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喪失 3
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悠の消息が掴めなくなってから、更に三週間が過ぎた。
相変わらず悠の噂が絶える事はなく、玲央に真相を確かめに来る生徒も同じように絶える事がなかった。
部活も凡ミスが減る事はなく、とうとう先生に今日一日は部活に出るなとまで言われる始末で、放課後の静まり返った教室に残り、一人ぼんやりと時間を潰していた。
遠くに聞こえる運動部の掛け声や、時折廊下を通り過ぎて行く生徒の声を聞きながら、未だ主の戻らないままの席に座り窓の外を眺めれば、悠がいつも見ていたのだろう景色が目に映る。
夕陽に美しく彩られた景色は玲央の心に何の感動を与える事もなく、けれど、もしもこれを悠と一緒に見ていたのなら、とても素晴らしいものに思えたのかも知れないと、叶う事のない妄想に苦笑し、小さく悠の名前を呟けば、不意に教室のドアが開けられ、僅かな期待に顔を上げれば、
「春ちゃんか……」
部活の休憩中なのか、 剣道着姿の春夜は玲央を一瞥すると特に何を言う訳でもなく自分の席へと向かい机を漁り始めた。
珍しく忘れ物でもしたのだろうかと首を傾げた玲央だったが、いつものように春夜を茶化す気力も湧かず再び窓の外へと視線を寄越し、机を漁る音をBGMに暫くぼんやりしていれば、机の上でジャラリと金属がぶつかるような音が響き、思わずその音源へ振り返ると、そこにはあの"幸福のカエル王子"のついたキーホルダーが佇んでいた。
こんな奇妙なものを持ち込むのは、この空間にたった一人しか考えられない。
……鬼頭 春夜、その人だ。
こんなものを寄越してどう言うつもりなのだろうかと、いつの間にか目の前に立っていた春夜を見上げれば、
「玲央……、受け取れ」
「……へ?」
「幸せを運んでくれるかも知れないだろう」
心底面倒だと言う顔をしながらも、こうしてわざわざ元気づけようとしてくれている春夜のツンデレ加減に噴出せば、何がおかしいと叱られた。
こんなやり取りも久しくしていなかったような気がするなと、キーホルダーをつまみ上げて礼を言うと、春夜は眼鏡のフレームを押し上げながら、
「玲央……、最後まで足掻いてみせろ。どんなに無様だろうと、諦めるな」
そう言い残して、教室を出て行ってしまった。
キーホルダーを渡す為だけに部活を抜け出して来たのかと、春夜にしては非常に珍しい行動に落ち込んでいた気持ちが和らぎを見せ、まさかあの春夜に元気づけられるとは思いもしなかったと、揺れるキーホルダーのカエル王子を突付けば、差し込む夕陽がそれに反射し眩しさに目細める。
それにしても、春夜には足掻いてみせろと言われたものの、これ以上どうすれば良いのか。
悠のスマホは解約され、マンションも引き払われ、実家も出来る限り調べたけれど解らない以上連絡の取り様もなく、こうして悶々と日々を過ごしていると言うのに。
まさか、毎日ここで悠の心に届くまで愛を叫べとでも言うのだろうか。
……いやいや、まさか。
もしもそうだと言うのなら、相変わらず無茶振りがハンパないと苦笑し、春夜から受け取ったキーホルダーをポケットに突っ込むと、
「悠……、」
ポツリと呟き僅かな深呼吸……、そして、
「お前のことが、好きだ!」
力の限り、そう、叫んだ。
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悠の消息が掴めなくなってから、更に三週間が過ぎた。
相変わらず悠の噂が絶える事はなく、玲央に真相を確かめに来る生徒も同じように絶える事がなかった。
部活も凡ミスが減る事はなく、とうとう先生に今日一日は部活に出るなとまで言われる始末で、放課後の静まり返った教室に残り、一人ぼんやりと時間を潰していた。
遠くに聞こえる運動部の掛け声や、時折廊下を通り過ぎて行く生徒の声を聞きながら、未だ主の戻らないままの席に座り窓の外を眺めれば、悠がいつも見ていたのだろう景色が目に映る。
夕陽に美しく彩られた景色は玲央の心に何の感動を与える事もなく、けれど、もしもこれを悠と一緒に見ていたのなら、とても素晴らしいものに思えたのかも知れないと、叶う事のない妄想に苦笑し、小さく悠の名前を呟けば、不意に教室のドアが開けられ、僅かな期待に顔を上げれば、
「春ちゃんか……」
部活の休憩中なのか、 剣道着姿の春夜は玲央を一瞥すると特に何を言う訳でもなく自分の席へと向かい机を漁り始めた。
珍しく忘れ物でもしたのだろうかと首を傾げた玲央だったが、いつものように春夜を茶化す気力も湧かず再び窓の外へと視線を寄越し、机を漁る音をBGMに暫くぼんやりしていれば、机の上でジャラリと金属がぶつかるような音が響き、思わずその音源へ振り返ると、そこにはあの"幸福のカエル王子"のついたキーホルダーが佇んでいた。
こんな奇妙なものを持ち込むのは、この空間にたった一人しか考えられない。
……鬼頭 春夜、その人だ。
こんなものを寄越してどう言うつもりなのだろうかと、いつの間にか目の前に立っていた春夜を見上げれば、
「玲央……、受け取れ」
「……へ?」
「幸せを運んでくれるかも知れないだろう」
心底面倒だと言う顔をしながらも、こうしてわざわざ元気づけようとしてくれている春夜のツンデレ加減に噴出せば、何がおかしいと叱られた。
こんなやり取りも久しくしていなかったような気がするなと、キーホルダーをつまみ上げて礼を言うと、春夜は眼鏡のフレームを押し上げながら、
「玲央……、最後まで足掻いてみせろ。どんなに無様だろうと、諦めるな」
そう言い残して、教室を出て行ってしまった。
キーホルダーを渡す為だけに部活を抜け出して来たのかと、春夜にしては非常に珍しい行動に落ち込んでいた気持ちが和らぎを見せ、まさかあの春夜に元気づけられるとは思いもしなかったと、揺れるキーホルダーのカエル王子を突付けば、差し込む夕陽がそれに反射し眩しさに目細める。
それにしても、春夜には足掻いてみせろと言われたものの、これ以上どうすれば良いのか。
悠のスマホは解約され、マンションも引き払われ、実家も出来る限り調べたけれど解らない以上連絡の取り様もなく、こうして悶々と日々を過ごしていると言うのに。
まさか、毎日ここで悠の心に届くまで愛を叫べとでも言うのだろうか。
……いやいや、まさか。
もしもそうだと言うのなら、相変わらず無茶振りがハンパないと苦笑し、春夜から受け取ったキーホルダーをポケットに突っ込むと、
「悠……、」
ポツリと呟き僅かな深呼吸……、そして、
「お前のことが、好きだ!」
力の限り、そう、叫んだ。
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