「ハーブティーはいかがですか?」聖痕が利き腕に現れなかった聖女は、役立たずと言われながらも世界を救う。

魔茶来

文字の大きさ
上 下
55 / 118
ムーシカ

アミール

しおりを挟む
 人とは悲しいものだ、仮面ペルソナを被り、自分ではない者にならなければ出来ないことが有るらしい。
 このログジという男の仮面ペルソナは愉快そうな笑い顔だったが、実際には中身の人は何かから逃げている小心者、ロンダ伯爵と言う男だった。

「ログジさんアミール様の引退までの間の話をお伺いしたいのです
 よろしくお願い申し上げます」

「私はシェリル姫の策士クリシェです
 今は年齢は無視してください、そうお考えいただきお話しください」

 ロンダ伯爵は昔話を思い出し話を始めた

「それはまだ二人が知り合う前だった

 ~ ~ ~

 アミールは既に有名になってはいたが、実は限界を感じていたらしい

 そしてマクドレーンという作曲家に興味を持った
 その若き作曲家は全く新しい奏法や新たな音を取り入れ新しい音楽の道を切り開いていた

 その頃の奏者仲間の紹介でマクドレーンに会うことが出来たらしい
 そして、新たな曲を作曲して貰ったら、これが大当たりした

 ここ数か月の間のスランプを知っていたアミールの母親は喜んでいたらしい
 そしてこの後も数曲の約束で曲を作ってもらうことにした

 3曲目の作曲中に『幻奏』の兆候があったそうだ
 『幻奏』に関しての解析や実験をしたらしい、結果4曲目は全く新たな曲として注目を浴びたんだ

 だがアミールは『幻奏』を起こさせる奏法が難しいためマクドレーンに隠れて練習したそうだ
 実はアミールであっても相当な練習をしなければ『幻奏』の効果なんて出なかったんだ

 マクドレーンは一つミスをしたんだよ
 アミールだからとか、アミールなら演奏できるという間違った方向に信じた
 でもアミールも普通の奏者だったんだよ、そう努力がその信頼を繋いでいた

 曲は段々難しくなる、でもマクドレーンはアミールなら出来るという期待を持っていた

 アミールは再度スランプに陥りそうになっていた
 その頃に俺たちは知り合ったんだ

 なんか陰気に演奏をしていたので、景気付けにアンサンブルをしようと提案してみた
 そうしたら、『演奏できるわ、何故なんだろう』とか言いながら曲を演奏していた
 演奏がうまくいくと陰気な顔が嬉しそうな顔になった

 俺はあの時の顔に惚れたんだろうな

 そうして演奏が難しくなるが、その度に俺たちはアンサンブルをするようになった
 不思議なことに一度演奏出来れば次からは一人でも演奏できるんだ、本当に不思議だった 

 6曲目にしてマクドレーンは『幻奏』が『開花』したと表現したそうだ
 そうだ、単純な音響効果ではなく遂に音が自然に広がると、まるで今まで聞いたことも無い楽器の音を醸し出し始めた
 マクドレーンは最終的には心もこの音楽の中に影響を与え始めるんじゃないかと夢のような話をしたそうだ

 曲は最高位の難しさになった、やはりマクドレーンはアミールなら出来るという期待を持っていた
 そのひずみが腱鞘炎という形になって表れた

 数か月の間アミールを休ませないといけないという事実が主催者を怒らせた
 そしてアミールの母親に主催者は損害を補償しろと言ったそうだ
 もちろんそんなことは休んでいるアミールやその母親に出来る筈はない
 母親は回復してからの返済を約束したんだそうだ

 主催者の条件が作曲家を変えることだった

 アミールはそのときは、そんな約束があるとは知らなかった

 母親は物凄く怒った顔でマクドレーンに対して
『普通の曲で十分なのになぜそんな変な効果の付いた曲を書いた
 そんなことを続けるなら、次から別の作曲者に頼む』という話をして契約を打ち切ったそうだ

 しかしマクドレーンはアミールに頼むしかなかった
 そこで作曲ではなく二人で研究をすることにしたそうだ
 だが、マクドレーンとアミールが『幻奏』に関わることを止めないことが分かると、主催者は再度怒って強硬手段に出た

 そうマクドレーンは変な術を使って曲を演奏させていると言いふらした
 その策は効果てきめんだった、マクドレーンは仕事を無くし仕事もお金も無くしたということだ

 アミールはこの時私に『先生を探して』と頼んできた
 彼女にとっては変わらず先生だったのだ

 そして私の知り合いに頼んで探し出したのさ

 だが、マクドレーンは対人恐怖症のようになっていた
 アミールは最低の状態のマクドレーンに言ったそうだ
『先生、あなたは天才よ、そんな術なんか使っていないことを証明しましょう』

 そう言って二人で新たな曲を作った、それがさっき演奏した『浜辺の天女』のオリジナルなんだ
 しかし、結局これもアミール以外に演奏できなかった……
 実際には、彼女すら全てを演奏できなかった
 俺も何度も伴奏もしたが結局うまく演奏できる確率は非常に低かった

 だが彼女の母親に見つかったんだ……
 母親はマクドレーンに鬼の形相で食って掛かった
『娘の腕を使い物にならなくする気か!!
 演奏者を壊そうとする、お前は作曲者では無い』

 その後それを知った主催者は
『マクドレーンは演奏家の腕を使えなくする曲を作る"悪魔の作曲家だ"と噂を広めた』

 それだけでは無かった、主催者は町のはぐれ者を使ってマクドレーンを街から追い出したんだ

 アミールは再度私に探してくれとお願いしてきたが……
 その後のマクドレーンの足取りは全く分からなかった
 何処かで亡くなったんでは無いかという噂はあるが定かではなかった

 アミールは演奏する気力すら無くしていた
 俺は声も掛けられなかった

 アミールの母親は心配していたが、ある日マクドレーンの弟子だという者を連れてきた
 この弟子が『浜辺の天女』を演奏してマクドレーンの作曲家としての名声を取り戻すことを提案した
 もちろん曲を簡単に演奏するためのアレンジ曲をマクドレーン自体が準備したという話だった
 また演奏で儲けた金の一部はマクドレーンに渡すという話だった。

 アミールはその話を聞いて元気になって演奏を始めたんだ
 そして『浜辺の天女』は評価された始めたんだ

 ある日主催者と花親の話を聞いてしまったらしい
『儲けは8:2で2がお前たちの取り分だ、前回の約束の割合のはずだ』

『前回の損害額はとっくに取り戻せているはずだ元の5:5に直すのが筋だろう
 あんまり欲をかくなら、アミールに演奏をさせないよ』

 そんな会話だったらしいが詳細は分からない
 ただ、マクドレーンへの配分の話など一切なかった

 その晩アミールは母親と口論になった
 そしてマクドレーンが何も関わっていないことを知り、あの曲も編曲をしたのは弟子でもなんでも無い者だと分かった
 そうだ、勝手に曲を書き換えた上にその曲を作曲者の許可も得ないで演奏をしていた、そして彼らの目的は金で、マクドレーンには全く払われ無かった……
 その背徳感に苛まれたアミールは家を飛び出した

 その晩街をふらついてたアミールを見つけた者が治療所へ行くようにと指示した
 『母親が自殺した』という話だった

 母親は失われて行く意識の中でアミールに謝っていたそうだ
 そして最後の言葉は『貴方の演奏を待っている人たちが居るから演奏を続けて』と言ったそうだ

 アミールは母親の葬儀が終わると母親との約束があるので前の主催者とは異なる興行主を探して演奏会をしようと考えていた
 そうだ、『浜辺の天女』を覚えている限りオリジナルでと思い、可能な限り演奏しようとしたそうだ……
 だが『浜辺の天女』は、簡易に演奏できるように編曲したものでさえ全く演奏できなくなっていた

『終わった』
 そう思い、そんなにも涙が出るのかと思える程泣き続けた

 会いたいと言って来たアミールの様子がおかしいので問いただしたら、譫言のように『これから母親の所に行く』と言うばかりだった

 俺はこの時、アミールを放っておく訳には行かないと思い、結婚することを決意した
 もちろん結婚までは少し時間は掛かったよ

 だが誤算があった、音楽家として何もかも失ったアミールに俺の母親はつらく当たったんだ…
 『そんなことも出来ないのかい』という言葉と共に出来ないことを数えてイジメていたらしい……

 俺は何もしてやれなかったんだ
 でもクレンが出来てからアミールも強くなって行ったようだ
 クレンを誰からも守るという一心だったようだ

 結果的に今は俺の母親のコピーになっていた

 ~ ~ ~

 とまあ、そんな話だ、残念ながら引退などと言うことはアミールは一言も言ってはいない
 主催者が勝手に言っているだけだ」

 クリシェは話のすべてを聞くと
「全貌は分かりました、策は出来ましたのでご協力願います」
 そういうとロンダ伯爵に紙を渡した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...