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7.そこは、御風呂場という名の豆腐店
しおりを挟む「素晴らしい、実に素晴らしい!」
俺の前をクドい顔のオッサンが上機嫌で歩いていく。俺はその後に続きながら、警戒心に満ちた目で辺りを見渡した。俺の隣で先日のイケメンがニッコリ笑って、何故だか俺をエスコートしている。目が合う度にキラキラ微笑むもんだから、俺は慎重に目を逸らし続けた。
オッサンとハイエンドイケメンに遭遇した数日後、俺は俺の唯一の生活の拠り所である職場のコンビニの前で先日のイケメンと待ち合わせた。あの日、オッサンに舐められそうになった後、オッサンは名刺を差し出し、俺に言った。
「わが社に来たまえ」と。
ここは全力即答で拒否するところだ。だが俺は疲れ果てていて、そしてクドいオッサンの横で微笑むイケメンを見ていたら、なんとなく断れなくなってしまった。いきなりオッサンの会社に入社しろというワケではない、ただ職場に遊びに来ればいい。そう言われても気は進まなかった。
ついでに言うと、後で知ったことだがこの時貰ったオッサンの名刺は一グラムの純金製だった。しかも、オッサンの所に遊びに行けば、日当まで出るという。
怪しい、怪しすぎる。
しかし俺はしがないフリーターだ。どうせ今更失うものもない。興味半分、小遣い稼ぎのつもりで俺は応じることにした。
◇ ◇ ◇
「わが社は君にピッタリだよ!」
ここは夙川。関西のそこそこセレブが集いし、場所によってはそこそこ高級住宅地。イケメンが運転するにBMWに乗せられて、俺はこんな縁遠い所まで来てしまった。車を降りるなりオッサン、もとい社長がやってやって来て、そそくさと俺達を先導し始めた。
『わが社は君に』って、ちょっと待て、逆じゃねーのか?
俺は腹の中でツッコミながら、社長の後に続いた。
「ここだよ!!入りたまえ!!」
目の前にある建物は木造建築、白漆喰になまこ壁、和風建築の見える限りは二階建て。重厚な瓦屋根の正面には、美しいカーブを描く一本木を用いた威厳に満ちた唐破風。その上に大きく張り出した木彫りの看板は、余程の年代物に見えた。その下に掛かっている深い藍色の暖簾に白抜きの屋号は、丸に四角。見た目は古い銭湯。だが売っているのは豆腐。
そこは『御風呂場豆腐店』という名の高級豆腐の店だった。
「…豆腐」
俺は思わず声に出してしまっていた。隣のイケメンを見る。社長といい、このイケメンといい、この二人から豆腐が出てくるとは思わなかった。『お豆腐屋さん』この非常に庶民的な呼び名と、この二人の外見は、あまりにもかけ離れて見える。
「豆腐屋さん?」
イケメンの顔を見ると、イケメンはニッコリ笑って頷いた。
「さ、入って」
店に入るとそこはジュエリーショップのような雰囲気だった。綺麗なパッケージのショーケースに並んだ豆腐。和風でモダン、無駄に空間のあるゴージャスな内装。カウンターの向こうに姿勢良く並ぶ店員のお姉さん達が鈴を振るような声で『いらっしゃいませ』と控えめに合唱をした。
…豆腐。
俺の頭の中は豆腐でいっぱいだった。なんかあれだ、古い言い回しを使うなら、狸に化かされているよう?
狐に摘まれているよう…だ。隣のイケメンの顔を見ても『豆腐』としか出てこねえ。豆腐屋なのか?!この人は?!でもって、なんで俺が豆腐屋にピッタリなんだよ?!
クドい社長とイケメンに連れられて店の奥に入ると、長い廊下を渡ってオフィスと思しき場所に入って行った。
「ボーイズ達!今日は芳賀沼君が遊びに来たよ!」
オッサン、もとい社長が入り口で一声上げると、作業していた社員達が口々に挨拶らしい声を上げながら立ち上がった。
その光景たるや、なんか水々しい。。。
社員が全体的に若い。それはまあいい。
圧倒的にビシッとダークスーツ、それもまあいい。
全体的に皆、雰囲気が似てる。
凄いのはその顔だ。全員イケメン。なんか無駄にイケメン。
フロアー全体がなんとなく異様にお水?夜職?ひと昔、ふた昔前で言うなら水商売めいて、ホストクラブのような雰囲気を醸し出している。
「どうだね?!芳賀沼くん!君にピッタリだろう!!」
オッサンがドヤ顔で俺を振り返った。
俺は、ンなわけがあるか、と腹の中で呟いた。
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