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智子
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最近寒さも和らいできたが、やはり肌寒い。
でも今日は智子の大好きな大江戸屋のホカホカのたい焼きも買って来た、智子の所で一緒に食べるんだ。
それにしても久しぶりになってしまった。
そうだ、智子がおばあちゃんの介護をするということで、会社を退職してから1年半も経っていた。
最初はちょくちょく電話もしたのだが、私も最近は仕事が忙しく、このところチョットご無沙汰だった。
でも今年の年賀状の返事が来ていなかったこともあり心配になり先日電話したのだ。
智子は少し元気がないかなという声だったが病気でもなく、ともかく智子も忙しいと答えてくれた。
ただ、元気がない声がなんとも心配だった。
「智子を放っておけないぞ」と言う訳で、彼女の家まで訪ねて行くことにした。
そもそも、なぜ彼女がおばあちゃんの介護をして居るかと言うと……
智子の母親は智子が小さい時に離婚し、おばあちゃんのところで智子親子は一緒に生活していたのだ。
そうそう、おばあちゃんは私も知っているが温厚な優しい人だった。
3世代の女だけの生活だったが、女3人楽しかったそうだ。
だが智子の母親は一生懸命智子を育てるために働き、その苦労が祟ったのか彼女が成人する前に亡くなってしまった。
その後、智子の身内はおばあちゃんだけになったが二人で生活をして来た。
智子とおばあちゃんの二人での生活も、智子も会社に就職したためおばあちゃんは一人で暮らす時間が長くなっていた。
そして智子の就職後、数年たった頃からおばあちゃんに認知症の症状が出始めた。
最初、智子は時短で早期帰宅したりして面倒を見ていたが、症状の進行と共にそうも行かなくなったらしい。
智子は介護を理由に会社を退職する決心をしたのだ。
その当時は私も彼女に電話していた。
「よく決心出来たわね」
「だって二人だけの家族だから私が看ないとね」
「大変なんでしょ」
「大変と言うか本当に忙しいわ、自分のことが出来ないの」
おばあちゃんは一人で何かを出来ると思っているが智子が付いていないと大変なことになることも多いらしい。
また洗濯物も大変だそうだ、まだ洗い始めたばかりなのに次の洗濯物が出てくるのよとか言っていた。
時間の概念が無くなっていたり、持ち物や所有の概念がなんか変になっているとか?
本当に色々なことがあるようで智子自身の生活も出来ない位、大きく変わったそうだ。
その頃のことは聞いて知っていた、だが今回智子の話声はもっと疲れた状態に思えた。
その声を聞いて悪い予感がしたのだ。
私の知っている状況よりも、もっと大変な状況になっているのでは無いだろうか?
そう思うと居ても立っても居られなくなってしまった。
「明日会社帰りに行くから、絶対行くからね」
そう言ってしまったのだ、相手の迷惑も考えず本当に私はしょうがない奴だな。
◆ ◆
良く知った友達の家、良くここに来たものだ。
だが、その家の前に来て驚いた。
まだ夕方なのに、雨戸が閉まっているというかカーテンも雨戸も閉まっていたら家の中は暗いだろうに?
そして大声が聞こえて来た。
「ここに置いておいた財布を何処へやったの?」
温厚だったおばあちゃんの声だった、怒り狂うように怒鳴ってた。
そして智子の声がする、少し興奮しているのか大声だった。
「そこの引き出しに入れておいてッていったでしょ、!!おばあちゃんこそ何処へなおしたの」
「私は知らない、お前が盗ったんだろ!!」
「馬鹿なことを言わないで、その辺にあるんじゃないの……」
しばらく喧嘩でもしているんじゃないかと思うような声が聞こえた。
最後は一言で終わったようだ。
「ほらあったじゃない」
そして静かになったが、あの温厚なおばあちゃんからは想像も出来ない荒々しい声だった。
それも智子を泥棒扱いするなんて…
そして智子も大声を出して応戦するなんて、あんなにお婆ちゃんが好きな子だったのに。
本当に二人に何が有ったというのだろうか?
私の知らない、おばあちゃんと智子が居るようで、今まで良く知った智子の家ではないような気がした。
そうだ、家の中に入ることに躊躇していた。
勇気を出してインターフォンのベルを押す。
「は~い、どちら様でしょうか?」
いつもの智子の声だ、少し安心して答える。
「ごめんなさい、私よ忙しいところ申し訳ないわね、喜べ!!、美味しいたい焼き持って来たぞ!!」
「由香里なの、久しぶり、今開けるね」
そう言うと玄関に智子が走って来て扉を開けた。
「えっ?智子なの?」
驚いた、1年ほど会わなかっただけだが、物凄く歳をとったようだった。
智子は全く化粧をして居なかった、そして髪は自分で切っているのだろうか?
短く不揃いにカットされていた。
そして私と同じ年ごろなのに髪には白いものが目立った。
そうだ、歳をとったように見えるのは化粧をして居ないせいかもしれない。
顔色が悪く目の下にクマが出来ていた。
「驚いた?、…、そうね驚くわね、ごめんね…」
そう謝る智子、何を謝っているのだろうか?
ただ、智子の顔を見て、私の心配は当たっていたかもしれないと思った。
でも今日は智子の大好きな大江戸屋のホカホカのたい焼きも買って来た、智子の所で一緒に食べるんだ。
それにしても久しぶりになってしまった。
そうだ、智子がおばあちゃんの介護をするということで、会社を退職してから1年半も経っていた。
最初はちょくちょく電話もしたのだが、私も最近は仕事が忙しく、このところチョットご無沙汰だった。
でも今年の年賀状の返事が来ていなかったこともあり心配になり先日電話したのだ。
智子は少し元気がないかなという声だったが病気でもなく、ともかく智子も忙しいと答えてくれた。
ただ、元気がない声がなんとも心配だった。
「智子を放っておけないぞ」と言う訳で、彼女の家まで訪ねて行くことにした。
そもそも、なぜ彼女がおばあちゃんの介護をして居るかと言うと……
智子の母親は智子が小さい時に離婚し、おばあちゃんのところで智子親子は一緒に生活していたのだ。
そうそう、おばあちゃんは私も知っているが温厚な優しい人だった。
3世代の女だけの生活だったが、女3人楽しかったそうだ。
だが智子の母親は一生懸命智子を育てるために働き、その苦労が祟ったのか彼女が成人する前に亡くなってしまった。
その後、智子の身内はおばあちゃんだけになったが二人で生活をして来た。
智子とおばあちゃんの二人での生活も、智子も会社に就職したためおばあちゃんは一人で暮らす時間が長くなっていた。
そして智子の就職後、数年たった頃からおばあちゃんに認知症の症状が出始めた。
最初、智子は時短で早期帰宅したりして面倒を見ていたが、症状の進行と共にそうも行かなくなったらしい。
智子は介護を理由に会社を退職する決心をしたのだ。
その当時は私も彼女に電話していた。
「よく決心出来たわね」
「だって二人だけの家族だから私が看ないとね」
「大変なんでしょ」
「大変と言うか本当に忙しいわ、自分のことが出来ないの」
おばあちゃんは一人で何かを出来ると思っているが智子が付いていないと大変なことになることも多いらしい。
また洗濯物も大変だそうだ、まだ洗い始めたばかりなのに次の洗濯物が出てくるのよとか言っていた。
時間の概念が無くなっていたり、持ち物や所有の概念がなんか変になっているとか?
本当に色々なことがあるようで智子自身の生活も出来ない位、大きく変わったそうだ。
その頃のことは聞いて知っていた、だが今回智子の話声はもっと疲れた状態に思えた。
その声を聞いて悪い予感がしたのだ。
私の知っている状況よりも、もっと大変な状況になっているのでは無いだろうか?
そう思うと居ても立っても居られなくなってしまった。
「明日会社帰りに行くから、絶対行くからね」
そう言ってしまったのだ、相手の迷惑も考えず本当に私はしょうがない奴だな。
◆ ◆
良く知った友達の家、良くここに来たものだ。
だが、その家の前に来て驚いた。
まだ夕方なのに、雨戸が閉まっているというかカーテンも雨戸も閉まっていたら家の中は暗いだろうに?
そして大声が聞こえて来た。
「ここに置いておいた財布を何処へやったの?」
温厚だったおばあちゃんの声だった、怒り狂うように怒鳴ってた。
そして智子の声がする、少し興奮しているのか大声だった。
「そこの引き出しに入れておいてッていったでしょ、!!おばあちゃんこそ何処へなおしたの」
「私は知らない、お前が盗ったんだろ!!」
「馬鹿なことを言わないで、その辺にあるんじゃないの……」
しばらく喧嘩でもしているんじゃないかと思うような声が聞こえた。
最後は一言で終わったようだ。
「ほらあったじゃない」
そして静かになったが、あの温厚なおばあちゃんからは想像も出来ない荒々しい声だった。
それも智子を泥棒扱いするなんて…
そして智子も大声を出して応戦するなんて、あんなにお婆ちゃんが好きな子だったのに。
本当に二人に何が有ったというのだろうか?
私の知らない、おばあちゃんと智子が居るようで、今まで良く知った智子の家ではないような気がした。
そうだ、家の中に入ることに躊躇していた。
勇気を出してインターフォンのベルを押す。
「は~い、どちら様でしょうか?」
いつもの智子の声だ、少し安心して答える。
「ごめんなさい、私よ忙しいところ申し訳ないわね、喜べ!!、美味しいたい焼き持って来たぞ!!」
「由香里なの、久しぶり、今開けるね」
そう言うと玄関に智子が走って来て扉を開けた。
「えっ?智子なの?」
驚いた、1年ほど会わなかっただけだが、物凄く歳をとったようだった。
智子は全く化粧をして居なかった、そして髪は自分で切っているのだろうか?
短く不揃いにカットされていた。
そして私と同じ年ごろなのに髪には白いものが目立った。
そうだ、歳をとったように見えるのは化粧をして居ないせいかもしれない。
顔色が悪く目の下にクマが出来ていた。
「驚いた?、…、そうね驚くわね、ごめんね…」
そう謝る智子、何を謝っているのだろうか?
ただ、智子の顔を見て、私の心配は当たっていたかもしれないと思った。
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