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11.夢
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「服着ろよ」
風呂から出てきた水音が裸で部屋をうろつくのを咎めて言った。いつもならちゃんと服を着ている筈なのに、この日は違った。顔と同じ青白い肌、ひょろっとした長い首や手は、どことなく子供っぽかった。
水音は悪びれも体を隠すこともなく俺の前に立つと、伸び上がるようにして俺の首に腕を絡め、唇を重ねてきた。何も言わなかった。唖然としている俺の歯を割って、舌を絡めてくる。俺が後退さると、更に体重をかけて体を摺り寄せた。
どう反応してよいのか迷ったが、その間にも水音は俺の口内を弄りつづける。彼の体が硬く強張っているのがわかった。せわしなくシャツを捲りあげ、俺の体をまさぐる。くすぐったいような、もどかしいような、久しい感覚だった。
内心戸惑いながら、それでも俺の体は反応していた。水音が凭れかかるのを、身をよじってバランスをとりながら抱きとめた。彼の心臓が早鐘のように脈打つのがわかった。柔らかく滑らかで、すべすべとした肌。初めて触る感触だった。まだしっとりと濡れていた。
久々に感じる人の体温。これまで嗅いだことのなかった彼の匂いを意識した途端、体が呼び覚まされるように熱くなり俺の自制心は吹き飛んだ。
そもそも自制する必要もなかった。
それまで俺達がこういう関係にならなかったのは、ただ切欠がなく、そして俺がさほど彼に興味がなかったというだけだった。彼がゲイだというのは、それこそ最初から聞かされていたが、それだって、お互い余計な気を使わなくていいという了解のようなものだと思っていた。だから水音の行動に驚かないわけではなかったが、お互いその気になってしまえば、それはまた別の話だ。それに、こうして直接触れられて、まったく無反応でいられるわけがない。応じるのに躊躇いはなかった。
俺の中に滑り込んできたそれに舌を絡めた。奥の部屋へと後退しながら水音の体を手繰り寄せると、よろめきながらも離れまいとするように強く縋ってきた。唇に歯を立て、強く吸う。口内は水っぽく、仄かに甘い気がした。彼の忙しなく息をするさまと湿った音が耳の奥で響いた。俺達はそのまま縺れながらベッドになだれ込んだ。
水音が俺のTシャツを毟り取る。無理を強いられた縫い目がどこかで軋みを上げた。俺は体を捩ってボトムをインナーごと脱ぎ、ベッドの外に蹴り出した。お互い何も言わなかった。
水音が俺の首に歯をあて強く吸うと、体の隅々まで電流が走った。きつく、ゆるく、緩急をつけながら、舌を這わせてくる。俺が体を竦める度、意外な強さで開こうとした。体の中で、炎のようになにかが揺らぎながら何度も走り抜けた。彼の舌がどんどん体の中心へと移動していく。一旦止めようと水音の肩に手をかけた時、いきなり咥えられて声を上げそうになった。咄嗟に手で口を塞ぐ。
そうしてしまうと、あとは応戦一方で、その上には抗えなくなってしまった。派手に湿った音を立てながら、水音が強く俺を吸う。玉を強く扱かれながら舌で攻められると、なす術もなかった。正直に言うと、溜まっていた。腰を捩ってなんとか間を持たそうとしたが、あまりにも久々過ぎて堪えられなかった。
「…水音、も、無理」
なんとか押さえて絞り出した声は、彼に届かなかったのか無視された。足を使ってずり上がろうとしたが、その足を強引に押さえ込んでくる。思うように力が入らない。棹を深く咥え込まれ喉の奥で突かれると、不意に体が跳ね上がり、あっけなく俺は達してしまった。
開放された瞬間、ぶわっと中に浮くような気がした。そして、ほんの一秒の滞空時間を置いて、一気に物凄い速さで落下していく感覚。俺はどれくらいの距離を浮き上がったのだろう?落ちていく距離は恐ろしく長く破壊的で、それはこれまで経験したことのないレベルの快感だった。
頭の芯が痺れた。なんとか肩で息をしながら、水音に目をやる。部屋の向こう、キッチンから洩れる僅かな明かりが逆光になり、彼の顔はよく見えなかった。何か言おうとしたが、すぐに言葉が出てこなかった。
促されるままに体の向きを変えると、そのまま押さえ込まれた。彼は躊躇いなく俺の体を割ろうした。ぬるっと冷たいものと一緒に彼の指が抉じ開けるように入ってくる。なぜだかこの時、俺は『用意してたんだ』と妙に感心した。だが、そんな感慨はすぐに消し飛んだ。フェラは確かに久しぶりだったが、バックはそれ以上だった。まったく未経験というわけじゃなかったが、こちらはそんなに簡単に解れない。
水音が背中にのしかかってきた。俺の耳を噛み、舌を差し入れてくる。咄嗟に首を竦めたが、強引にこじ開けてきた。びちゃっという湿った音と、彼の熱い息を感じながら、俺は身を捩って彼の胸を押し返そうとした。なぜだか抵抗しきれなかった。体の芯が疼いて、そちらに意識を持っていかれる。俺を嬲る指は容赦なかった。
しばらくして、ようやくそれらから開放されて息をついたのもつかの間、入れ替わりにゆっくりと水音が俺の中に入ってきた。体の奥を広げられる感覚。臍の下を内側から抉られ、膀胱を揺すぶられる、なんともいえない異物感。俺は手で口を塞ぎ、息を詰めて目を閉じた。
まさか水音にヤられるとは思ってなかった。
「…は、ぁ、あ、、ぁ」
声を抑えるのが精一杯だった。ここは安普請のアパートだ。普通に声を出したら絶対に外に洩れる。背中に水音の息使いが聞こえた。
「ん、ぁ、ぅん…」
彼も抑えていたけれど、洩れ聞こえてくる声はいつも聞いている水音の声だった。男にしてはちょと甲高い、甘い声。俺が腰を浮かせると、更に体を密着させてきた。激しいストローク、汗で体が滑る。繰り返し快感が体を駆け上がってくる。背筋が粟立ち、膝が震えた。
やばい。またイきそう。
咄嗟に顎を上げ体を反らせた時、水音が小さく声をあげ俺の中で達し、同時に俺もイっていた。
頭の中で何かが弾けた。余韻は半ば浮きながら、ふわっとゆっくり落ちるような独特の喪失感を伴う奇妙な感覚だった。そして急に地面間際で加速してそのまま叩き付けられてクラッシュ。骨ごと肉体を砕かれるような衝撃。目の前に星が飛んだ。体が痙攣したのが自分でわかった。体を伝い落ちる彼の体液を感じながら、俺は痩せたベッドに突っ伏した。
しまった。ゴム買っときゃよかった。
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