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2.お前が待っているのは俺じゃないから

砂漠の民⑩

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 人質救出は成功している。
 だが、これから大勢で移動している最中に追いかけて来られると面倒だ。
 情報収集の結果残りのゴーレムは三体であり、先ほどのロザリアが捕らわれたという嘘の情報を使いこの三体を広い場所へおびき出す計画だった。

「・・・そしてイグラ様には上層の六名をバラバラに案内させる役割をお願いしたいのです」
 サンクスがジェイと話した内容に従い説明した。

 準備を整え少し時間が余っていた。

 グレスがサンクスに話しかけた。
「サンクス君は魔法が使えるよね?」

「さっき使った程度なら使えますがなにか?」

「俺にも使えるかな?」

「えっ?使えるかなって言われても・・・」
 言葉に詰まるサンクス。

 ラミアが答えを知っていたようで簡単に答えを教える。
「使えるわよ、貴方達が『激怒の戦士アンガーファイター』になっているのは体を魔法で作り替えているのよ」

「「えっ、あれは魔法なんですか?」」
 グレスとミザカの声が揃う。

「気づいていないのね、あんなこと魔法でなくて何だと言うの?」

 グレスが魔法という言葉に驚いたように興奮しながら返答する。
「青虫が蝶になるのと同じだと思っていました」

「虫の変態と同じ名前の魔法変態メタモールフォーゼ魔法なのよ、でも虫の変態と違い元の姿に戻れるでしょ」

「そうなのか、これは俺達だけに神より与えられた超能力だと思っていたが違うのか」

変態メタモールフォーゼ魔法か聞いたことはあるが難しい魔法のはずだよねラミア様」

「そうね、でもザガールの人達の魔法は身体強化の特別版とでも言うべきかしら、でも一つの変化に特化した魔法なので魔法と気づくことがないんだと思うわ」

 グレスは興奮していた。
「では他の魔法も使える可能性はあると言うことですね」

「そうよ、使えるはずよ、魔法が使いたいの?」

「我々は魔法ではなく戦士であることを重視し過ぎたのです、そして魔法が使えないと思い込んでいた。実はクラバト王の残した文書の中にそのことが書いてあったのです」

「クラバト王が魔法のことを?」

「ザガール国の敗因は接近戦ではない魔法による遠距離攻撃が出来ないことでした。古代の書物ではザガール国でも魔法は使えていたようですが今は使える者は居ません。クラバト王は『魔法を否定していることで使えなくなったのだろう、なんと愚かなことだ』と考え居たり悔やんでいました。逃げ延びダガダに付いたクラバト王は昔使えたならと色々試したそうですが、どんなに望んでも王には魔法は使えなかった」

「ザガールの人達の変態メタモールフォーゼ魔法は身体強化なのでエレメントの使い方が少し違いますからね、相当訓練が必要です」

「サンクス君そうなのか?」

「魔法と言うのは基本的にエレメントを感じられるかどうかですが、エレメントって分かりますか?」

 ミザカは初めて聞く言葉だった。
「エレメント?私はありません」

 グレスには遠い過去に聞いたことがあった。

「子供の頃、聞いたことがある。俺は子供の頃激怒の戦士アンガーファイターになることが出来なかった。そんな俺を救ってくれたのは亮先生だった」

「リヨウ、亮・・・亮・・・亮先生」
 サンクスの顔が真顔になって行く。

「私の先生です。彼は魔法の使い方と同じだなとか言いながら私が激怒の戦士アンガーファイターになる練習に付き合ってくれました。彼の教えのお陰で私は激怒の戦士アンガーファイターになったのです。それも防御では誰にも負けない戦士に変態メタモールフォーゼ出来たのです」

「貴方の変態メタモールフォーゼは通常の身体強化魔法に近いから防御が強くなったのよ、逆に貴方は魔法を魔法として使えるもっとも近いところに居ると言えるわ」

「本当ですかラミア様」

「本当よ、そうねサンクスにエレメントを感じるようにあなたにエレメントを流し込みながら魔法を使う方法を教えてもらうと良いわ、あれ?どうしたのサンクス?」

 サンクスは何かを見つめるような顔で何かを呟いていた、そして何も聞こえていないようだった。
「亮って・・・亮って・・・まさか、まさか・・・播磨亮(リョウ・ハリマ)という名前だった?」

「サンクスはハリマ先生を知っているのか?」

「やっぱり。。。俺の、俺の父さんなんだ」

「本当なのか、そうか亮先生の御子息だったのか、だからサンクスは俺達を受け入れてくれるのか・・・亮先生も俺を仲間だと言ってくれた」

「そうなんだ・・・」
 涙ぐむサンクス、こんな所で父の話を聞けるとは思っても無かったのだろう。

 (父さんが仲間だと言った人達を俺は敵だ仇だと言ったり思ったりしたのか・・・馬鹿だ俺は)

「俺は小さい時から父さんに魔法を教えてもらったんだ、だから俺が兄弟子だよ、よし俺が魔法を教えてやろう、両手を出して見て」
 いきなり兄弟子風を吹かすサンクス。

 ◆    ◆

 その頃ジェイ達も出発の準備を終えたが少し時間があった。
 そこで結界に来る人達の出迎えをしているロザリア。
「こちらに食事の用意がしてあります。どうぞ食べてください、毛布が必要な方はいらっしゃいませんか?水もありますよ」

 大勢のザガール国の避難者を積極的におもてなししているロザリア。
「ジェイ様本当に凄いですね、ラミア様の収納にはどれほどの量蓄えがあるのでしょうか、これほどの人を食べさせる食料があるなんて?」

「そうだな、食料は俺が育てたものを加工したものだが、ラミアの収納には驚かされているよ」

 その話を耳にして老女がロザリアに声を掛けた。
「巫女様、お名前はロザリアとおっしゃるのですか?」

「そうですロザリアです」

「セグリア王国の王女様と同じお名前ですね」

 そうしていると多くの女たちが集まって来た。

 とりあえず取り繕った。
「幾らでもある名前ですから」

「戦士たちは私達人質のためにセグリア王国を攻めました。そしてセグリア王国は・・・私たちはセグリア王国に取り返しの付かないことをしてしまいました。そう私達のために」

 多くの女たちは涙していた。

「好きだったセグリア王国の歌も踊りも今は自責の念から歌うことも踊ることもが出来ません」

 人の感情とは不思議なものだった。ロザリアも涙が溢れて来た。
 ロザリアは歌い始めた。

「春の山の秘密の林であなたが待っている♪~私は誰にも見つから無いようにそこへ向かう♪」

 周りの女達は涙していたが歌を聞くと顔は明るくなっていく。

「皆さんも歌ってください、踊ってください、そうセグリアは国は無くなりましたが歌が踊りが残っています。そう皆さんが歌ってくれるなら、そして踊ってくれるならそこにはセグリアはあるのです」

 やがて女達は次々と歌い始め合唱となっていく、その中心にロザリアが居た。

 歌が進むにつれ皆は明るくそして元気に踊り始めた。
 
(私の選択は間違っていなかった)
 そうロザリアは心の中でそう繰り返しながら歌を歌っていた。
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