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喪失 2
しおりを挟む【衝撃!! 人気モデル・彼方 悠が引退!?】
思わぬ人物の名前とそのアオリの内容が気になって、先輩の質問に答えることも忘れた玲央が慌てて該当するページを開けば、そこには久しく目にしていなかった悠の姿があり、書かれている内容に目を通そうとした所で手元から雑誌が抜き取られ、何事かと顔を上げれば目の前には帰り支度を整え雑誌を手にした先輩の姿があった。
「つーか、これ今日発売したばっかだから、読みてぇなら明日以降貸してやるよ」
今日はもう帰るからなと、帰り支度が整った彼は更衣室を出て行ってしまった。
記事の内容が非常に気になるところだったが、先輩の私物をここで読みふける程の図々しさは流石の玲央も持ち合わせておらず、仕方なしに帰りにどこかコンビニでも寄って同じものを立ち読み、若しくは買おうと急いで着替えを済ませ、昇降口へ歩き出せば不意に名前を呼ばれ立ち止まる。
今度は一体何だと苛立ちながらも振り返ると、そこには見知らぬ女子生徒の姿があり、玲央の口からは思わず溜息が漏れた。
どうせまた、悠についての質問攻めのパターンだろう。
用事があるから早く終わらせてくれと内心うんざりしながらも、とりあえずは何の用かを聞く為に部活が終わるのをわざわざ待っていたらしい女子生徒に向き直ると、彼女は口を開くよりも先に鞄から取り出した雑誌を玲央の目の前に差し、
「彼方くん……、モデル辞めちゃうって本当ですか?」
差し出された雑誌が先輩の持っていたものと同じ事を確認した玲央が彼女から雑誌を受け取り、質問に答える事なく書かれた内容に目を通していれば、確かにそこには悠がモデルを引退する事が書かれていた。
悠の事務所側はノーコメントを貫いているのか、記載されている内容はどれも信憑性の薄い記者の憶測によるものばかりで、求めている正確な情報は何一つとしてそこにはなく、むしろ、その憶測は雑誌の売り上げアップを明らかに狙ったかの如く面白おかしく書き立てられているのが明らかで、これが他人のものでなければすぐさま誌面を破り捨てている所だと、胸糞の悪さに思わず眉を顰めてしまった。
……やっぱり、本人に直接確かめてみるべきだ。
アテにならないマスメディアの情報に踊らされる事ほど馬鹿らしいものはないと、開いていたページを閉じて不安そうな顔で様子を窺っている女子生徒に、こんな下らない記事鵜呑みにするなと雑誌を突き返した玲央が踵を返すと、今度は先ほどよりも大きな声で呼び止められ、まだ何かあるのかといよいよ面倒になって来た事に緩く頭を振れば、
「あの……っ、彼方くんが、このまま学校も辞めるんじゃないかって……、職員室で、先生が話をしてるの聞いたんですっ!」
思いも寄らない情報に、その場から動けなくなってしまった。
職員室で教員が話していたと言うそれは、あの雑誌の記事よりも信憑性が高く、悠が学校に来ていない今、最も危ぶまれている現実だからだ。
悠が来なくなってから現時点でおよそ一ヶ月強(その他諸々を併せればもっとあると思う)……、このまま欠席が続けば出席日数の関係で進級も危うくなってしまうかも知れない。
最悪、自主退学を選択する場合もあるだろう。
……二度と、顔を合わせる事もなく。
『やっぱり、玲央がいてくれると安心するなって思って』
『……だって……、【友達】なんだろ、俺たち』
『玲央は、何があっても俺から離れて行かない?』
……何一つ、大事なことを告げられないまま。
最後に見た悠の顔が脳裏を過ぎり、弾かれるようにその場を駆け出すと、玲央は足を止める事なくポケットにあるスマホを取り出し、悠の電話番号を画面に表示させる。
悠が出たらまず最初に何を言えば良いのか解らなかったが、とにかく今は悠の声が聞きたくてたまらなかった。
通話ボタンを押せば、僅かな接続音の後にコール音が響く。
……はずなのだが、聞きなれたコール音は玲央の耳に響く事は無く、その代わりとでも言うように流れて来るガイダンスは「現在使われておりません」を繰り返すばかりで、いよいよ事態は深刻である事を目の当たりにした玲央は、自転車置き場につくなりすぐさま自転車へ飛び乗ると、足繁く通っていた悠のマンションへ向かって走らせる。
そう簡単に、諦められる訳がなかったのだ。
例え悠が久世を選んだとしても、悠を想う気持ちが簡単に消えるはずもなく、悠が目の前からいなくなってしまうと言う不安に駆られた今、こうして身体が勝手に動いているではないか。
悠に何が起こったのかを確かめたいと言うのはほんの建前で、本当は、ただ悠に会って、その顔を見て声を聞きたい。
あの日、悠に会って言えなかった気持ちを伝えたい。
結果は見えていたとしても、このまま何も伝えられずに二度と会えなくなるのだけは、絶対に嫌だった。
やけに長く感じる道のりを懸命に自転車で走り続け、ようやく辿りついたマンションの駐輪場に自転車を置いた玲央は、一階の正面玄関前へ踏み入れたところで、目の前に立ちはだかっている一枚のガラス戸の前に立ち尽くしてしまった。
ついクセでポケットを探してしまっていたが、鍵は悠へ返してしまっていた為に、このオートロックのガラス戸を開ける手段を、今の玲央は持っていないのだ。
仕方なしに悠の部屋番号を押しインターフォンを鳴らして見たものの、そこからの返答はなく、どうすべきだろうかと頭を抱えていれば、タイミングの良いところで顔見知りの警備員の姿を見つけ、藁にも縋る思いで会釈をして駆け寄れば、
「キミ、確か彼方くんのお友達だったよね。彼、何日か前にここの部屋引き払っちゃったけど……、モデル引退するって本当?」
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