「ハーブティーはいかがですか?」聖痕が利き腕に現れなかった聖女は、役立たずと言われながらも世界を救う。

魔茶来

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新たな聖痕顕現せし時

約束(1)

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 縛られたパトレシアが悲壮な顔で母親に懇願していた。
「お母様止めてください、なぜアリエス王子にそのようなことをなさるのですか?」

 女王は笑いながら答えた。
「何を?、見て分からないのかい、私の龍具を顕現させようとしているのさ」

 アリエス王子はどろどろしたスライム上の液体に体を飲み込まれて動けなかった。

「アリエス王子、ちゃんと力を出しなさい、そうしないと愛しいパトレシアが痛い目に遭うわよ」

 必死の形相で女王を睨むアリエス王子。
「止めろ!!、自分の子供に、よくもそんなことが出来るな!!」

 女王はより高らかに笑いながら、馬鹿にしたような顔で王子を見た。
「ばかね、この子は拾った子よ、貴方をおびき寄せるための餌よ」

「最初は貴方の大事なお友達を殺してその悲しみに付け込んでからと思ったんだけどね
 貴方はその餌に自ら食いついたのよ」

 苦しい息の中で王子が止めさせようとする。
「こんなことをしても何にもならないぞ、ソルア国軍が動けばお前の計画など直ぐに破綻する」

「先祖が三人王の王子が龍具を軽んじるとは驚きね、この龍具が有れば世界の1/3は支配できるのよソルア国軍なんて敵ではないわ」

 スライム上の悪魔は王子を飲み込みながら光る、その光は岩の塊のような龍具を照らすと岩は少しずつ姿を変え始めていた。

「貴方はまだ覚醒していないのよ、だから龍具が龍核の破片のままだわ
 でも覚醒はする必要は無いわよ、私たちの邪魔になるからね」

「その状態で貴方の中の龍の力がピークに達すれば龍具が顕現するわ
 貴方が覚醒していないからこそ、その状態になればこのスライムの悪魔でも貴方をエネルギー体に変えることができるのよ
 そうよ貴方は龍具にエネルギー与え続けるただの塊になるのよ」

「安心しなさい、悪魔の力で人よりも長く何百年も生きられるわ……よかったわね」

「だから早く龍具を顕現させるのよ、そうしないとパトレシアがどんな目に遭うか……」

「お母様止めて!!、アリエス王子を放して……」

「お母様?、お前なんか生んだ覚えは無いよ!!
 そうだ、お前を救えるのは唯一王子だけだよ、だからもっと王子に助けを求めるんだ」

 悲痛な叫びが続く……

 ◆   ◆

 サリアは目覚めたが言葉を発することが出来なかった。
 もちろん起き上がることも出来なかった。

「あっ、あっ……」
 顔の傷がうずき、目も片方は亡くなっていた。
 顔は半分マスクで覆われ、顔を一周するバンドが顔の上半分を覆っていた。

 殆ど顔は出ていなかった。

 体の左半身には大きな切り傷が一直線に入っていた。

 言葉を発することが出来ないのはマスクのためだけでは無い
 最後に見た光景……シェリル姫が胸から血を吹き出しながら谷に落ちて行く姿。

(守れなかった、守れなかった、何も出来なかった……姫、姫、姫、ご無事で……)

 その思いだけがサリアを支配していた。

 ◆   ◆

 クリシェの中の悪魔は消えかけていた……

 リコの魂に向けて話し掛けた。
「お前が神の魂だったのか、だが中途半端な状態のようだな……
 誉めてやろう、その状態で私を抹殺できるとわね」

 悪魔は消えて行き、最後に悪魔の残滓が残った。

 リコはその残滓を手に取ると自分の中に入れた。
「お前の中の残滓を私の中で休ませよう、そうだお前は私の足りない所を補ってくれるだろう」

 リコの中で何かが広がり出した……
「そうか、神と悪魔か……」

 リコはその後、はッとした。
「アーカシャの記録、そこへ行けば……久美子も……」

 その後リコの魂は光の玉となり、少しして光の玉は消えた。

「本来この体の魂となるべく生まれたクリシェの魂よ、後は頼んだぞ」

 そう言い残して……

 ◆   ◆

 ユリアナを始め多くソルア国兵士が王女を探していた、だが痕跡すら見つからなかった。
「あの出血だ、直ぐには止まらなかっただろう、その上この日数が経ってしまったんだ……」
 絶望に近い意見が支配的になっていたが……

「あの王女は規格外だからな、絶対生きているさ……」
 そう言う意見も王女を知る者には多かった。

 モルゲンは魔物の巣窟である危険な崖の下の調査を開始していた。
 モルゲンには確信が有った。
「国王と王妃の心痛は我々には計り知れないものだろう、だが王妃や国王は毅然としておられる
 そして『王女は生きておる』と断言された、そうさ、間違いなく王女は生きている」

 しかし国王と王妃にはちゃんとした確信が有るわけでは無かった。
「そうだ『このお腹の子が世界を救う者になる』と予言された子だ
 まだ世界を救っていない、これからだからな……」

「そうですわ、きっと私たちのもとに帰って来ます」

 そう思いながら、未だ帰らぬ娘を心配していた

 ◆   ◆
 
 ふらふらと暗い中を浮かんでいるシェリル姫。

「何処なんだろう、ここ……私は死んだのかな?」

 不意に声が聞こえた。
「何をしておる?」

 暗いので顔や姿は分からない……
「えっ、誰?」

「何をしておるかと聞いておるのだ」

 声に覚えがった……
「その声、もしかしてお嬢様?」

「そうだ、お前は何をしておるのかと聞いている」

「多分、私は心臓に剣を突き立てられて死んだと思うの、だから天国に行くの?」

「天国に行く?、無理だ……」

「えっ、じゃあ地獄に行くの?」

「それも、無理だ……」

「そんなことをしている暇は無いぞ
 マリアスが最後の旅に出た……
 お前と我が新しき従者の縁が結ばれる時が来る、急げ」

「そんなこと言われても、私はもう生きていないし……
 それとも、お嬢様は神様で私を生き返られることができるの?」

「お前は”あほう”のようだな……
 死んでなどおらぬわ、あほうめ早く目覚めるのだ!!」

「えっ??……」

 シェリル姫は驚いて胸を見た。

 そこには大きな傷ではなく輝く新たな『聖痕』が顕現していた。
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