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2.お前が待っているのは俺じゃないから

砂漠の民④

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 深夜であるにもかかわらず。サンブルド王国のゴーズ兵士団では従魔軍団長グレンとゴーズが兵士団のクロウとサブスを呼び出していた。

 元セグリア王国の騎士である二人を呼び出したことに不信がるクロウ、サブスに不機嫌を装い同意を求める。

「なあサブス、夜も遅いのに呼び出されるなんてな。本当にブラックだな嫌になるな」

「いや、大事な要件なんだよ」

「お前要件を知っているのか?」

「シルクスが破れた件で実験して見なければといけないということがあってね」

 明らかにおかしいサブスの言動にクロウはあることを思い出した。

「まさかお前、蟲を・・・」

「そうだよ、だからお前と戦えと指示されている。火炎魔法の達人クロウさん、では行くよ」

 サブスは風を高速でぶつけ合い、間に真空状態を作り出し「鎌イタチ現象」を起こす。

 ザクッ

 クロウの腕の皮膚が大きく引き裂かれる様に切れ、出血する。

「止めろサブス」
 もちろん蟲のことは知っている、無駄だと思うが必死に話しかけた。

「お前、忘れたのか俺たちは長年一緒に第二師団で戦って来たんじゃないか、忘れたのか!!」

 だが声は聞き入れられずより強い魔法を繰り出そうとするサブス。

 グレンは自慢げにゴーズに話をする、
「どうですか蟲の支配は完璧でしょう」

 ゴーズはまだ不満そうだった。
「問題は火炎魔法だな、シルクスが一瞬にやられたのは炎系だと思われるからな」

 クロウは火炎魔法を繰り出す。
 最初は火炎をサブスの周りに何度も出し威嚇した。
 だが引かないサブスに、仕方なくサブスの腕や足にそして胴体に威力を弱め火炎を打ち込んだ。

 普通火傷の痛みを感じる筈だが、だがサブスは痛みを感じることは無かった。
 そしてサブスは足に負傷して、おかしな方向に曲がっていても倒れることは無かった。

 ゴーズは驚いていた。
「ほう本人の意思を超えて立っているのか」

「もちろんです体を操っているのは蟲ですから痛みも何も感じませんからな」

 もうサブスに倒れて欲しいクロウは足に狙いを定めて中級火炎技を使う。

「フレイム・ニードル」
 その技は炎の針が多数飛び出す。

 そしてその技を受けたサブスは流石に倒れた。
 だがサブスは倒れたままでクロウへ再度風魔法の攻撃を繰り出す。

 サブスの攻撃にあちらこちらに傷を負ったクロウは苦悩していた。
 そして最後に受けたの顔の傷が開き目に血が入り片目が見えなかった。

「サブス止めろよ、俺はどうしたら良んだ・・・」

 笑いながら支持するゴーズ。
「クロウよ殺してやらねばサブスは楽にはならんぞ。頭だ。頭に蟲が居るのだ、ちゃんと狙えよ」

「そんなことが出来るか、友達なんだ・・・」

 そんなクロウに一言サブスが小さな声で叫んだ。

「俺を楽にしてくれ、もう俺は俺ではない、お前の力でこの忌々しい蟲をやっつけてくれ」

 血に染まるクロウの片目。
 そして自分の非力と友を思い涙に濡れる片目。
 両方の目がちゃんと見えない状態でクロウは叫んだ。

「サブス先に待っていろ、俺も直ぐに・・・、テラ・フレイム・ブレイク」

 最大火炎魔法をサブスの頭を目掛けて放った。

 クロウの最大魔法である、辺りは一瞬炎で包まれる。
 炎が消える時クロウだけが立っていた。

 グレンは自慢げにゴーズに向けて説明を始めた。
「乗り移り完了いたしました。やはり火炎技で一瞬委焼き払われても蟲は頭に張った結界内で無事ですな。結果この通り乗り移りを成功させております」

 ゴーズは試しにクロウに命令してみた。
「ゴーズよお前は今から家族を殺してこい」

「はいゴーズ様」
 意識の無い声で返事をするクロウ。
 彼の目指す場所は自分の家族のところだった。

 ゴーズはグレンに文句を言っていた。
「最後にサブスは意識が戻ってたが蟲の支配が緩んだのか?」

「違いますよ、あれは私の指示で言わせたこと、ああでも言わないと攻撃しないでしょからね」

「そうなのか、奴らの感情を揺さぶるのは簡単だな、ハハハハハ」

 ただグレンは結果に満足していなかった。
「やはりシルクスを倒したものは相当特殊な魔法を使う者だろう、実際のそいつの技を見て見たいものだ対応策を練らねば蟲が希少なのだ」

  ◆   ◆

 ストレーンにヤグから夢通信が入る。

「すまないストレーン、監視していたサブスがゴーズに呼び出された後、追跡できなくなった。最悪は別の者に蟲が移された可能性がある。気を付けて欲しい」

「そうですか蟲がどの団員取り付いたか私も気を付けて探すようにします。実はロザリア王女には現在砂漠での戦闘に強いザガールの兵により夜襲が掛けられているようです。多人数での夜襲ですので心配しております。ロザリア王女への夢通信は出来ませんか」

「ロザリアへの夢通信は無理ですね、遠すぎますし強い魔力の操作は奴らにこちらの位置を教えるようなものです」

「そうですか、ロザリア王女には何とか逃げ切って欲しいものです」

  ◆   ◆

 ザカール国クラバト王、その男の死の知らせに周りは静まり帰っていた。

 ラミアはクラバト王の家族についてグレスに聞いていた。
「家族は捕まって直ぐに処刑されたのか?」

「俺達元国民も見せつけるように、元王族は集められ口では言えないくらい酷い仕打ちの中に何日も掛けて処刑されたんだ、あいつ等は人間ではない」

「そうか、分かったクラバトの思いは叶わなかったのね」
 ラミアはそう呟いた。

「「グレス様我々にもその遺言を教えてください」」
 涙する皆がグレスの話しかけた。

 その時、ラミアが外を気にしだした。

「どうした何か見えるのか?」
 結界の窓はマジックミラーであるため外からは全く見えないのだが中からは見えるはずだ。
 しかし今日は新月だ星明りだけではこちらからも何も見えない。

 ラミアは蛇の持つ赤外線を感知できる能力があるようで真っ暗闇でも見えるようだった。

 やがてグレスも窓の外を見た。
「傍には何もないですね、我々砂漠の民は夜目が効きます。例えば50メータまでは暗闇でもはっきり見えますし、最大300メータ位までは物を確認も出来ます、でも何もいませんよ、カブラ、ちょっと来い。」

「カブラは耳が良いので、音で敵を見つけられます」

 だが俺の弱電センサーにも反応し始めた、その反応からすると六十くらいか?

「六十前後の反応でトカゲかな四本足、それとは別に車輪のような反応もあるな」

「トカゲ?ダバハに乗っているんだ、俺達の仲間だ。それと魔導士達だな。俺達は『クルワカの虫の血』を塗っているので虫は近付かないのだが、奴ら魔導士はいくさ車に乗っているんだ」

 カブラも敵を認識したようだった。
「あの音の感じはサムリ様のダバハのようですので、リーダーはサムリ様のようです。それと申し上げにくいのですが、ミサガ様が来ておられます」

「ミザカが来ている、そんな馬鹿な父がミザカを出撃などさせないだろう、まさか俺のことでミザカが来たのか?」

 冷静なグレスが取り乱していた、ミザカというのは大事な人なのだろうか?

「お前達の仲間の命は保証するよ。では、こちらも戦闘態勢に入るか」

 とは言え暗闇とはこういうことを言うのだろう全く見えない、ラミアは大丈夫そうだが俺も何も見えないよ。

 夜間戦闘のための準備を始めた。
 まず赤外線を使う。
 結界のおでこの辺りから赤外線を放射できるように術式を作り変えた。
 次に赤外線を可視化光の波長にアップコンバージョンできる機能を目の辺りの結界に持たせた。
 赤外線はアップコンバージョンされて可視化されるようにしたことで俺も赤外線を見ることができる。

 まるで昼間のように見えて来た。ただしモノクロの世界だけどね・・・

「さて行くかな」
 そう言うとラミアが自分も連れて行けと言い始めた。

 するとグレスも同じように連れて行けと言い始めた。
 確かに相手の人数は多い、グレスの申し出は嬉しいのだが。
 グレス達は生きていることが魔導士を通じて本体にバレるから結界内で待機と言うことにした。

 ラミアは行くことが決まると嬉しそうだった。
「ジェイ、貴方がさっき乗っていたボードを私にも貸して」

 残念ながら俺の並列思考も限界がある、そうだ結果を張りながらサンダーボードを出すのは難しい。

「結界を止めて良いなら出来るけど、それでも良い?」

「結界は私も張れるからそれでいいわ」

 早速ラミアの腕輪の術式を変えて、外に出ることにした。

 外は全くなにも見えない『暗闇』が支配する世界、地面にはおびただしい虫が這いずり回る。
 そして、遠くからは敵が数十人がトカゲに乗ってせめて来ていた。

 なるほど「クルワカの虫の血」を塗っているのか、その匂いで虫は寄って来ないらしい、確かに風に乗って匂って来る。

「ラミアなぜ君が参戦するの?」

「クラバトは大切な人達を助けるために死を迎えていたわ、でもその約束を守らなかっただけではなく酷い仕打ちをした者を許せないのよ」

 やはりラミアはクラバトを看取ったのだ、ラミアの怒りが俺にも分かった。
 そして魔導士を殺さないでくれとは言いにくくなった。

 そうしていると俺たちが奴らからも認識できる距離になって来た。
 それが証拠に奴らの動きに変化があった。

 ラミアは髪飾りを抜いて槍を元の形に戻し構えた。
 俺も剣を抜いた、そして鉄の塊に変えた。

 さて戦闘開始だ。
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