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2.お前が待っているのは俺じゃないから

砂漠の民⑪

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 準備を終えそろそろ出発しようとするロザリア王女と俺。
 ここに居るザガール国の者たちはロザリアを巫女様と呼び、彼女のその勇敢な行動に惜しみない感謝を与えた。
 そうそうフェスリーは相変わらずロザリアのフードで丸くなって「もふもふ団子」状態になって眠っていた。

「あの人たちの思いを受けてしまうと、大変だが遣り甲斐のあることだと思うな、そう思わないかロザリア」

「私もそう思います、今までの私はなんと愚かな者だったのでしょうか」

「そういう考え方は違うな、そういうのを後ろ向きという、後悔なんてしなくて良いんだ、今が重要さ前を向いて行こうじゃないか!!」

 少し考えるロザリア、でも顔を俺にまっすぐに向けるとはっきりとした声で答えた。
「はい前を向いて進みます」

(回り道をしてまでも此処に来た甲斐はあった、ここでのことは大事なことだ。でもそれ以上にラミア様とジェイ様が私達にとって切り離せない大きな存在になって行く、そういえばサンクスはジェイに対して特別な思いを持ち始めているような気がする。少し危険な気がする、でも危険って?何が?変なの・・・)

 そして戦車は戦いへの道を走り出した。

 ◆    ◆

 ミザカがグレスとサンクスがやっていることを興味深く見ていた。

「グレスさん、今度はどんな具合?火のエレメントを流してみたんだけど」

「不思議な気分だ、それと驚いたよ火のエレメントは感じることができる」

「やっぱりそうだな火のエレメントを最も大きく感じるようだねグレスさんの魔力属性は火に間違いない」

 ミザカは全くエレメントを感じることができず。
「凄いわグレス、でも私はまったく感じないわ・・・」

「亮先生に教えてもらった時に落ち着けとかよく言われた、瞑想の仕方まで教えてくれたんだよ」

「瞑想してしまってどうするの?怒りの力が無いと『激怒の戦士アンガーファイター』には成れないわよ」

「そうだ『激怒の戦士アンガーファイター』の練習の時は怒れ、怒れと教えられた。原理は同じでもより強力に発揮させるために怒れと練習させられた、それが逆に落ち着いて魔力を使うことを阻害していたんじゃないかな?」

 サンクスが偉そうに解説する。
「そうだね、魔力は術式を使って顕現する力だからね。頭を使わないとだめなんだ」

 少し苛立ったミザカはちょっと起こったかもしれない。
「失礼ねそれじゃ私たちがバカみたいじゃないの・・・」

「そうは言っていないよ。でも精密な術式の魔法もある、本当に微妙な魔力の調整が必要な場合もある。いつも瞬間の最大の力だけを出すことだけを考えていてはいけない。大きな力を出すときは落ち着いて魔力を溜めて顕現させるんだよ」

 グレスは大きな力に反応する。
「大きな力?」

「そうさ魔力を溜めること、そして一気に爆発させるんだ」

「それって分かるわ、殴る時の感覚よね、大技を使う時によくやってるもの」

「少し違うよ、魔力の場合溜める時間はその数十倍、いやもっと長い時間溜めることもあるんだ」

「なるほどな、その時だけの力を考えてはいけないということだな、なんとなくだが魔法が使えそうな気がする。ありがとうサンクス師匠」

 師匠と言われて悪い気がしないサンクスだった。

 そばにイグルが来た。
「そろそろ時間のようだ、それでは私の役割を果たしに行ってくる」

「イグル様、無理をしないでください」

「ああ、大丈夫だ作戦通り三か所に奴らを別れさせるよ、マグリのためにもやり遂げるさ」

 そう言うと管理楼の最上階に向かっていった。

 サンクスはグレスに尋ねた。
「グレス様マグリって誰ですか?」

 拳を作って黙っているグレス、その姿を見てミザカが言葉を発する。
「イグル様の奥様です、グレス様のお母さま、そして末端では在りますが王族でした」

「それじゃグレスも王族なの?」

「母はそれを隠すために奴らの前では俺が前妻の子であると言い続けた、それが証拠に『激怒の戦士アンガーファイター』に子供のころなれなかったのだとね、だが母はその後奴らに・・・・」

 固く握った拳が震えそして涙声になる。

「俺は王族であってはならないんだ」

「グレス様、でも今はザガール国には新たな王が必要なのです」

「違う、王族なんかいなくても・・・亮先生は王のいない国の話をしてくれた。そんな国の在り方もある。そうだまずは民のことを考えよう」

 その言葉を聞いてサンクスは思わず呟いた。

「まずは民のことか、ロザリア王女と同じだ」

「まだ成人前の王女がそのように・・・、あのような状況で王女はそんなことを考えていたのだな・・・・王族とはそういうものなのだな、俺など、まだまだだな・・・」

「そのようなことはありません、グレス様も立派です」

「ありがとうミザカ、だが俺は後ろ向きな話をしたのではない、もっと精進すると言っているんだけだ安心するがよい」

 ◆   ◆

 管理楼の最上階三人の管理者、デザート方面隊バグラ隊長、クレスト参謀、そしてゲラバ魔道参謀がロザリアを捕らえたことで安心して休んでいた。

 イグルはまずゲラバ魔道参謀のドアをノックした。
「ゲラバ魔道参謀様、お休みのところ申し訳ありません。急ぎの要件です」

「なんだイグル、急用とはどうしたのだ」

「グランズ様がすぐに来てほしいと言われましたので、何か新しい魔石がどうのと言っておりました」

「何!!新しい魔石?、奴はどこにいるんだ?」

 窓を開けるイグル、そこには基地内の南の端にあるテントの横で座り込んでいるグランズの姿があった。

「すぐに行くとするか、隣のクルーラに起きてこちらに来るように言っておけ」

「はい、分かりました」
 そういうとイグルは隣の部屋へクルーラを起こしに行った。

 薄暗い空はだんだんと明るくなっていく。

 そしてさっきまで砂漠を埋め尽くしていた虫たちは砂の中に消えていった。

 管理楼から見える遥か向こうにロザリア王女を乗せた戦車が管理楼を目指して進んでいた。
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