
この子のために……父親になるために、俺は……
「別れたんだ」
「別れた?」
「本当は、ずっと、恋人がいた」
「大切な、人?」
「大切だった」
「……どうして、その人と一緒にならなかったの?」
麗子は、同じことを聞いた。初めてこのベッドで抱きしめた時と、同じことを。
「心が、離れてしまったから」
ふと見ると、麗子は、泣いていた。
「なぜ、泣く?」
「あなたの心が、泣いているから」
麗子は、俺のために、泣いていた。もうこれ以上、麗子を苦しめることはできない。これでいい。これが、最後の嘘だ。この嘘で、麗子は、救われる。
「でも今は、お前がいて、子供もいる」
「私で、いいの?」
「お前が、いいんだ」
俺は、地獄へ落ちる。俺はもう、許されない。俺の罪は、死んでも償えない。
「幸せになろう、麗子」
「お鍋は、確かここに……」
踏み台を持ち出し、吊り戸棚の上を探し始めた。
「危ないじゃないか!」
俺は思わず、麗子を抱きしめた。
「大丈夫だよ」
「ダメだ。どこにあるんだ? 俺が探してやるから」
麗子は少し笑って、吊り戸棚の奥じゃないかと言った。一度か二度使っただけの土鍋は、ダンボールのケースに入っていた。
「これか?」
「ああ、それ。あんまり使わないから、どこに置いたかすぐに忘れちゃう」
「こういうことは、俺に言えよ。大事な体なんだから」
「ありがとう。でも、いつも直輝を待ってたら、何にもできないわ」
「……できるだけ、家にいるから」
「そういう意味じゃないよ。私もママになるんだもん。しっかりしないとって意味」
麗子は、まな板を出して、野菜を切っている。楽しそうに、幸せそうに、今日あったことを、笑いながら、話している。
「でね、村井さん、ナゲットのソースを開けようとしてね、ふふっ、ソースが顔に飛び散っちゃってさ」
だから俺も、麗子と話していると、一緒にいると、自然に、楽しくなる。いつの間にか、笑っている。
「あいつ、そういうとこあるんだよ」
「そうだよね、意外に、不器用なんだよね」
「何か、しようか?」
「あー、じゃあ、鶏肉、切って。私、お肉切るの、苦手なの」
麗子はまな板を空け、豆腐やマロニーを洗い始めた。
「いいよ。俺、鶏、バラせるんだぜ?」
「ホントに? すごい!」
「大学時代は山岳部だったんだ。アウトドアどころか、野営、してたから」
「へえ! ね、赤ちゃんが生まれたら、みんなで山登り行こうよ」
「ああ、そうだなあ。もう何年も登ってないな」
「楽しみー」
俺達は、並んで、笑いながら、生まれてくる子供と、これからの家族の話をしながら、鍋の準備をした。こんなこと、初めてだ。こんなに、俺の隣で、本当の俺のことを、楽しそうに見る女は、初めてだ。
高校生の頃、クラスメイトの女の子に告白されて、つきあったことがあった。初めてのキスも、セックスも、その子とした。でも、俺は山と、図書館と、教会にしか出かけたことがなくて、彼女を楽しませては、やれなかった。彼女はつまらない、と言って、他の男のところへ行ってしまった。
その後も、何人かの女の子が俺に想いを打ち明けてくれて、俺はそのたび、その子を恋人にした。でも、結局、俺の恋人達は、俺をつまらないと言って、俺の元からいなくなった。
大学に入学した俺は、変わろうと『努力』をした。飲みたくもない酒を飲み、吸いたくもない煙草を吸い、騒々しい油臭い居酒屋で、誰かと騒ぎ、愛してもいない女と、愛のないセックスをした。全く、虚無感しか起こらない生活に、俺は疲れ果て、やはり山に登り、教会で祈り、本を読み、空いている時間は、誰かを救うために使う、つまらない生活に戻った。つまらない男だと、自分でもわかっている。それでも、俺はもう、それでよかった。自分を偽らないことで、俺は俺を愛し、救われていた。
「ね、チュウ、して」
麗子は鶏肉で手がベタベタになった俺に、ちょっとおどけて、唇を突き出した。
「今?」
「うん」
キスをしようとした俺の視界にふと、祐輔が残したお茶の入った、マグカップがよぎった。
「ダメ」
「えー、どうして?」
「うがい、してないから。インフルエンザ、あったら大変だろ?」
麗子は、つまんない、と拗ねた顔をした。
「村井、よく来るのか?」
「今日はたまたま。ちょっと用があって電話したら、近くにいるからって、お買い物につきあってもらったの」
祐輔は、この部屋を見て、どう思ったのだろう。会議がなくなって、祐輔の部屋ではなく、ここに帰って来た俺を、どう思ったのだろう。
「お前の世話は、女の子の秘書をつけるよ」
「え? どうして?」
「村井は、男だから」
「村井さんのこと、信用してないの? ひどい、それ」
「そうじゃなくて……俺のいない時に、男が出入りするのは、その、誤解されるかもしれないだろ」
「まあ、それも、そうね」
そんなことは、どうでもいい。俺はこれ以上、祐輔を傷つけることは、したくない。
「……時々、そんな顔するね」
隣で、麗子が寂しそうな顔をしている。麗子には、俺の心の中が見えているんだろうか。
「何か悩み事があるなら、話して欲しいな」
「ごめん、なんでもないんだ」
「ウソ」
「着替えてくるよ。うがいも、してくる」
俺は手を洗って、麗子の髪に軽くキスをして、その場から逃げ出した。俺は、逃げている。麗子からも、祐輔からも……俺は、どうしたらいいんだろう。どうすれば、誰も傷つかないんだろう。ポケットの中の十字架は、少し冷たくて、俺はただ、それを握りしめて、祈ることしかできない。
「何を、祈ってるの?」
気がつくと、寝室のドアが開いていて、麗子が立っていた。
「俺達の、幸せを」
「どこにも、行かないよね?」
麗子……お前は、わかっているのか? 俺が何を考えているのか、俺が何を隠しているのか……何を祈っているのか。
「私も、お祈りしていい?」
「一緒に、祈ろう」
俺達は一つの十字架を、二人で握りしめて、目を閉じて、祈りを捧げた。俺はもう、麗子を愛していた。偽りでも、芝居でも、祐輔のシナリオでもなく、本当に、麗子という妻を、愛している。
「あ……」
「どうした?」
「今、なんか……動いたかも」
俺は慌てて、麗子の腹に手を当てた。
「ほんとに?」
「あっ、ほら、また」
微かに、俺の手に、何かが動く感触があった。
「わかった?」
「うん……動いたな」
俺は麗子の手を取って、十字架と、その母親になる妻の手と、父親になる自分の手を、まだ見えないけれど、確かに生きているその子に、重ねた。
俺は、罪人。嘘に塗れた、罪人。こんな罪人に、親になる資格など、あるのだろうか。
「ねえ、私ね、女の子のような気がするの」
こんな罪人に、こんなに純粋で、こんなに素直で、やっと悲しみから逃れることを許された女を、愛する、いや、愛される資格が、あるのだろうか。
「女の子は、パパに似るんだって。なら、絶対美人よね」
麗子は、痛々しいほど、無理に笑っている。俺に、悲しい顔を見せまいと、必死で、笑っている。
「麗子……」
「家族に、なるんだよね……」
俺は、どこまでも、罪を重ねる。
「家族に、なるんだよ」
「……大切な人が、いるんだよね……」
神よ、私に、全ての悲しみを私に背負わせてください。
「お前だけだよ」
罰を受けるべきは、私です。
「愛してる?」
「愛してるよ。麗子、お前だけを、愛してる」
俺はいつも、思う。こうやって、麗子を抱く夜を、祐輔はどう過ごしているんだろう。一人きりのベッドで、どう過ごしているんだろう。
初めて会った祐輔は、少し長い髪を金色に染めて、度のきつい眼鏡をかけた、痩せた、色白の、まるで近未来から来たかのような、バーチャルチックな青年だった。
「ここ、よろしいですか」
ガラ空きのカフェテリアで、祐輔は俺のテーブルに座った。変な奴、と、俺は読んでいた本から少し視線を上げ、どうぞ、と彼のためにスペースを作った。
「いつも、本を読んでおられますね」
どこで、俺を見ていたのかはわからない。俺は彼を初めて見たけど、彼は俺をずっと見ていたようだ。
「情報科学部の、村井祐輔と申します」
「……野間直輝、です」
「二回生ですよね?」
「はあ」
「僕は一回生です」
俺達は不思議な自己紹介を終え、そのまま黙ってランチセットを食べた。
「野間さん」
「なんでしょうか」
「はっきり、申し上げます」
「はあ」
「僕は、男性ですが、男性としか、恋愛が、できません」
突然、何を言うのかと思ったけど、なぜか、その時の俺は、全く驚かなかった。
「そうですか」
「野間さんは、どうですか」
「えーと、俺は……あまり、恋愛自体に興味がないので……」
「今、恋人はいらっしゃいますか」
「いない、かな」
「僕を、恋人にしていただけませんか」
話の流れから、そういうことかとは、予想できていた。
「すぐに、とは言いません。しばらく、僕と友人として付き合い、その後、判断していただければ結構です」
祐輔は、淡々と、まるで何かの数式を読み上げるかのように、一語一句、正確に、愛の告白をした。
「なぜ、俺なの?」
「本を読む姿が、あまりに、崇高でしたので」
変な奴。本日二度目、変な奴。
「僕の、理想の男性なんです」
「俺の、何を知っているの?」
「野間直輝さん。文学部の二回生、趣味は読書、クリスチャンで、休日は登山か教会か、ボランティア。面白味がないと理由で、半年前に、ひと月だけ交際した女性に失恋、というところで、どうでしょう」
「それのどこが、君の理想なわけ?」
「僕は俗的なことが、嫌いなんです」
俺は祐輔の、痩せた首と手と、少し傷んだ金髪を見た。どきついレンズの向こうの瞳は、悲しみが溢れ、孤独と絶望に染まっている。何が、そんなに彼を悲しませているのだろう。彼は何に、そんなに絶望しているのだろう。
「孤独、なんだね」
俺のその言葉に、祐輔は、ポロポロと涙を流した。拭うでもなく、俯くでもなく、彼は俺を見つめたまま、涙を流している。
「君の孤独が埋められるなら、俺はそれで幸せだよ」
その時の俺は、本心から、そう思った。本当に、祐輔を、悲しみから、救いたかった。
「今日さ、村井さんのメガネとったとこ、初めて見た」
「なんで?」
「ナゲットのソースが飛んだ話したじゃん。メガネについたの、ソースが」
俺は膨らみかけた、麗子の腹を撫でながら、時々キスを交わしながら、麗子の話を聞いていた。
「見たこと、ある?」
「まあ、そりゃ、時々はな」
「意外にいけてて……かっこよくて、ビックリした」
確かに、祐輔は眼鏡をとると、随分印象が違う。普段はクールな、というより、冷淡なビジネスマンだけど、素顔の彼は、ずっと少年ぽくて、ユニセックスなオーラを出している。
「コンタクトにしたらって、言ったの。絶対もてるのに」
「そうだなあ」
祐輔は、自分の容姿が嫌いだと言う。痩せていて、色白で、細長い体が貧相で、俺の筋肉質で、小麦色の体が、羨ましいと言う。初めてキスをした時も、初めてセックスをした時も、祐輔は、僕を見ないでくれ、と悲しげに言った。なぜ、祐輔はそんなに自分を嫌うのだろう。麗子が言うとおり、醜いわけでもなく、美少年の部類に入るはずなのに。
「いけてる、って、ダメなの?」
「うん?」
「村井さんに、そんな言葉使いはそろそろやめなさいって、怒られちゃった」
「そうか。あいつは、俗語が嫌いなんだよ」
「ふうん。ねえ、次は、俗語が嫌いじゃない人にしてね。もう何か言うたびに怒られてたらストレス溜まっちゃう」
「村井は村井で、お前のことを考えてるんだ」
人は、それを同情というかもかれない。たとえそうでも、何がいけないんだ。苦しみ、悲しみに悶える誰かを救うことは、人の使命ではないのか。
「僕達の関係は、秘密にしておきたい」
「なぜ。別にいいじゃないか。俺達は愛し合ってるんじゃないのか?」
「俗的な人間には、僕達の崇高な愛が理解できないんだよ」
俺は、祐輔を、男だとか、女だとか、そんなことはどうでもよく、ただ、『村井祐輔』という一人の人間として、彼を愛していた。だから、俺達の愛を知られることに恐怖はなかったし、羞恥もなかった。だけど、祐輔はそうではなかった。彼は世間と距離を置き、俺以外の人間とは、一切の関わりを持たずにいた。彼は相変わらず孤独で、悲しみに溢れた目で、分厚いレンズの奥から、『俗世』を淡々と眺めていた。
「ねえ、村井さんって、どんな学生だったの?」
「そうだなあ。成績は良かったらしいな」
「へえ、そうなんだ。頭、良さそうだもんね。私なんて、毎年単位ギリギリでさ、よく卒業できたって、みんなに言われた」
「でも、CAになれたんだろ? すごいじゃないか」
「CAは、子供の頃からの夢だったの。勉強は大嫌いだったけど、英語だけは、がんばったかな」
夢。俺はある夜、祐輔に、夢を語る。大金持ちになって、世界中の困っている人を、助けたい。それは、麗子のような、明確な『夢』ではなく、言うなれば、小学生が、立派な人になりたい、なんていう、漠然とした、なんの現実性もない、ただの『夢』。
俺は、成績も普通で、文学部といいながら、熱心に学んだのは哲学と宗教学だけで、三回生になっても、皆のように、就活にも身が入らず、できれば、どこかの山小屋でハイカーガイドか、古書を扱う店で本に埋れて生活できれば、それでいいと思っていた。なんならもう、大学も辞めようと思っていた。それくらい俺は、金とか、生活とか、そんなものに興味のない、人間だった。
「僕が叶えてあげるよ」
祐輔はそう言って、黙々と何かを始めた。その頃はもう、俺達は一緒に暮らしていて、八畳のワンルームで、俺達だけの世界で暮らしていた。毎日、祐輔は何台かのパソコンに向かい、何かをしている。俺にはさっぱりわからない。何をしているのかと聞いても、祐輔は、君はただ、僕を信じてくれればいい、と言うだけだった。
「髪を切りに行こう」
祐輔は俺を、オシャレな美容室へ引っ張って行き、勝手にオーダーして、俺の髪型を、まるでモデルか俳優のように変えてしまった。
「これを着て、写真を撮るよ」
祐輔が買ってきた服は、俺が今まで着たことのない、着ようと思ったこともない、薄いピンクのポロシャツに、白いパンツ。首にはゴテゴテしたネックレスをかけ、手首には高そうな時計。
「時計はレンタルだからね。傷つけないでよ」
俺を写真部の部室へ連れて行き、俺は見合い写真でも撮られているのか、という勢いで、無理な笑顔の写真を何枚か撮られ、違う衣装で、本を読んでいるところだとか、山に登るロケまでして、何枚も写真を撮った。
「しばらくは、これでいいな」
パソコンの画面の中には、ピンクのポロシャツを着た、どうみてもナンパな男がいる。
「これ、何?」
「君のFacebookとインスタグラム」
プロフィールページには、『オフィスノマ 代表』と書いてある。
「代表?」
「そう、君は社長なんだよ」
「何の?」
「人材派遣会社の」
祐輔は、知らない間に、俺を社長にして、起業していた。
「ちょっと……俺には、そんなことできないよ」
「君は何もしなくていいんだ。全て僕がやる。ただ君は、僕のシナリオ通りに、振舞ってくれれば、それでいい」
「大学の時に、起業したんでしょ?」
「え? ああ、そうだな」
「すごいねえ」
俺は別に、すごくない。全ては祐輔の力で、シナリオ。俺はただ、祐輔の書いたシナリオ通りに、振舞ってきただけ。
俺はそれに、ずっと罪悪を感じていた。俺は世間を欺き、祐輔を陰に埋らせている。そして、祐輔のシナリオは、『俗的』で、俺は、そのシナリオに、葛藤していた。でも、やめられなかった。金とか、地位とか、そんなものではなく、俺は、何かに成功するたび、会社が大きくなるたび、嬉しそうに、満足そうに笑う、祐輔が、嬉しかった。いつしか祐輔の目からは悲しみが消え、孤独が消え、絶望は希望に変わり、俺はただ、俺が祐輔のシナリオを演じることで、祐輔が救われるなら、それでいい、祐輔が幸せなら、それで構わなかった。だから、俺は、精一杯、祐輔のシナリオを演じた。この十年、俺はずっと、演じてきた。俺はずっと、自分を欺き、世間を欺き、祐輔を欺いている。成功を喜んでいる振りをして、祐輔を欺いてきた。俺は嘘でしかない。本当の俺は、もうどこにもいない。
そしてまた、俺は……
「何を、考えているの?」
麗子は、恐れている。俺が、いや、死んだ恋人が、彼女を置き去りにしたように、また俺が、彼女を置き去りにするのではないかと。
「また、悲しい顔、してる」
話してしまいたい。俺の真実を。麗子なら、俺を受け入れてくれるかもしれない。この罪から、俺を救ってくれるかもしれない。
「あなたのこと、全部知りたいの」
そっと抱き寄せると、麗子の膨らんだ腹が、俺の腹に触れた。
「この子のためにも」
この子のために……父親になるために、俺は……
「別れたんだ」
「別れた?」
「本当は、ずっと、恋人がいた」
「大切な、人?」
「大切だった」
「……どうして、その人と一緒にならなかったの?」
麗子は、同じことを聞いた。初めてこのベッドで抱きしめた時と、同じことを。
「心が、離れてしまったから」
ふと見ると、麗子は、泣いていた。
「なぜ、泣く?」
「あなたの心が、泣いているから」
麗子は、俺のために、泣いていた。もうこれ以上、麗子を苦しめることはできない。これでいい。これが、最後の嘘だ。この嘘で、麗子は、救われる。
「でも今は、お前がいて、子供もいる」
「私で、いいの?」
「お前が、いいんだ」
俺は、地獄へ落ちる。俺はもう、許されない。俺の罪は、死んでも償えない。
「幸せになろう、麗子」
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