58 / 74
番外編
傍観 1 ―木崎 勇也―
しおりを挟む
昼休み。
食堂で会った剣道部の仲間となんとなく同じ席に座り、美味いと評判の学食を取った後は、各々好きな事をして残りの時間を過ごすのがいつものスタイルで、例えば、勇也なら食後のデザート堪能し、一番仲の良い拓斗ならば読書と、今日もお馴染みの光景がそこにある………、はずだった。
お気に入りのプリンを食べながら、真向かいに座る拓斗の手元を眺めていた勇也が、その違和感に首を傾げていると、それに気がついた拓斗が、どうしたのかと目を通していた本から視線を外して訊ねて来る。
しかし、どうしたのかと聞きたいのはむしろ勇也の方で、拓斗が手にしている本に指をさし、
「拓斗……、なーに、その写真集」
いつもの文庫サイズの小説本ではない、拓斗にしては珍しいチョイスのそれを指摘すると、
「ああ……、クラスの女子が騒いでいて、何かと思って訊ねてみたら、是非観て欲しいと薦められてね」
中々興味深い写真集だよと再びそれに視線を落とす拓斗に、勇也は短い理解の言葉を返し、面倒な女子の話や押し付けがましい態度にも嫌な顔ひとつせずに対応し、あまつさえ素直にそれを受け入れ目を通している彼は、本当に紳士の鏡であるなと、二個目のプリンを味わいながらぼんやり思った。
自分ならば、興味のないものを無理に薦められても苦痛でしかないと、即座に拒絶するだろう。
そんなことを考えながら、随分と長い時間写真集を食い入るように見つめる拓斗が気になって、彼の持っていた写真集をひょいと取り上げた。
勇也の突飛な行動に慣れている拓斗は、怒る訳でも驚く訳でもなく、女子が見れば頬を赤らめる微笑を浮かべながら、「勇也も気になった?」と訊ねてくる。
別段、興味が沸いたと言う訳ではなかったのだが、あまりにも拓斗が真剣に眺めているものだから、一体何の写真集であるのかを確かめて見たくなっただけだと説明し、手に収まっていたそれをぺらりと捲って見れば、
「あれ……、これって、悠じゃん」
中学時代、久世が鬱陶しい程に話していた自慢の友達。
悠のことはほんの僅かではあるが接触する機会があり知っていたけれど、この写真を見る限り雰囲気があの頃とはガラリと変わっていて、一瞬誰だかわからなかった。
それにしても、まさか中学を卒業した現在、悠がモデルとして活躍していたとは……。
ひらりひらりとページを捲っていれば不意に視線を感じ、顔を上げると、今度は拓斗が不思議そうな顔をしてこちらを見ている事に気がつき、どうしたのかと問うと、
「勇也がやけに真剣な顔をして見てたからね。それに、苗字じゃなくて名前でその彼の事を呼んでいたし……、もしかして、知り合いなのかい?」
そんなに真剣な顔をしていたのだろうかと疑問に思いつつも、悠とは中学が同じでちょっとした顔見知りである事を伝えれば、拓斗は納得したのか「なるほど」と小さく呟き、
「綺麗な人だね。この独特な雰囲気と言い、見ていると吸い込まれてしまいそうになる」
恥ずかしげも無く男に綺麗だと言えてしまう彼に感心しながら、何気なく捲ったページの写真に思わず目が釘付けになる。
……薄鈍色の髪。
悠と薄鈍色の髪をしたモデルが随分と際どい姿勢で絡む、所謂女性ファンを意識したサービスショットとも取れるそのページはひどく扇情的で、食い入るように見つめている勇也に、「そのページの彼の表情、とてもリアリティがあるね」と何気なく口にした拓斗が、少しだけ憎らしく思えた。
ここに写っている悠の表情は、撮影用に作られたものではなく、この時の悠の感情がそのまま表に出ている事を、勇也は知っているからだ。
食堂で会った剣道部の仲間となんとなく同じ席に座り、美味いと評判の学食を取った後は、各々好きな事をして残りの時間を過ごすのがいつものスタイルで、例えば、勇也なら食後のデザート堪能し、一番仲の良い拓斗ならば読書と、今日もお馴染みの光景がそこにある………、はずだった。
お気に入りのプリンを食べながら、真向かいに座る拓斗の手元を眺めていた勇也が、その違和感に首を傾げていると、それに気がついた拓斗が、どうしたのかと目を通していた本から視線を外して訊ねて来る。
しかし、どうしたのかと聞きたいのはむしろ勇也の方で、拓斗が手にしている本に指をさし、
「拓斗……、なーに、その写真集」
いつもの文庫サイズの小説本ではない、拓斗にしては珍しいチョイスのそれを指摘すると、
「ああ……、クラスの女子が騒いでいて、何かと思って訊ねてみたら、是非観て欲しいと薦められてね」
中々興味深い写真集だよと再びそれに視線を落とす拓斗に、勇也は短い理解の言葉を返し、面倒な女子の話や押し付けがましい態度にも嫌な顔ひとつせずに対応し、あまつさえ素直にそれを受け入れ目を通している彼は、本当に紳士の鏡であるなと、二個目のプリンを味わいながらぼんやり思った。
自分ならば、興味のないものを無理に薦められても苦痛でしかないと、即座に拒絶するだろう。
そんなことを考えながら、随分と長い時間写真集を食い入るように見つめる拓斗が気になって、彼の持っていた写真集をひょいと取り上げた。
勇也の突飛な行動に慣れている拓斗は、怒る訳でも驚く訳でもなく、女子が見れば頬を赤らめる微笑を浮かべながら、「勇也も気になった?」と訊ねてくる。
別段、興味が沸いたと言う訳ではなかったのだが、あまりにも拓斗が真剣に眺めているものだから、一体何の写真集であるのかを確かめて見たくなっただけだと説明し、手に収まっていたそれをぺらりと捲って見れば、
「あれ……、これって、悠じゃん」
中学時代、久世が鬱陶しい程に話していた自慢の友達。
悠のことはほんの僅かではあるが接触する機会があり知っていたけれど、この写真を見る限り雰囲気があの頃とはガラリと変わっていて、一瞬誰だかわからなかった。
それにしても、まさか中学を卒業した現在、悠がモデルとして活躍していたとは……。
ひらりひらりとページを捲っていれば不意に視線を感じ、顔を上げると、今度は拓斗が不思議そうな顔をしてこちらを見ている事に気がつき、どうしたのかと問うと、
「勇也がやけに真剣な顔をして見てたからね。それに、苗字じゃなくて名前でその彼の事を呼んでいたし……、もしかして、知り合いなのかい?」
そんなに真剣な顔をしていたのだろうかと疑問に思いつつも、悠とは中学が同じでちょっとした顔見知りである事を伝えれば、拓斗は納得したのか「なるほど」と小さく呟き、
「綺麗な人だね。この独特な雰囲気と言い、見ていると吸い込まれてしまいそうになる」
恥ずかしげも無く男に綺麗だと言えてしまう彼に感心しながら、何気なく捲ったページの写真に思わず目が釘付けになる。
……薄鈍色の髪。
悠と薄鈍色の髪をしたモデルが随分と際どい姿勢で絡む、所謂女性ファンを意識したサービスショットとも取れるそのページはひどく扇情的で、食い入るように見つめている勇也に、「そのページの彼の表情、とてもリアリティがあるね」と何気なく口にした拓斗が、少しだけ憎らしく思えた。
ここに写っている悠の表情は、撮影用に作られたものではなく、この時の悠の感情がそのまま表に出ている事を、勇也は知っているからだ。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
生意気オメガは年上アルファに監禁される
神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。
でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。
俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう!
それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。
甘々オメガバース。全七話のお話です。
※少しだけオメガバース独自設定が入っています。
狂宴〜接待させられる美少年〜
はる
BL
アイドル級に可愛い18歳の美少年、空。ある日、空は何者かに拉致監禁され、ありとあらゆる"性接待"を強いられる事となる。
※めちゃくちゃ可愛い男の子がひたすらエロい目に合うお話です。8割エロです。予告なく性描写入ります。
※この辺のキーワードがお好きな方にオススメです
⇒「美少年受け」「エロエロ」「総受け」「複数」「調教」「監禁」「触手」「衆人環視」「羞恥」「視姦」「モブ攻め」「オークション」「快楽地獄」「男体盛り」etc
※痛い系の描写はありません(可哀想なので)
※ピーナッツバター、永遠の夏に出てくる空のパラレル話です。この話だけ別物と考えて下さい。
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ずっと、ずっと甘い口唇
犬飼春野
BL
「別れましょう、わたしたち」
中堅として活躍し始めた片桐啓介は、絵にかいたような九州男児。
彼は結婚を目前に控えていた。
しかし、婚約者の口から出てきたのはなんと婚約破棄。
その後、同僚たちに酒の肴にされヤケ酒の果てに目覚めたのは、後輩の中村の部屋だった。
どうみても事後。
パニックに陥った片桐と、いたって冷静な中村。
周囲を巻き込んだ恋愛争奪戦が始まる。
『恋の呪文』で脇役だった、片桐啓介と新人の中村春彦の恋。
同じくわき役だった定番メンバーに加え新規も参入し、男女入り交じりの大混戦。
コメディでもあり、シリアスもあり、楽しんでいただけたら幸いです。
題名に※マークを入れている話はR指定な描写がありますのでご注意ください。
※ 2021/10/7- 完結済みをいったん取り下げて連載中に戻します。
2021/10/10 全て上げ終えたため完結へ変更。
『恋の呪文』と『ずっと、ずっと甘い口唇』に関係するスピンオフやSSが多くあったため
一気に上げました。
なるべく時間軸に沿った順番で掲載しています。
(『女王様と俺』は別枠)
『恋の呪文』の主人公・江口×池山の番外編も、登場人物と時間軸の関係上こちらに載せます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる