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思弁 3
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あれから中学を卒業し、偶然か必然かはわからなかったが、匂坂に一方的に任された彼方 悠とは二年連続で同じクラスになり、けれど、高校へ入学した彼方は中学で見た頃の彼とは別人のようにその雰囲気をガラリと変えていて、且つ、人気モデルとして久世をも凌ぐ勢いで世に存在を知らしめていたのだから驚きである。
それ故なのか、クラスでも浮いた存在となっていた彼方は誰と仲良くするわけでもなく、そうかと言って何か嫌がらせを受けるわけでもなく、淡々と日々を過ごしているようだった。
一年の頃と何ら変わりなく、別段、おかしな様子も見られない。
ともすれば、何故、匂坂がそこまで彼方にこだわるのか理由がますますわからない。
孤立する事がないように傍にいてやれと言うのか、それとも何者かによって危害を加えられないように見張っていろと言うのか、はたまた、彼方が奇行に走るとでも言うのか。
最後の可能性は普段の生活態度からしてあり得ないとして、残りの二つはあってもおかしくはないのだけれど、今のところ、危害を加えられているような様子もなければ、そんな愚かしいことをするような人間も幸いにして近くにはいなかった。
それに……。
「春ちゃーん、どこ行ってたんだよ!」
「その呼び方は止めろ。それに、何故行き先をいちいちお前に言う必要があるんだ?」
買ったコーヒーを片手に自分の席へ戻ると、先程まで彼方に纏わりついていたはずの玲央が、いつものように春夜へと標的を変えて絡んで来る。
やはり、未だにこの感じは慣れないが、まあ、悪くはないと思っているのはここだけの秘密だ。
プルタブを開け、コーヒーを一口飲むと、目の前でニヤニヤと笑っている玲央に気づき何事だと視線を寄越せば、
「俺、とうとう悠を、口説き落としたぜ!」
あまりにも突飛な台詞に、思わず口に入れたコーヒーを噴出してしまった。
汚い、とあわてて飛びのいた玲央を尻目に、口説き落とされたらしい彼方の方を見やれば、相変わらずぼんやりと空を眺めている。
「口説き落としたなどと……、玲央、お前は何と不埒なことを……!」
「やだー、何勘違いしてんの春ちゃん! 今日の昼休みは悠も一緒に、三人でメシ食おうぜ!」
心底楽しそうに笑って、ついでに誇らしげにピースサインを見せる玲央に呆れの溜息を吐いたものの、心のどこかで、玲央がいてくれて良かったと安堵している自分がいるのだ。
コミュニケーション能力に長ける玲央のおかげで、彼方との接触を図ることもできる上に、彼が下手に孤立する事もない。
故に、匂坂が心配しているであろうことは、何一つ起こり得る要因がないのだ。
……本当に、何をそこまで匂坂が気にかける必要があるのか。
四限目の授業が終わり、すぐさま席を立って彼方と共に屋上へ向かった玲央の背を眺めながら弁当を取り出すと、春夜もそれに続くように教室を後にする。
途中、匂坂に言われた事を思い出し、LINEで律義に連絡する事も忘れない。
ごく短い報告にすぐさま既読がつくと、ポケットにスマホを突っ込んだ。
「春ちゃん、早く来ないと、置いてっちまうぞー」
別に置いて行ってくれても良いのだが、と言う言葉を飲み込んで、しぶしぶ彼らの後を追う。
玲央の隣を歩きながら笑う彼方の表情は、久世と共にいた頃のものと、よく似ている気がした。
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