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番外編
傍観 1 ―木崎 勇也―
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昼休み。
食堂で会った剣道部の仲間となんとなく同じ席に座り、美味いと評判の学食を取った後は、各々好きな事をして残りの時間を過ごすのがいつものスタイルで、例えば、勇也なら食後のデザート堪能し、一番仲の良い拓斗ならば読書と、今日もお馴染みの光景がそこにある………、はずだった。
お気に入りのプリンを食べながら、真向かいに座る拓斗の手元を眺めていた勇也が、その違和感に首を傾げていると、それに気がついた拓斗が、どうしたのかと目を通していた本から視線を外して訊ねて来る。
しかし、どうしたのかと聞きたいのはむしろ勇也の方で、拓斗が手にしている本に指をさし、
「拓斗……、なーに、その写真集」
いつもの文庫サイズの小説本ではない、拓斗にしては珍しいチョイスのそれを指摘すると、
「ああ……、クラスの女子が騒いでいて、何かと思って訊ねてみたら、是非観て欲しいと薦められてね」
中々興味深い写真集だよと再びそれに視線を落とす拓斗に、勇也は短い理解の言葉を返し、面倒な女子の話や押し付けがましい態度にも嫌な顔ひとつせずに対応し、あまつさえ素直にそれを受け入れ目を通している彼は、本当に紳士の鏡であるなと、二個目のプリンを味わいながらぼんやり思った。
自分ならば、興味のないものを無理に薦められても苦痛でしかないと、即座に拒絶するだろう。
そんなことを考えながら、随分と長い時間写真集を食い入るように見つめる拓斗が気になって、彼の持っていた写真集をひょいと取り上げた。
勇也の突飛な行動に慣れている拓斗は、怒る訳でも驚く訳でもなく、女子が見れば頬を赤らめる微笑を浮かべながら、「勇也も気になった?」と訊ねてくる。
別段、興味が沸いたと言う訳ではなかったのだが、あまりにも拓斗が真剣に眺めているものだから、一体何の写真集であるのかを確かめて見たくなっただけだと説明し、手に収まっていたそれをぺらりと捲って見れば、
「あれ……、これって、悠じゃん」
中学時代、久世が鬱陶しい程に話していた自慢の友達。
悠のことはほんの僅かではあるが接触する機会があり知っていたけれど、この写真を見る限り雰囲気があの頃とはガラリと変わっていて、一瞬誰だかわからなかった。
それにしても、まさか中学を卒業した現在、悠がモデルとして活躍していたとは……。
ひらりひらりとページを捲っていれば不意に視線を感じ、顔を上げると、今度は拓斗が不思議そうな顔をしてこちらを見ている事に気がつき、どうしたのかと問うと、
「勇也がやけに真剣な顔をして見てたからね。それに、苗字じゃなくて名前でその彼の事を呼んでいたし……、もしかして、知り合いなのかい?」
そんなに真剣な顔をしていたのだろうかと疑問に思いつつも、悠とは中学が同じでちょっとした顔見知りである事を伝えれば、拓斗は納得したのか「なるほど」と小さく呟き、
「綺麗な人だね。この独特な雰囲気と言い、見ていると吸い込まれてしまいそうになる」
恥ずかしげも無く男に綺麗だと言えてしまう彼に感心しながら、何気なく捲ったページの写真に思わず目が釘付けになる。
……薄鈍色の髪。
悠と薄鈍色の髪をしたモデルが随分と際どい姿勢で絡む、所謂女性ファンを意識したサービスショットとも取れるそのページはひどく扇情的で、食い入るように見つめている勇也に、「そのページの彼の表情、とてもリアリティがあるね」と何気なく口にした拓斗が、少しだけ憎らしく思えた。
ここに写っている悠の表情は、撮影用に作られたものではなく、この時の悠の感情がそのまま表に出ている事を、勇也は知っているからだ。
食堂で会った剣道部の仲間となんとなく同じ席に座り、美味いと評判の学食を取った後は、各々好きな事をして残りの時間を過ごすのがいつものスタイルで、例えば、勇也なら食後のデザート堪能し、一番仲の良い拓斗ならば読書と、今日もお馴染みの光景がそこにある………、はずだった。
お気に入りのプリンを食べながら、真向かいに座る拓斗の手元を眺めていた勇也が、その違和感に首を傾げていると、それに気がついた拓斗が、どうしたのかと目を通していた本から視線を外して訊ねて来る。
しかし、どうしたのかと聞きたいのはむしろ勇也の方で、拓斗が手にしている本に指をさし、
「拓斗……、なーに、その写真集」
いつもの文庫サイズの小説本ではない、拓斗にしては珍しいチョイスのそれを指摘すると、
「ああ……、クラスの女子が騒いでいて、何かと思って訊ねてみたら、是非観て欲しいと薦められてね」
中々興味深い写真集だよと再びそれに視線を落とす拓斗に、勇也は短い理解の言葉を返し、面倒な女子の話や押し付けがましい態度にも嫌な顔ひとつせずに対応し、あまつさえ素直にそれを受け入れ目を通している彼は、本当に紳士の鏡であるなと、二個目のプリンを味わいながらぼんやり思った。
自分ならば、興味のないものを無理に薦められても苦痛でしかないと、即座に拒絶するだろう。
そんなことを考えながら、随分と長い時間写真集を食い入るように見つめる拓斗が気になって、彼の持っていた写真集をひょいと取り上げた。
勇也の突飛な行動に慣れている拓斗は、怒る訳でも驚く訳でもなく、女子が見れば頬を赤らめる微笑を浮かべながら、「勇也も気になった?」と訊ねてくる。
別段、興味が沸いたと言う訳ではなかったのだが、あまりにも拓斗が真剣に眺めているものだから、一体何の写真集であるのかを確かめて見たくなっただけだと説明し、手に収まっていたそれをぺらりと捲って見れば、
「あれ……、これって、悠じゃん」
中学時代、久世が鬱陶しい程に話していた自慢の友達。
悠のことはほんの僅かではあるが接触する機会があり知っていたけれど、この写真を見る限り雰囲気があの頃とはガラリと変わっていて、一瞬誰だかわからなかった。
それにしても、まさか中学を卒業した現在、悠がモデルとして活躍していたとは……。
ひらりひらりとページを捲っていれば不意に視線を感じ、顔を上げると、今度は拓斗が不思議そうな顔をしてこちらを見ている事に気がつき、どうしたのかと問うと、
「勇也がやけに真剣な顔をして見てたからね。それに、苗字じゃなくて名前でその彼の事を呼んでいたし……、もしかして、知り合いなのかい?」
そんなに真剣な顔をしていたのだろうかと疑問に思いつつも、悠とは中学が同じでちょっとした顔見知りである事を伝えれば、拓斗は納得したのか「なるほど」と小さく呟き、
「綺麗な人だね。この独特な雰囲気と言い、見ていると吸い込まれてしまいそうになる」
恥ずかしげも無く男に綺麗だと言えてしまう彼に感心しながら、何気なく捲ったページの写真に思わず目が釘付けになる。
……薄鈍色の髪。
悠と薄鈍色の髪をしたモデルが随分と際どい姿勢で絡む、所謂女性ファンを意識したサービスショットとも取れるそのページはひどく扇情的で、食い入るように見つめている勇也に、「そのページの彼の表情、とてもリアリティがあるね」と何気なく口にした拓斗が、少しだけ憎らしく思えた。
ここに写っている悠の表情は、撮影用に作られたものではなく、この時の悠の感情がそのまま表に出ている事を、勇也は知っているからだ。
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