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番外編
動揺 1 ―鬼頭 春夜―
しおりを挟む授業中の静けさとは打って変わって、校内が一気に騒がしくなる昼休み。
目の前の席にいるはずの玲央は日直で職員室に呼ばれたと先ほど席を立ち、その場に残された春夜は、彼方と奇妙な沈黙を守っていた。
別段、彼方と仲が悪いと言うわけでもなく、差障りのない会話を交わす事もあれば、こうして無言のままでいる事もあるだけで、それが特に面倒であると感じることもなく、互いに興味がないだけなのだと春夜は解釈している。
(元々春夜も匂坂に頼まれるまでは彼方の様子を気にする事もなかったし、彼方は彼方で玲央が親交を深めなければ、あのままこうして自分と関わり合いになる事もなかったのだから)
時折、そんな二人の様子を遠巻きから見守っているクラスメイトの視線が鬱陶しいと感じるものの、それも玲央がこの場に戻れば霧散するだろう。
お互い律儀に弁当を開封する事も無く机の上に置いたままの状態で、およそ五分。
流石にこの沈黙の行方を見守っているクラスメイトの視線が痛くなって来た春夜が、未だ戻らない玲央に何をしているのだと若干の苛立ちを感じていれば、不意にスマホが震え出し、丁度良かったとポケットからそれを取り出しボタンを押すと、
彼方悠は、相変わらずか。
なんとも端的な文面と差出人の名を目にした春夜は、ちらりと彼方に視線を寄越すと、
特に変わりはない
これまた差出人に負けず劣らずの端的な文面を打ち込み、送信する。
この不定期で彼方の様子を確認するメールのやり取りは、高校に入学した頃から続いており、けれど、今まで一度も「特に変わりはない」以外の文言を打った記憶はなく、一体このやり取りに何の意味があるのかと思う事がしばしばあった。
(とは言え、そこまで深く事情を聞く事も出来ないまま、ずるずると続けているのだけれど)
既読がついたことを確認すると、いつの間にか彼方が此方の様子をじっと見つめている事に気がつき、どうしたのだと問えば、
「鬼頭くんがLINEしてる姿って……、何か、不思議だな」
「俺だってLINEのひとつくらいする」
LINEをする相手が一人もいないとでも言いたいのかと続け、スマホをポケットにしまうと、
「そうじゃなくて……、どんな人とどんな事、LINEで話したりするのかなって」
珍しく此方の領域へ踏み入った事を口にした彼方に、どう言う心境の変化だと瞠目し、けれどまさか、相手は匂坂で彼方の様子を不定期に送っているのだなどとは口が裂けても言えず、関係ないだろうといつも通りにあしらう事しか出来ない。
しかし、あまりにも素っ気なさすぎただろうかと、若干の罪悪感に苛まれながら彼方の様子を窺えば、彼は特に気にした様子もなく、それもそうだと小さく笑い、購買へ飲み物を買いに行って来ると残して席を立って行った。
その背中を見送り、とうとう一人取り残されてしまった事にますます時間をもてあまし始め、仕方なくどちらかが戻るまで読書の続きでもしようかと鞄を開け本を取り出せば、いつか拾った彼方のポートレートが本に挟まったままだったのか、ひらりと床に落ちる。
それを慌てて拾い上げ、周囲の視線を確認するが、彼方が出て行った事で興味は既に薄れていたのか、誰一人として此方を見ている者はおらず、春夜は安堵の溜息を洩らした。
これを持っている事が周囲に知れ渡れば、彼方のファンだったのかと勘繰られてしまい兼ねない。
何となく、これを落とした女子生徒を探してまで返す気にはならなかったし、かと言って捨ててしまうわけにもいかないと、やり場をなくした為に本に挟んでそのままにしていただけなのだ。
本当に、ただ、それだけの理由。
ポートレートを裏返せば簡単な彼方のプロフィールが記載されており、手持ち無沙汰だった春夜は意味も無く、改めてそれを眺めた。
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