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少女編
コハクチョウとおばあちゃんの真珠 (3)
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次の日の朝、母親の何時もの声で起きるサエラ。
「サエラ、もう8時やで、いつまで寝とんや!!、早よ起きやぁ!!」
昨晩は色々有ったので父親は母親と遅くまで話していたのだろうか、父親もまだ寝ているようだった。
「あんたもいつまで寝とるんや、会社遅れるよぉ!!」
サエラは急いでご飯を食べると、学校に行く準備をいそいそとして、玄関に下りて靴を履く。
玄関を開けると犬小屋から”シルコ”が尻尾振ってこっちに飛びついてくる。
「分かった分かった、シルコ、学校へ行ってくるわ、帰ったら散歩に行こな、待っとりや」
「お父さん、母さん行ってきます!!」
そう言うと何時ものサエラが学校に行く。
そのいつものサエラの様子に母親は少し安心した。
そして、母親は父親にひとこと言う。
「あんたも早よ準備して会社行かんかいな!!」
いつものように学校へ行く道で「おはようサエラ」とミカが声を掛けて来る。
そしてミカと一緒に学校まで行く。
ミカはサエラの顔を覗き込みながら?
「今日も早く帰るんか?」と聞いてきた。
サエラは微笑みながら話をする。
「今日は行くところがあるねん」
「何処に行くの?」
「野鳥保護センター」
「昨日野鳥助けたから、様子見に行くんや」
「そうか、うちはちょっと方向が違うから、今日は行かれへんけど今度一緒に行っても良いか?」
「良いで!!」
その日学校が終わるとすぐに、野鳥保護センターに向かう。
(今日から学校が終わってからも勉強や、代金は払ったんや、元はちゃんと取るで)
保護センターに着いたが、センターに用事があるわけでもないので入る口実が無い……いや、実は入る勇気が出ない。
そこで、保護センターの前から金網越しに見える野鳥の中からコハクチョウを探すサエラ。
確かに何羽かは見えるが、あのコハクチョウの姿は見えなかった。
遠くからコハクチョウを見ているサエラを見つけ、センターの人が優しく話しかけてくれた。
「もしかして、コハクチョウが好きなの?」
そう聞かれると答えは決まっている。
「うん、大好き」
サエラは昨日のコハクチョウのことを聞いてみた。
「今日コハクチョウが動物病院から来ませんでしたか?」
驚いたような顔をしてセンターの人はサエラの両肩を掴んで顔を真っすぐ見てくる。
「もしかして、貴方が杉谷先生が言っていたコハクチョウを助けた子ね」
「そうやけど…」
「貴方、コハクチョウを抱えて杉谷先生の所に走ってくれたんだってね、ありがとう」
なんか、安心したような顔のセンターの人は話を続ける。
「杉谷先生がいつも元気な子なのに、昨日は元気がないので心配していたわよ、でも今日は元気なようで安心したわ」
センターの人は河合さんと名前を教えてくれた。
河合さんはサエラをセンターの中のケージに連れて行ってくれた。
コハクチョウ数羽が居たがその中の一羽を指す。
「あの子よ」
そこにはあのコハクチョウが居た。
間違いない、くちばしの黄色い部分の模様に特徴がある子だ。
しかしコハクチョウは蹲っており、ジッとしている。
河合さんお話では、リハビリを始めるのには、もう少し時間が掛かるらしい。
「野鳥を癒すことは人間には簡単なことではないのよ」
「あのコハクチョウは、まだ人を怖がりリハビリなど出来る状況では無いのよ」
河合さんは野鳥保護センターの他の所も案内をしてくれた。
他のケージには、他にもコハクチョウが居たが、羽が折れているものや片足が傷ついたもの等数羽いた。
近寄らず遠くから眺めながら、担当しているセンターの人に話を聞く。
「あんな風に羽が大きく傷ついたものは、春になっても北へ帰れないの」
「昨日のコハクチョウは怪我は大したことなかったらから、たぶん飛べるようにはなると思うんやけどな……」
「うまくリハビリが進めば、北へ帰ることも出来ると思うのよ」
それを聞いて、サエラは大きな声で反応してしまった。
「本当ですか!!」
そこまで元気になって欲しい、そう思うサエラは(コハクチョウさん頑張ってね!!)と思うのだった。
その日、河合さん以外の保護センターの人も優しく色々なことを教えてくれた。
そして、野鳥保護センターでは多くのボランティアで運用されていることを聞いた。
例えば、杉谷先生はボランティアで数日に一回、野鳥センターに来る。
そして傷ついた野鳥たちを診察や治療していく。
その他にも大学生や高校生がボランティアで手伝っていた。
サエラは小学校3年生だが自分も何かが出来ないか尋ねてみた。
「うちに、なんか手伝えることある?」
「そうやね、色々あるわよ」
それを聞いて(これから来れる限り来よ!!)と心に決めたサエラだった。
------
その日以降、野鳥保護センターに行くのが日課のようになっていた。
お手伝いとして色々なことがあるし顔なじみになってきたこともあった、今では胸を張って行けるようになった。
あのコハクチョウはセンターの人と話をするのに便利なようにサエラが”パール”と名前を付けた。
相変わらず、”パール”は、匂いや気配で人が居ると分かると餌には近づかないため、餌を食べない日が続ていた。
そのことはサエラにとっても辛く、自分の責任であるかのように感じていた。
(”パール”ごはん食べないと元気になられへんで、お願いやからご飯食べて)そう願わずにはいられなかった。
”パール”の様子を見る以外にも、サエラはセンターに働く色々な人の話を聞いて色々な勉強をしていた。
特に野鳥という「野生の鳥」の勉強していた、例えば最初の頃よく聞いたのはサエラの最大の疑問だった。
「なぜ野鳥に餌をあげてはいけないのか?」
その話をセンターの何人かに聞いてみたりした。
「私はお父さんやお母さんに聞いて、鳩とかやったら餌をあげると”烏とか猫とか他の動物”もやって来るとか、糞害が……とか、アレルギーの人も居るから……とか教えてもろた」
「でも、ケガした特別な1羽くらいなら良いとか思ってしまったのは悪いことなん?」
例えば、大学生の樋口さんは分かりやすい話をしてくれた。
「人間の食べ物は野生の動物が食べると毒になる場合もある」
そう聞いた時、サエラは思い当ることが有った。
「そう言えばシルコにも食べさしたらあかん食材があったなぁ」
人には影響がなくても小動物には影響のある添加物とかがあるのは事実である。
また別の日に別のボランティアで来ていた相馬さんの話は、サエラがテレビで見たことがあった話につながっていた。
「人に餌をもらうようになると、餌を探すことを止めてしまう鳥が出てくるのよ」
「そうなんか、そうなったらペットと同じでずっと世話をしてやらなあかんなぁ……」
「考えたら、台風や大雨の時に餌をやったり、雨に濡れているのを助けたりでけへんもんな」
悲しい話だが、大雨や台風の時には野鳥は命がけであることも聞いた。
実はそういう日の翌日には多くの野鳥が亡くなっていることを知りサエラは少しショックを受けた。
「そうやって人から簡単に餌をもらっている内に、人に慣れて人の食べ物を盗んでいく鳥も出てくる、先日海水浴場で人の食べ物を盗んでいる鳥のニュースが有ったわよ」
野鳥に餌をあげてはいけないという話ですら、色々な話を聞けた。
しかし、実際には小学校3年生では難しい話も多い。
センター長の草刈さんから”少し難しいけど”と言いながら説明された話……野生の動物全体の話になるともっと難しかった。
「野生の動物は自然が決めた数でバランスが取れてるのや……」
「人が手を出すとそのバランスが崩れるんや」
「結局何処かで崩れたバランスの影響で可哀そうな目に遭う野鳥や動物がいるらしい」
結局、たったひとつの質問だったが、いろいろな意見があった。
さて、ここ数日のサエラの成果、いや結論は……
「野鳥は自然の中で自然のルールで必死に生きている、だから人が一時的な気持ちで手を出してはイカンということやった」と偉そうに夕食の時に父親や母親に自慢げに話したが、世良自身がちゃんと理解はできていなかっただろう。
そんな勉強もしながら数日たった頃
センターの人の工夫が功を奏したのか、”パール”は餌を食べても安全と分かると"もりもり"食べるようになってきた。
「”パール”頑張って早よ元気になりや」
両手で重そうな樽をもって手伝いをしながら”パール”を見舞っているサエラだった。
「サエラちゃん、ご苦労様、その樽はその辺りに置いておいて」
「はい、分かりました」
今日も元気にお手伝いに励むサエラだった。
野鳥保護センターにはコハクチョウ以外も色々な野鳥が保護されている。
それと連絡があれば、野鳥を保護しに出かけている。
ある日、結城さんというセンターの人の車に乗って傷ついた野鳥の捕獲に一緒に行った。
「あれやな」
そう結城さんは言うと車を止め、保護用のケージと道具?を持って行く。
湖の岸壁にある岩の上に、その野鳥は居た。
「シギやな、それにしても酷いな……」と結城さんが言った。
サエラは一目見て、目を伏せた。
「なんで、こんなことになるんや……」
その野鳥には釣り糸が巻き付き、特に足は糸がきつく巻き付き、ちぎれかかっていた。
結城さんはそのシギに巻き付いている釣り糸を外すと保護用のケージに入れた。
「一度杉谷先生に見てもらおうな」と言うと車を出した。
サエラは見るも無残な姿の野鳥に対して掛ける言葉がない。
結城さんに何気なく話しかける。
「足、大丈夫かな」
「たぶん、あかんわ……」
「可哀そうやなぁ……なんであんなところに釣り糸が……」
結城さんの話ではそういう野鳥も時々居るらしい。
「前にこの場所で片足でも生きているシギが居たよ、片足やけど必死で餌取って生きてたよ」
野鳥の話を聞くたびに「野生の鳥」である野鳥が自然の中で如何に必死で生きているかを理解していく日々となっていた。
日々続く、サエラの保護センターでの野鳥学習は生死を見ることを含め、小学生には結構ハードな内容もあった。
でも、サエラは色々なことを理解しようと頑張った。
「これがお父ちゃんの言う、学校で出来きない勉強なんやな……」
「サエラ、もう8時やで、いつまで寝とんや!!、早よ起きやぁ!!」
昨晩は色々有ったので父親は母親と遅くまで話していたのだろうか、父親もまだ寝ているようだった。
「あんたもいつまで寝とるんや、会社遅れるよぉ!!」
サエラは急いでご飯を食べると、学校に行く準備をいそいそとして、玄関に下りて靴を履く。
玄関を開けると犬小屋から”シルコ”が尻尾振ってこっちに飛びついてくる。
「分かった分かった、シルコ、学校へ行ってくるわ、帰ったら散歩に行こな、待っとりや」
「お父さん、母さん行ってきます!!」
そう言うと何時ものサエラが学校に行く。
そのいつものサエラの様子に母親は少し安心した。
そして、母親は父親にひとこと言う。
「あんたも早よ準備して会社行かんかいな!!」
いつものように学校へ行く道で「おはようサエラ」とミカが声を掛けて来る。
そしてミカと一緒に学校まで行く。
ミカはサエラの顔を覗き込みながら?
「今日も早く帰るんか?」と聞いてきた。
サエラは微笑みながら話をする。
「今日は行くところがあるねん」
「何処に行くの?」
「野鳥保護センター」
「昨日野鳥助けたから、様子見に行くんや」
「そうか、うちはちょっと方向が違うから、今日は行かれへんけど今度一緒に行っても良いか?」
「良いで!!」
その日学校が終わるとすぐに、野鳥保護センターに向かう。
(今日から学校が終わってからも勉強や、代金は払ったんや、元はちゃんと取るで)
保護センターに着いたが、センターに用事があるわけでもないので入る口実が無い……いや、実は入る勇気が出ない。
そこで、保護センターの前から金網越しに見える野鳥の中からコハクチョウを探すサエラ。
確かに何羽かは見えるが、あのコハクチョウの姿は見えなかった。
遠くからコハクチョウを見ているサエラを見つけ、センターの人が優しく話しかけてくれた。
「もしかして、コハクチョウが好きなの?」
そう聞かれると答えは決まっている。
「うん、大好き」
サエラは昨日のコハクチョウのことを聞いてみた。
「今日コハクチョウが動物病院から来ませんでしたか?」
驚いたような顔をしてセンターの人はサエラの両肩を掴んで顔を真っすぐ見てくる。
「もしかして、貴方が杉谷先生が言っていたコハクチョウを助けた子ね」
「そうやけど…」
「貴方、コハクチョウを抱えて杉谷先生の所に走ってくれたんだってね、ありがとう」
なんか、安心したような顔のセンターの人は話を続ける。
「杉谷先生がいつも元気な子なのに、昨日は元気がないので心配していたわよ、でも今日は元気なようで安心したわ」
センターの人は河合さんと名前を教えてくれた。
河合さんはサエラをセンターの中のケージに連れて行ってくれた。
コハクチョウ数羽が居たがその中の一羽を指す。
「あの子よ」
そこにはあのコハクチョウが居た。
間違いない、くちばしの黄色い部分の模様に特徴がある子だ。
しかしコハクチョウは蹲っており、ジッとしている。
河合さんお話では、リハビリを始めるのには、もう少し時間が掛かるらしい。
「野鳥を癒すことは人間には簡単なことではないのよ」
「あのコハクチョウは、まだ人を怖がりリハビリなど出来る状況では無いのよ」
河合さんは野鳥保護センターの他の所も案内をしてくれた。
他のケージには、他にもコハクチョウが居たが、羽が折れているものや片足が傷ついたもの等数羽いた。
近寄らず遠くから眺めながら、担当しているセンターの人に話を聞く。
「あんな風に羽が大きく傷ついたものは、春になっても北へ帰れないの」
「昨日のコハクチョウは怪我は大したことなかったらから、たぶん飛べるようにはなると思うんやけどな……」
「うまくリハビリが進めば、北へ帰ることも出来ると思うのよ」
それを聞いて、サエラは大きな声で反応してしまった。
「本当ですか!!」
そこまで元気になって欲しい、そう思うサエラは(コハクチョウさん頑張ってね!!)と思うのだった。
その日、河合さん以外の保護センターの人も優しく色々なことを教えてくれた。
そして、野鳥保護センターでは多くのボランティアで運用されていることを聞いた。
例えば、杉谷先生はボランティアで数日に一回、野鳥センターに来る。
そして傷ついた野鳥たちを診察や治療していく。
その他にも大学生や高校生がボランティアで手伝っていた。
サエラは小学校3年生だが自分も何かが出来ないか尋ねてみた。
「うちに、なんか手伝えることある?」
「そうやね、色々あるわよ」
それを聞いて(これから来れる限り来よ!!)と心に決めたサエラだった。
------
その日以降、野鳥保護センターに行くのが日課のようになっていた。
お手伝いとして色々なことがあるし顔なじみになってきたこともあった、今では胸を張って行けるようになった。
あのコハクチョウはセンターの人と話をするのに便利なようにサエラが”パール”と名前を付けた。
相変わらず、”パール”は、匂いや気配で人が居ると分かると餌には近づかないため、餌を食べない日が続ていた。
そのことはサエラにとっても辛く、自分の責任であるかのように感じていた。
(”パール”ごはん食べないと元気になられへんで、お願いやからご飯食べて)そう願わずにはいられなかった。
”パール”の様子を見る以外にも、サエラはセンターに働く色々な人の話を聞いて色々な勉強をしていた。
特に野鳥という「野生の鳥」の勉強していた、例えば最初の頃よく聞いたのはサエラの最大の疑問だった。
「なぜ野鳥に餌をあげてはいけないのか?」
その話をセンターの何人かに聞いてみたりした。
「私はお父さんやお母さんに聞いて、鳩とかやったら餌をあげると”烏とか猫とか他の動物”もやって来るとか、糞害が……とか、アレルギーの人も居るから……とか教えてもろた」
「でも、ケガした特別な1羽くらいなら良いとか思ってしまったのは悪いことなん?」
例えば、大学生の樋口さんは分かりやすい話をしてくれた。
「人間の食べ物は野生の動物が食べると毒になる場合もある」
そう聞いた時、サエラは思い当ることが有った。
「そう言えばシルコにも食べさしたらあかん食材があったなぁ」
人には影響がなくても小動物には影響のある添加物とかがあるのは事実である。
また別の日に別のボランティアで来ていた相馬さんの話は、サエラがテレビで見たことがあった話につながっていた。
「人に餌をもらうようになると、餌を探すことを止めてしまう鳥が出てくるのよ」
「そうなんか、そうなったらペットと同じでずっと世話をしてやらなあかんなぁ……」
「考えたら、台風や大雨の時に餌をやったり、雨に濡れているのを助けたりでけへんもんな」
悲しい話だが、大雨や台風の時には野鳥は命がけであることも聞いた。
実はそういう日の翌日には多くの野鳥が亡くなっていることを知りサエラは少しショックを受けた。
「そうやって人から簡単に餌をもらっている内に、人に慣れて人の食べ物を盗んでいく鳥も出てくる、先日海水浴場で人の食べ物を盗んでいる鳥のニュースが有ったわよ」
野鳥に餌をあげてはいけないという話ですら、色々な話を聞けた。
しかし、実際には小学校3年生では難しい話も多い。
センター長の草刈さんから”少し難しいけど”と言いながら説明された話……野生の動物全体の話になるともっと難しかった。
「野生の動物は自然が決めた数でバランスが取れてるのや……」
「人が手を出すとそのバランスが崩れるんや」
「結局何処かで崩れたバランスの影響で可哀そうな目に遭う野鳥や動物がいるらしい」
結局、たったひとつの質問だったが、いろいろな意見があった。
さて、ここ数日のサエラの成果、いや結論は……
「野鳥は自然の中で自然のルールで必死に生きている、だから人が一時的な気持ちで手を出してはイカンということやった」と偉そうに夕食の時に父親や母親に自慢げに話したが、世良自身がちゃんと理解はできていなかっただろう。
そんな勉強もしながら数日たった頃
センターの人の工夫が功を奏したのか、”パール”は餌を食べても安全と分かると"もりもり"食べるようになってきた。
「”パール”頑張って早よ元気になりや」
両手で重そうな樽をもって手伝いをしながら”パール”を見舞っているサエラだった。
「サエラちゃん、ご苦労様、その樽はその辺りに置いておいて」
「はい、分かりました」
今日も元気にお手伝いに励むサエラだった。
野鳥保護センターにはコハクチョウ以外も色々な野鳥が保護されている。
それと連絡があれば、野鳥を保護しに出かけている。
ある日、結城さんというセンターの人の車に乗って傷ついた野鳥の捕獲に一緒に行った。
「あれやな」
そう結城さんは言うと車を止め、保護用のケージと道具?を持って行く。
湖の岸壁にある岩の上に、その野鳥は居た。
「シギやな、それにしても酷いな……」と結城さんが言った。
サエラは一目見て、目を伏せた。
「なんで、こんなことになるんや……」
その野鳥には釣り糸が巻き付き、特に足は糸がきつく巻き付き、ちぎれかかっていた。
結城さんはそのシギに巻き付いている釣り糸を外すと保護用のケージに入れた。
「一度杉谷先生に見てもらおうな」と言うと車を出した。
サエラは見るも無残な姿の野鳥に対して掛ける言葉がない。
結城さんに何気なく話しかける。
「足、大丈夫かな」
「たぶん、あかんわ……」
「可哀そうやなぁ……なんであんなところに釣り糸が……」
結城さんの話ではそういう野鳥も時々居るらしい。
「前にこの場所で片足でも生きているシギが居たよ、片足やけど必死で餌取って生きてたよ」
野鳥の話を聞くたびに「野生の鳥」である野鳥が自然の中で如何に必死で生きているかを理解していく日々となっていた。
日々続く、サエラの保護センターでの野鳥学習は生死を見ることを含め、小学生には結構ハードな内容もあった。
でも、サエラは色々なことを理解しようと頑張った。
「これがお父ちゃんの言う、学校で出来きない勉強なんやな……」
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