上 下
61 / 74
番外編

傍観 4

しおりを挟む
*
*
*

「昔さあ、お気に入りだった玩具、壊されて怒ったことあるんだよね」

 大人しく写真集を眺めていた勇也の唐突な言葉に、一瞬拓斗が首を傾げたものの、すぐに彼は話の続きを促すように頷いて見せ、何となく、拓斗ならば長い間勇也が疑問に思っていた事を答えてくれるのではないかと期待してしまう。

「でもその玩具が壊されるまで、オレ、それの存在全然忘れてたんだよね。これってさあ、玩具を壊された事が気に食わなかったんじゃなくて、他人に壊された事が許せなかったって事なのかなあ?」

 あの時、高梨に向けた怒りは確かにあって、けれどその怒りは一体どっちに対してのものだったのか、未だに判別はつかないままだったのだ。

 別段、悠と親しかったわけでも何でもないのに、あの時自分が怒ったのは何故なのか、不思議でたまらない。

 じっと拓斗の顔を見つめていれば、意外にも彼から返って来たのは答えではなく質問で、


「勇也は、壊された玩具をその後どうしたんだい?」
「……治るか、心配した」


 拓斗の優しい問いかけに、あの時の状況を振り返りながら、痛々しい姿の悠を見て最悪な事態を考えたり、匂坂に大丈夫なのかと窺いを立てたりとしていた事を思い出し答えると、



「それなら、玩具を壊された事が気に食わなかったって事になるんじゃないのかな。他人に壊された事が許せなかったなら、また同じ玩具を買えばいいだけの話で、別に心配する必要はないだろう? でも、治るか心配したってことは、その玩具自体に愛着があったって証拠だよ。それに、勇也が愛着のないものに怒れるような人間には、思えないけどな」

「あいちゃく……?」



 まるで子供を諭すかのように、真っ直ぐ視線を合わせながらゆっくりと話す拓斗の放った「愛着」と言う言葉を無意識に繰り返せば、彼はそうだよと小さく笑って頷いて見せ、けれどその「愛着」と言うものが一体どんなものであるのかが、物事にあまりこだわりを持たない勇也にはよく解らないのだ。


「やっぱよく、わかんないし」
「まあ、それはそれで、幸せな事かも知れないよ。わかったらわかったで、苦しいことも増えるんだから」
「なにそれ。拓斗、オレのこと子供扱いしすぎだし」


 目の前で相変わらずの余裕の笑みを浮かべている拓斗から視線を逸らし、写真集のページを捲ると、今度は悠のソロショットへ切り替わり、更にその先のページへ進めば、小さなハートを模したチョコレートに口付けている悠の写真が見え、





『但し、1個だけ、特別に、内緒で』






 あの甘いくちびると同じフレーバーのチョコレートが、なんだか無性に食べたいと、心の奥で叫んでいる自分に気がついたのだった。

【END】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...