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―Relax Rabbit Side―
閑話「アタイ(ボク)達のご主人様は凄いんです」
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アタイは人の手によって作られた。
人はアタイの事をリラックス・ウサギ略して『リラウサ』と呼ぶ。
手触り最高のふわふわ素材で作られた真っ白なウサギのぬいぐるみだ。
お耳は垂れ下がっていて、紅色の目はパッチリとおっきく、鼻も口も愛らしい形をしている。
それにダランとした姿勢が特徴で癒されると評判がいい。
アタイが生まれた時、周りに自分と同じ姿のウサギがズラリと並べられていた。
ぬいぐるみだから躯を動かす事は出来ない。
これは天性だからどうしようもない。
せめて自分を大切にしてくれるご主人様と出会える事を。皆が願っている。
どうせなら……イケメンに拾われたいなぁ……(リラウサだって乙女なのよ)。
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+
生まれて間もなくして、アタイはリラックス・ウサギ専門店に並べられた。リラウサは元々人気のあるぬいぐるみだし、大きな店に並べられたのなら、あっという間に何処かのご主人様に買われるだろうと安易に思っていた。
しかし、実際は戦場だった。なにせ自分と同じ姿のリラウサが常に数百体以上も並べられている為、容易く選んで貰える環境ではなかった。リラウサはパッと見どれも似たような顔をしているが、本人達からしたらてんで違うねん!
お客が来た時、それはもう。皆が我よ我よと息を荒くして奮闘している……という事をご主人様達は知らないのだろうな。勿論、アタイだって皆と同じで買われる事を願っている。そんなある日の事だ。
珍しいお客が店にやって来た。それも飛びきりのイケメン! 王子様のような甘さと精悍な雰囲気をもったかなり見目麗しい男性で、もうリラウサ達の騒ぎようは半端なかった。
イケメンは店内をグルッと回って、どのウサギがいいのか選んでいた。その表情はとても真剣で、またそそられる。時折イケメンに手を取られたウサギの叫びが断末魔の如く凄まじかった。中には失神してしまうウサギもいたな(でも人間には分からん)。
と、客観的に傍観していたわけではなく、アタイも雄叫びを上げながらイケメンへ猛アピールしていた。そしてチャンスが巡ってきた! イケメンがアタイの前までやってきたのだ。
「きゃぁあああ――――イケメェ――ン!! 私よ私!!」
「いえ私よ! 私の方がずっと美人なんだから!!」
「アンタ達ブスは引っ込んでなさいよ! あのイケメンに相応しいのはこの私よ!!」
「私を選んでぇええええ~~~~イケメエエ――――ン!!」
す、凄い。皆目を血走らせ、我をも忘れ猛アピールしている。アタイも負けずに叫びまくる。すると願いが通じたのか、アタイはイケメンの目に留まって手を取られたのだ!
――きゃぁああああ~~~~!! 身悶えしてしまいそう~~~~!!
既にアタイは失神寸前十秒前まできていた。
――ああああ~~どうかどうかアタイを選んで選んで! イケメン!
気絶寸前だというのにアタイは天にも縋る思いで祈った。
「これにしよう」
イケメンがアタイに決めた✨ しかも微かに笑みを浮かべて✨
――いやったぁああああ~~~~!! 勝ち取ったぁあああ――――❤❤❤
アタイは天にも昇るような気持ちで歓喜に震えた。
「きゃああああ~~、イケメンを取られたぁあああ!!」
「そんなブスの何処に魅力があるっていうのぉおおお!!」
負け組達の醜い喚き声が轟いている。
――フンッ、なんとでも言え。負け犬の遠吠えめ!
「今日からイケメンに抱かれて眠るのかしら? いっやあ~~ん❤」
アタイは聞こえよがしに嫌味を零した。周りは大炎上していたが、これも戦場で勝利した者だけが味わえる快感だ。
――イヤッホ~~♬
心が浮き立っているアタイはイケメンと一緒にレジの前までやってきた。
「これをプレゼント用に包んでもらえますか?」
――な・ん・で・す・と?
イケメンはアタイをレジのおっさんに差し出して、プレゼント用にとお願いした。アタイはポッカ~ンとなった。その間に店長とイケメンの会話がなされる。
「兄ちゃん、彼女へのプレゼントかい?」
「まだ彼女ではありませんが、大切なコなんです。今日は彼女の誕生日なので、このぬいぐるみをプレゼントしようと思いました」
「兄ちゃんの想いも受け取って貰えるといいな」
「はい、そうですね」
――うん、まぁなんとなく察していたけど、実際に耳にするとショック~。
極上の世界から急に現実へと引き戻された。まぁ、それでもご主人様が見つかって良かったと思うべきだ。アタイは無理に腑に落ちる事にした。
――あ~まっくら~。
プレゼント用の袋に包まれたアタイは完全に視界が遮られた。
――アタイのご主人様は女性か。
本当はこのイケメンが良かったけど、彼女ならイケメンとも会える機会があるよね。せめて優しいご主人様である事を願おう。アーメン……。
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+
――おっ、やっと包みから解放される?
イケメンに買われてから数時間後、アタイはやっと日の光を浴びる。ゴソゴソと袋から取り出されてご主人様とご対めーん!
――あら? ……なんというか思ったよりも凡庸な顔。
アタイを取り出したのはイケメンが大切なコだと言っていた彼女だ。あれだけのイケメンが好きになるコなら、さぞかし美しいのだろうと勝手な想像を膨らませていたけれど、実際は至って普通のコだった。なんか拍子抜け~。
だけど、レインと呼ばれたご主人様は目を輝かせてアタイを見つめている。それが好意的な目だと分かって嬉しかった。あぁ、この人はアタイを大切にしてくれる。さらに彼女の瞳から涙が零れ、そんなにアタイの事が嬉しかったのかと、こちらまで泣きそうになった。
――良いご主人様に出会えて良かった。
そう感動していたのにだ。
「オレがリラウサ好きなの、どうして知ってるんだ?」
――ん? 何か妙じゃない?
ご主人様、女性な筈なのに口調が男っぽい…………ま・さ・か? 素は男で女装しているニューハーフ!? その無駄に大きそうなお胸は作り物ですか! リアルに見えるのに!?
――うっそぉ――――ん!?
あまりに衝撃的な事実! ご主人様があっち系というのもショックだが、イケメンもあっちの趣味もちという事実にショックorz……心が死んだ。
「オレの誕生日だし、今日はずっと傍にいて欲しい。今日だけはオレの傍から離れないで欲しいだ」
「レイン、誕生日は特別な日だよな?」
「あぁ。誕生日は祝いもする日だし、特別といえば特別だよな」
「その特別な日にオレに傍にいて欲しいって事か」
「あぁ、傍にいて欲しい」
――おまけに会話がリア充してきた。
既にイケメンとご主人様は相思相愛らしい。これが素の男女であれば、喜ばしい事ではあるが(いや……ケッって思っていたかもしれない)、あっち系かもしれないと思ったら、ゾワゾワとしてきた。
おまけにイケメンがこれからご主人様の部屋に行っていいか訊いていたし、何をしようとしているのですか? アタイの想像通りだと……いっやぁあああ~~、アタイの頭の中はピンク色の映像が広がる。
ぎゃあぎゃあと叫んだところでも虚しく、ご主人様とイケメンは幸せそうにして部屋へと入って行った。そして……ご主人様のお胸は本物で巨乳の領域だった。純粋な女性や。え? なんでご主人様の胸の事を知っているかって?
それは……それは…………それはご主人様とイケメンがアタイが横にいるにも関わらず、あんあんをおっぱじめてしまったんよおおお!! もうなんなん? 初めてご主人様の元へ来た喜ばしい日に、なんちゅー人達なんや!
――ケッ、リア充ですか。
せめて二人に背を向けたいのに向けられない悲しい性。心が荒みますわ。そして二人の愛の時間が終わる頃にはアタイは悶え過ぎて昇天してしまった……。
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+
とんでもないご主人様の元へやってきたと思っていたが、本当にとんでもなかった。何故ならご主人様はイケメンと思う存分に愛を語らった後、打って変わってシリアスな話を始めた。殺し屋の云々とかで物騒な。
しかもご主人様はいきなり外に出て、そのまま戻って来なかった。初日からアタイは捨てられたのかと、おめおめと泣いていたのだが実はご主人様、背中に怪我を負って病院で治療していたのだ。
後日アタイはご主人様の両親に連れ出されて、ご主人様の元へとやって来た。捨てられたわけでなかった安心感やらご主人様の大怪我やら、アタイはすすり泣いた。色々と訳ありのご主人様で苦労していたようだ。
病院にいる間、アタイしか話し相手がいないご主人様から色々と話を聞いた。元は男だったとかマジおったまげたけど、ご主人様の苦労を考えれば、アタイは彼女の事をとても慕っていたし、尊敬もしていた。
無事にご主人様は退院されると、アタイの為に洋服を作ってくれるようになった。可愛いワンピースからウェディングドレスまで。どれも瀟洒で可愛らしく、アタイが洋服を着る度にご主人様は可愛い可愛いと大絶賛してくれた。
ちなみにウェディングドレスを作っている時に小耳にした話だが、最近♂リラウサが誕生したらしい。ずっる~い! なんでアタイが店にいた時に作ってくれなかったのさ。アタイだってリア充したかったぁあああ!!
悔やんでも悔やみ切れなかったが、どうやらご主人様はアタイの。対となる♂リラウサを手にしたいと言っていた。ヤッホ~♬ イケメンイケメンの。#番__つが__#いをお願いしまぁ~す♬ そして意外にもその日は早くやってきた。
ご主人様の怪我がすっかりと回復した後、ご主人様はイケメン彼氏の部屋に招かれる事になった。あらゆる妄想を膨らませたのか、ご主人様はずっと身悶える日々を過ごし、部屋に遊びに行く当日、なんとアタイも連れ出した。
――うぉおおおお~~~~!!
ご主人様の部屋に初めて来た日の展開と二の舞になるのではないかと、アタイは心の中で咆哮を上げた。ところが思いとは裏腹に、アタイはイケメン彼氏の部屋で運命的な出会いを成し遂げる❤
ご主人様の彼の部屋に入ったら、いきなり王子ウサギが登場してアタイは心臓を撃ち抜かれた。豪奢なクラウンの椅子にウェディングコートを羽織った飛び切りのイケメンウサギだ。
――こ、これはかの♂リラウサ! しかも極上のイケメンやないか✨
アタイはマジマジとイケウサを見つめる。そして、ご主人様がイケウサの隣にアタイを並べてくれた。ナイスナイス、マイご主人様! アタイは鼻息を荒くして喜ぶ。
「こんにちは、ボクは君と同じリラウサだよ」
柔和で優しそうなイケウサだ。カッケー!
「ボクは君の。対にって、あの男性から買われたんだ。君みたいな可愛い子と番いになれるなんて、ボク幸せだな」
――ドッキュ――――ン!!
聞きました? 聞きました? 今のイケウサのセリフを? イケウサははにかんだ笑顔でアタイの事を可愛い&番いになれるなんて嬉しいと言ったよね!
――ヒャッホ――!!
「可愛いだなんてそんな……」
なんてアタイは謙遜してみたが、可愛いよね、アタイは。なにせイケメンからプレゼント用に選ばれたわけだし、そこは自信を持ってもいいと思う。
「アタイも貴方のような素敵な男性と番いになれて光栄よ」
「身に余る言葉を有難う。これから宜しくね」
「えぇ、宜しく」
アタイの言葉にイケウサは極上の笑みを零した。あぁ~このイケウサ最高だわ! 人間であればここで抱擁し合うところなのに、ぬいぐるみに生まれたばかりに(泣)。
「ラ、ライ。これ以上は立ったままじゃなくて、ベ、ベッドがいい」
――ん?
自分達の世界に浸っている間に、ご主人様達も盛り上がっていたようだ。
――ベッドがいいって……やっぱりあの展開ですか?
ご主人様達はアタイとイケウサの背後に設えられたベッドへと行ってしまった。そして案の定、あんあんをおっぱじめたよ!
「うわぁああ~~ご主人様達が凄い事を始めている気がする!」
隣のイケウサがかなり動揺して叫んだ。うん、分かるよその気持ち。
「そうね。アタイも初めてご主人様の家に行った時、いきなりおっぱじめられてビックリ仰天したわ」
「え!? そうなの? 意外と君が冷静なのは経験しているからなんだね」
「そんなところね。今日なんてアタイ達の目に触れない場所でヤッてるけど、前回なんてアタイを真隣にして思う存分にヤッてたわよ。しかも想いが通じ合った瞬間にね」
「え!? ボク達のご主人様達って凄いんだね!」
「そうよ。アタイ達のご主人様達って凄いのよ」
前回はただ腹立たしかったけれど、今日は念願のイケウサと番いになれた事だし、こちらはこちらでリア充させてもらいますわ♬
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+
「ご主人様達、眠ってしまったみたいだね」
「獣の如く愛し合えば精も尽きるわよ」
ご主人様とイケメンは散々躯で愛を語らった後、パッタリと深い眠りに入ったみたい。
「そ、そうだね。あ~幸せそうな寝息が聞こえるよ。ボクもご主人様達と一緒に眠りたいなぁ~。とはいってもボク達は動けないのが残念だね」
――そうだ、ベッドに入ればイケウサとイケメンを両隣にして眠れるのかしら?
それはとてもオイシイシチュだわ。でもイケウサが言う通りアタイ達は自ら動く事が出来ない。とはいえ、両手に花は捨て難い。
「諦めちゃいけないわ。なんとか自分達でベッドに行くのよ」
「え? でもどうやって?」
「念動力とか神頼みとか」
「それは非現実的だね」
「アタイ達がこうやって会話している事も非現実的でしょ。やってみないと分からないわよ」
「そ、そうだね。君って意外と大胆なんだね」
善は急げ。アタイはイケウサのちょい引いている様子も無視して有言実行!
「神よ~アタイ達の願いを受け入れ賜(たま)え~賜え賜え~」
「わっ、本当にやってる!」
「貴方もやるのよ」
「え? ボクもなの!?」
「ベッドで眠りたいって言い出しっぺは貴方でしょ!」
「わ、分かったよ。神よ~ボク達の願いを受け入れ賜え~」
こうやってアタイ達は自分達で出来る限りの力で最善を尽くした。……が、奇跡なんちゅーもんは起こらなかった。
「泣かないで、ボク達は十分頑張ったよ」
「うっ、うぅ……」
――イケメンを両隣にして眠る夢が……。
あれだけイケウサと一緒に神頼みしたのに願いは粉々に砕かれた。イケメン達に会えた事で運気を使い果たしてしまったのか。そして無駄に体力を使ったアタイ達はいつの間にか眠りに落ちてしまった……。
…………………………。
…………………………。
…………………………。
アタイが目を醒ました時、奇跡が起きていた。アタイの両隣には心地良さそうに眠るイケウサとご主人様の彼が! アタイは何故かベッドの中にいた。左からご主人様、イケウサ、アタイ、イケメンの順で並んでいた。
――こ、これはまさに奇跡✨✨
神がアタイとイケウサの声を聞き入れたのか、それともご主人様かイケメンのどちらかがベッドまで運んでくれたのか分からないけれど、今は最っ高な幸せに浸っていよう✨ イケウサとイケメン彼氏に万歳!!
そしてご主人様に出会えた事に感謝しなきゃね。アタイを大事にして素敵なお洋服を沢山作ってくれて、ご主人様のおかげで最高のイケウサまで番いに出来た! こんな幸福なリラウサはアタイぐらいしかいないわ✨
それからアタイはまた深い微睡の中へと入っていった。夢の中でアタイは躯が浮いていて、自分の意思で移動する事が出来る! アタイはふわふわと移動して、イケウサ、イケメン、ご主人様の順で彼等の頬にキッスを落とす。
――アタイを幸せにしてくれて有難う。これからも末永く宜しくね!
幸せを噛み締めてアタイはありったけの感謝の気持ちを伝えた……。
人はアタイの事をリラックス・ウサギ略して『リラウサ』と呼ぶ。
手触り最高のふわふわ素材で作られた真っ白なウサギのぬいぐるみだ。
お耳は垂れ下がっていて、紅色の目はパッチリとおっきく、鼻も口も愛らしい形をしている。
それにダランとした姿勢が特徴で癒されると評判がいい。
アタイが生まれた時、周りに自分と同じ姿のウサギがズラリと並べられていた。
ぬいぐるみだから躯を動かす事は出来ない。
これは天性だからどうしようもない。
せめて自分を大切にしてくれるご主人様と出会える事を。皆が願っている。
どうせなら……イケメンに拾われたいなぁ……(リラウサだって乙女なのよ)。
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生まれて間もなくして、アタイはリラックス・ウサギ専門店に並べられた。リラウサは元々人気のあるぬいぐるみだし、大きな店に並べられたのなら、あっという間に何処かのご主人様に買われるだろうと安易に思っていた。
しかし、実際は戦場だった。なにせ自分と同じ姿のリラウサが常に数百体以上も並べられている為、容易く選んで貰える環境ではなかった。リラウサはパッと見どれも似たような顔をしているが、本人達からしたらてんで違うねん!
お客が来た時、それはもう。皆が我よ我よと息を荒くして奮闘している……という事をご主人様達は知らないのだろうな。勿論、アタイだって皆と同じで買われる事を願っている。そんなある日の事だ。
珍しいお客が店にやって来た。それも飛びきりのイケメン! 王子様のような甘さと精悍な雰囲気をもったかなり見目麗しい男性で、もうリラウサ達の騒ぎようは半端なかった。
イケメンは店内をグルッと回って、どのウサギがいいのか選んでいた。その表情はとても真剣で、またそそられる。時折イケメンに手を取られたウサギの叫びが断末魔の如く凄まじかった。中には失神してしまうウサギもいたな(でも人間には分からん)。
と、客観的に傍観していたわけではなく、アタイも雄叫びを上げながらイケメンへ猛アピールしていた。そしてチャンスが巡ってきた! イケメンがアタイの前までやってきたのだ。
「きゃぁあああ――――イケメェ――ン!! 私よ私!!」
「いえ私よ! 私の方がずっと美人なんだから!!」
「アンタ達ブスは引っ込んでなさいよ! あのイケメンに相応しいのはこの私よ!!」
「私を選んでぇええええ~~~~イケメエエ――――ン!!」
す、凄い。皆目を血走らせ、我をも忘れ猛アピールしている。アタイも負けずに叫びまくる。すると願いが通じたのか、アタイはイケメンの目に留まって手を取られたのだ!
――きゃぁああああ~~~~!! 身悶えしてしまいそう~~~~!!
既にアタイは失神寸前十秒前まできていた。
――ああああ~~どうかどうかアタイを選んで選んで! イケメン!
気絶寸前だというのにアタイは天にも縋る思いで祈った。
「これにしよう」
イケメンがアタイに決めた✨ しかも微かに笑みを浮かべて✨
――いやったぁああああ~~~~!! 勝ち取ったぁあああ――――❤❤❤
アタイは天にも昇るような気持ちで歓喜に震えた。
「きゃああああ~~、イケメンを取られたぁあああ!!」
「そんなブスの何処に魅力があるっていうのぉおおお!!」
負け組達の醜い喚き声が轟いている。
――フンッ、なんとでも言え。負け犬の遠吠えめ!
「今日からイケメンに抱かれて眠るのかしら? いっやあ~~ん❤」
アタイは聞こえよがしに嫌味を零した。周りは大炎上していたが、これも戦場で勝利した者だけが味わえる快感だ。
――イヤッホ~~♬
心が浮き立っているアタイはイケメンと一緒にレジの前までやってきた。
「これをプレゼント用に包んでもらえますか?」
――な・ん・で・す・と?
イケメンはアタイをレジのおっさんに差し出して、プレゼント用にとお願いした。アタイはポッカ~ンとなった。その間に店長とイケメンの会話がなされる。
「兄ちゃん、彼女へのプレゼントかい?」
「まだ彼女ではありませんが、大切なコなんです。今日は彼女の誕生日なので、このぬいぐるみをプレゼントしようと思いました」
「兄ちゃんの想いも受け取って貰えるといいな」
「はい、そうですね」
――うん、まぁなんとなく察していたけど、実際に耳にするとショック~。
極上の世界から急に現実へと引き戻された。まぁ、それでもご主人様が見つかって良かったと思うべきだ。アタイは無理に腑に落ちる事にした。
――あ~まっくら~。
プレゼント用の袋に包まれたアタイは完全に視界が遮られた。
――アタイのご主人様は女性か。
本当はこのイケメンが良かったけど、彼女ならイケメンとも会える機会があるよね。せめて優しいご主人様である事を願おう。アーメン……。
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――おっ、やっと包みから解放される?
イケメンに買われてから数時間後、アタイはやっと日の光を浴びる。ゴソゴソと袋から取り出されてご主人様とご対めーん!
――あら? ……なんというか思ったよりも凡庸な顔。
アタイを取り出したのはイケメンが大切なコだと言っていた彼女だ。あれだけのイケメンが好きになるコなら、さぞかし美しいのだろうと勝手な想像を膨らませていたけれど、実際は至って普通のコだった。なんか拍子抜け~。
だけど、レインと呼ばれたご主人様は目を輝かせてアタイを見つめている。それが好意的な目だと分かって嬉しかった。あぁ、この人はアタイを大切にしてくれる。さらに彼女の瞳から涙が零れ、そんなにアタイの事が嬉しかったのかと、こちらまで泣きそうになった。
――良いご主人様に出会えて良かった。
そう感動していたのにだ。
「オレがリラウサ好きなの、どうして知ってるんだ?」
――ん? 何か妙じゃない?
ご主人様、女性な筈なのに口調が男っぽい…………ま・さ・か? 素は男で女装しているニューハーフ!? その無駄に大きそうなお胸は作り物ですか! リアルに見えるのに!?
――うっそぉ――――ん!?
あまりに衝撃的な事実! ご主人様があっち系というのもショックだが、イケメンもあっちの趣味もちという事実にショックorz……心が死んだ。
「オレの誕生日だし、今日はずっと傍にいて欲しい。今日だけはオレの傍から離れないで欲しいだ」
「レイン、誕生日は特別な日だよな?」
「あぁ。誕生日は祝いもする日だし、特別といえば特別だよな」
「その特別な日にオレに傍にいて欲しいって事か」
「あぁ、傍にいて欲しい」
――おまけに会話がリア充してきた。
既にイケメンとご主人様は相思相愛らしい。これが素の男女であれば、喜ばしい事ではあるが(いや……ケッって思っていたかもしれない)、あっち系かもしれないと思ったら、ゾワゾワとしてきた。
おまけにイケメンがこれからご主人様の部屋に行っていいか訊いていたし、何をしようとしているのですか? アタイの想像通りだと……いっやぁあああ~~、アタイの頭の中はピンク色の映像が広がる。
ぎゃあぎゃあと叫んだところでも虚しく、ご主人様とイケメンは幸せそうにして部屋へと入って行った。そして……ご主人様のお胸は本物で巨乳の領域だった。純粋な女性や。え? なんでご主人様の胸の事を知っているかって?
それは……それは…………それはご主人様とイケメンがアタイが横にいるにも関わらず、あんあんをおっぱじめてしまったんよおおお!! もうなんなん? 初めてご主人様の元へ来た喜ばしい日に、なんちゅー人達なんや!
――ケッ、リア充ですか。
せめて二人に背を向けたいのに向けられない悲しい性。心が荒みますわ。そして二人の愛の時間が終わる頃にはアタイは悶え過ぎて昇天してしまった……。
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とんでもないご主人様の元へやってきたと思っていたが、本当にとんでもなかった。何故ならご主人様はイケメンと思う存分に愛を語らった後、打って変わってシリアスな話を始めた。殺し屋の云々とかで物騒な。
しかもご主人様はいきなり外に出て、そのまま戻って来なかった。初日からアタイは捨てられたのかと、おめおめと泣いていたのだが実はご主人様、背中に怪我を負って病院で治療していたのだ。
後日アタイはご主人様の両親に連れ出されて、ご主人様の元へとやって来た。捨てられたわけでなかった安心感やらご主人様の大怪我やら、アタイはすすり泣いた。色々と訳ありのご主人様で苦労していたようだ。
病院にいる間、アタイしか話し相手がいないご主人様から色々と話を聞いた。元は男だったとかマジおったまげたけど、ご主人様の苦労を考えれば、アタイは彼女の事をとても慕っていたし、尊敬もしていた。
無事にご主人様は退院されると、アタイの為に洋服を作ってくれるようになった。可愛いワンピースからウェディングドレスまで。どれも瀟洒で可愛らしく、アタイが洋服を着る度にご主人様は可愛い可愛いと大絶賛してくれた。
ちなみにウェディングドレスを作っている時に小耳にした話だが、最近♂リラウサが誕生したらしい。ずっる~い! なんでアタイが店にいた時に作ってくれなかったのさ。アタイだってリア充したかったぁあああ!!
悔やんでも悔やみ切れなかったが、どうやらご主人様はアタイの。対となる♂リラウサを手にしたいと言っていた。ヤッホ~♬ イケメンイケメンの。#番__つが__#いをお願いしまぁ~す♬ そして意外にもその日は早くやってきた。
ご主人様の怪我がすっかりと回復した後、ご主人様はイケメン彼氏の部屋に招かれる事になった。あらゆる妄想を膨らませたのか、ご主人様はずっと身悶える日々を過ごし、部屋に遊びに行く当日、なんとアタイも連れ出した。
――うぉおおおお~~~~!!
ご主人様の部屋に初めて来た日の展開と二の舞になるのではないかと、アタイは心の中で咆哮を上げた。ところが思いとは裏腹に、アタイはイケメン彼氏の部屋で運命的な出会いを成し遂げる❤
ご主人様の彼の部屋に入ったら、いきなり王子ウサギが登場してアタイは心臓を撃ち抜かれた。豪奢なクラウンの椅子にウェディングコートを羽織った飛び切りのイケメンウサギだ。
――こ、これはかの♂リラウサ! しかも極上のイケメンやないか✨
アタイはマジマジとイケウサを見つめる。そして、ご主人様がイケウサの隣にアタイを並べてくれた。ナイスナイス、マイご主人様! アタイは鼻息を荒くして喜ぶ。
「こんにちは、ボクは君と同じリラウサだよ」
柔和で優しそうなイケウサだ。カッケー!
「ボクは君の。対にって、あの男性から買われたんだ。君みたいな可愛い子と番いになれるなんて、ボク幸せだな」
――ドッキュ――――ン!!
聞きました? 聞きました? 今のイケウサのセリフを? イケウサははにかんだ笑顔でアタイの事を可愛い&番いになれるなんて嬉しいと言ったよね!
――ヒャッホ――!!
「可愛いだなんてそんな……」
なんてアタイは謙遜してみたが、可愛いよね、アタイは。なにせイケメンからプレゼント用に選ばれたわけだし、そこは自信を持ってもいいと思う。
「アタイも貴方のような素敵な男性と番いになれて光栄よ」
「身に余る言葉を有難う。これから宜しくね」
「えぇ、宜しく」
アタイの言葉にイケウサは極上の笑みを零した。あぁ~このイケウサ最高だわ! 人間であればここで抱擁し合うところなのに、ぬいぐるみに生まれたばかりに(泣)。
「ラ、ライ。これ以上は立ったままじゃなくて、ベ、ベッドがいい」
――ん?
自分達の世界に浸っている間に、ご主人様達も盛り上がっていたようだ。
――ベッドがいいって……やっぱりあの展開ですか?
ご主人様達はアタイとイケウサの背後に設えられたベッドへと行ってしまった。そして案の定、あんあんをおっぱじめたよ!
「うわぁああ~~ご主人様達が凄い事を始めている気がする!」
隣のイケウサがかなり動揺して叫んだ。うん、分かるよその気持ち。
「そうね。アタイも初めてご主人様の家に行った時、いきなりおっぱじめられてビックリ仰天したわ」
「え!? そうなの? 意外と君が冷静なのは経験しているからなんだね」
「そんなところね。今日なんてアタイ達の目に触れない場所でヤッてるけど、前回なんてアタイを真隣にして思う存分にヤッてたわよ。しかも想いが通じ合った瞬間にね」
「え!? ボク達のご主人様達って凄いんだね!」
「そうよ。アタイ達のご主人様達って凄いのよ」
前回はただ腹立たしかったけれど、今日は念願のイケウサと番いになれた事だし、こちらはこちらでリア充させてもらいますわ♬
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+
「ご主人様達、眠ってしまったみたいだね」
「獣の如く愛し合えば精も尽きるわよ」
ご主人様とイケメンは散々躯で愛を語らった後、パッタリと深い眠りに入ったみたい。
「そ、そうだね。あ~幸せそうな寝息が聞こえるよ。ボクもご主人様達と一緒に眠りたいなぁ~。とはいってもボク達は動けないのが残念だね」
――そうだ、ベッドに入ればイケウサとイケメンを両隣にして眠れるのかしら?
それはとてもオイシイシチュだわ。でもイケウサが言う通りアタイ達は自ら動く事が出来ない。とはいえ、両手に花は捨て難い。
「諦めちゃいけないわ。なんとか自分達でベッドに行くのよ」
「え? でもどうやって?」
「念動力とか神頼みとか」
「それは非現実的だね」
「アタイ達がこうやって会話している事も非現実的でしょ。やってみないと分からないわよ」
「そ、そうだね。君って意外と大胆なんだね」
善は急げ。アタイはイケウサのちょい引いている様子も無視して有言実行!
「神よ~アタイ達の願いを受け入れ賜(たま)え~賜え賜え~」
「わっ、本当にやってる!」
「貴方もやるのよ」
「え? ボクもなの!?」
「ベッドで眠りたいって言い出しっぺは貴方でしょ!」
「わ、分かったよ。神よ~ボク達の願いを受け入れ賜え~」
こうやってアタイ達は自分達で出来る限りの力で最善を尽くした。……が、奇跡なんちゅーもんは起こらなかった。
「泣かないで、ボク達は十分頑張ったよ」
「うっ、うぅ……」
――イケメンを両隣にして眠る夢が……。
あれだけイケウサと一緒に神頼みしたのに願いは粉々に砕かれた。イケメン達に会えた事で運気を使い果たしてしまったのか。そして無駄に体力を使ったアタイ達はいつの間にか眠りに落ちてしまった……。
…………………………。
…………………………。
…………………………。
アタイが目を醒ました時、奇跡が起きていた。アタイの両隣には心地良さそうに眠るイケウサとご主人様の彼が! アタイは何故かベッドの中にいた。左からご主人様、イケウサ、アタイ、イケメンの順で並んでいた。
――こ、これはまさに奇跡✨✨
神がアタイとイケウサの声を聞き入れたのか、それともご主人様かイケメンのどちらかがベッドまで運んでくれたのか分からないけれど、今は最っ高な幸せに浸っていよう✨ イケウサとイケメン彼氏に万歳!!
そしてご主人様に出会えた事に感謝しなきゃね。アタイを大事にして素敵なお洋服を沢山作ってくれて、ご主人様のおかげで最高のイケウサまで番いに出来た! こんな幸福なリラウサはアタイぐらいしかいないわ✨
それからアタイはまた深い微睡の中へと入っていった。夢の中でアタイは躯が浮いていて、自分の意思で移動する事が出来る! アタイはふわふわと移動して、イケウサ、イケメン、ご主人様の順で彼等の頬にキッスを落とす。
――アタイを幸せにしてくれて有難う。これからも末永く宜しくね!
幸せを噛み締めてアタイはありったけの感謝の気持ちを伝えた……。
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エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
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