俺の上司で、先輩で、

これっとここれっと

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6.人はそれを『出会い』と言う

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 コンビニには、いろんな客が来る。
俺が今いるコンビニは、繁華街のど真ん中にある完全二十四時間営業の店だ。一日で捌く客の数は、相当なものだ。朝から夜まで、学生、リーマン、OL、主婦、迷子、チンピラ、ヤクザ、その辺の店の店員、なんか観光客っぽいの、深夜から早朝にかけては、野良猫、酔っぱらい、キャバ嬢、ホスト、ジャンキー、売人、公園帰りの爺さん婆さんまで。兎に角、ひっきりなしに人が出入りする。

 だが、それらに混じって、変な客、ヤバイ奴も入ってくる。
例えば、全裸マン。文字通り全裸だ。全裸ということを除けば、まあまあ若い普通のニイチャンだ。大体早朝、四時頃やってくる。でもって、必ずクラッシュアイスを買っていく。コイツは全裸ということ以外は無害だ。通報すれば良いんだろうが、何も態々ウチで通報しなくたって、その辺を歩き回ってれば、その内に誰かが通報するだろうと誰もが思っているらしく、毎回、全裸で悠々と買い物を済ませて行く。

 バイトが付けたあだ名も様々だ。
全裸マン、貞子、ハイブリット、バニーメン、清掃人、ランローララン←ずっと店内を走ってる。店の床、トイレで寝るヤツ、棚に昇る、ショーケースを舐める、冷凍庫にダイブするヤツ。店員、客、客のペットの区別なく見境なしに噛み付くヤツ。そんなだから、八十過ぎのヨボヨボの爺さんがコンドームを買いに来たって驚かない。朝の五時に、古びた見切り間際の菓子パンと揚げ物を全品買い占めていく女がいたって不思議には思わない。

 強盗だって来る。
馬鹿なヤツだ。銀行を襲おうが、コンビニを襲おうが、強盗は強盗、捕まってしまえば同じ犯罪者。なのに昨今、銀行強盗は絶えて久しいが、コンビニ強盗は相変わらず全国各地で出没する。どうせ捕まるのに、はした金のために前科をくらうなんて、どう考えても割りに合わないと思うのだが、目と鼻の先に警察署のあるこの店ですら数ヶ月に一度は来店する。
 どーせここなら簡単に襲えると思ったんだろう。だがな、コンビニにはアッツアツに熱した油も、フライヤートングもあるんだぜ。俺がトングを一振りすると、ヤツは、体をくねらせ、イルカに似た超音波系のいななきを上げなから逃げていった。
 翌日には大本営のエリアマネージャーだって来た。俺が強盗に煮え滾った油を浴びせたことで、俺は厳重注意をうけた。解せない。


 そして、今日。
これは多分、痴漢?

 「いいねぇ…君、いい顔だ、いいよ、すごくイイ…」

 クドいオッサンは、俺を舐める勢いで顔を寄せてくる。近い、顔近い。舐められる。押しても引いてもビクともしねえ。

 「…ぃえ…あっ、なんつーか、近ぃ…」

 空いている方の手でオッサンを押し戻しながら、助けを求めて隣のレジを見た。クッソッ!!居やがらねえっ!!俺は相棒を目で探した。奴はいつの間にかカウンターを出て、しれっと品出ししてやがる。

 「客、他のお客様…」って、誰もいね―わ。

 誰か…誰か助けろ!俺が心の中で叫んだその時、オッサンの背後から爽やかな声がした。

 「社長、食べちゃダメですよ?」

 オッサンの背後から現れたのは、ピシッとしたスーツに身を包んだイケメンだった。

 「逸崎いつざきくん!彼っ!!いいね!凄くイイヨ!」

 「離してあげて下さい、怖がってるじゃないですか」

 オッサンが俺を掴む手を緩めた。俺は空かさず振り払った。

 「ごめんね、大丈夫?」

 イケメンがオッサンと俺の間に入って引き剥がしながら、ニコニコと愛想を振りまく。その度にイケメンの周りで小さなお花がポンポンと開いた。

 「ダメですよ。社長」

 社長と呼ばれたオッサンは、俺から離れると、おもむろに乱れたスーツを整えた。見た所、オッサンも社長と呼ばれているだけあって、なんとなく高そうなスーツを着ている。行動はオカシイが、顔はクドい。クドいというか、外国人?バタ臭い、髪は白髪交じりで、五~六十代くらいだろうか。背は高くて、なんか、そう、あれだ。ロマンスグレーとかいうヤツか。隣にいるイケメンも、スーツはスーツでも、リーマンというよりは…ハイエンドな感じで、モデルか、ちょっと高級なホストに見えた。

 「大丈夫?」

 ちょっと高級なホストっぽいイケメンは、俺に向かって微笑んだ。

 俺は、トングを手繰り寄せながら、オッサンとイケメンを交互に見比べ、どっちに攻撃を仕掛けるべきか迷っていた。どっちが本体だ?!どっちも胡散臭い。

 「君…えっと… 芳賀沼はがぬまくん?」

 イケメンが俺の名札を読み上げた。クッソッ!しまった。名札を隠すのを忘れていた。これはまた本部クレームコースだ。俺は屈辱に塗れながら、腹の中で舌打ちした。その俺の前に、一枚の名刺が差し出された。あろうことか金色だ。

 書かれた文字は、『…御風呂?』…って、なんだ?

 俺が名刺から顔を上げると、ドヤったクドいオッサンの顔があった。

加賀沼かがぬま君、ウチに来たまえ!」

 ヤだよ。
 ってか、オッサン俺の名前覚えるの早すぎだろ。しかも微妙に間違えてるけどな。つーか、なんだよ??この展開は?

 これが、このオッサン、御風呂場おふろば 総一朗そういちろう→以降”社長”と、逸崎いつざき 瑛二えいじさん、後の”先輩”とのファーストコンタクトだった。

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■ こんなものも書いています!! ■

    

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