幽霊告発

辻田煙

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エピローグ「台風一過」

最終話/第36話「悠と結」

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 九月に入って夏休みが終わり、悠と結の通う学園でも二学期が始まった。

 やや天候の悪い、曇りがちな天気の中で始業式は行われ、小学六年生の悠たち生徒は、教室で先生の話を聞いていた。ちょうど、先程夏休みの課題を提出し終わったところだ。

 休みが終わり、結とは日中授業で会えなくなる。以前と同じく、黒い靄のような霊は憑かせているが、不安なものは不安だった。夏休みが終わりおかしくなった同級生に変に絡まれていないだろうか――そんなことばかりが頭を占める。

 結局、神崎は消失した。跡形もなく。彼女は身寄りがなかったらしく、失踪事件にすらまだなっていない。

 しばらくすれば、会社の人間が気付き、事件になり、警察が家に来るかもしれない。いや、事件にすらならない可能性もある。成人女性一人、身寄りもない人間が消えたところで、誰が探すのだろう。

 ぼーっと、今後のことを考えている間に始業式後のホームルームは終わってしまった。

 始業式の今日は授業が無く、クラブ活動もしていない悠は家にまっすぐ帰宅した。

 夜、部活を終えた結が帰宅する。両親はいないものの、神崎と会う前の日常にすっかり戻っていた。

 神崎が消失したことで結の心が不安定になる可能性もあったのだが、そんなことはなかった。むしろ、スッキリしている。

 まるで神崎など最初から居なかったように平和な日常が黒須家には戻っていた。

 だが、結が高校生になるにあたっての準備が丸ごと消えてしまったのだ。いつ、また神崎の様な人物が現れるか分からない。

 神崎のことも踏まえ、誰かに頼るというのはもう考えることが出来ない。すなわち悠自身でなんとかしなければならない。

 いつものように夕食を済ませ、風呂に入り、それぞれの自室に戻る。

 悠はベッドに座り――結の部屋からやってくる幽霊を待った。しばらくすると、黒い靄のような幽霊が結の部屋と隣り合っている壁からすーっとやって来た。

「やっと来たか……」

 結に危険な人物が迫っていないか確認するためにも、この幽霊の存在は重要だった。

 霊は悠の身体に抵抗もなく入っていく。

 結の今日一日の言動が霊越しに悠の中に流れ込み――

「またか……。姉さんの体質というか特性も大概だな」

 始業式の今日、結はしっかりとというか、驚異的なことというべきか、新たな危険人物を惹き付けているようだった。

 ほどなくして危険人物に憑いていた霊もやってきて、情報を得ることが出来た。いつも通り情報はある。どうすべきか。

 夜も遅くなったので、悠は部屋の電気を消し、ベッドに眠りに入る。

 頭の中で新たな危険人物に対する策を考えながら、悠は夢の中へと旅立った。



 翌朝、悠が寝起きのぼやけた頭のまま部屋から出ると、ちょうど隣の部屋から結が出てきたところだった。

 昨晩考えていた幾通りもの策が思い浮かぶ。彼女の背後にはしっかりと悠が憑けさせていた霊が見える。

「悠ちゃん、おはよう」

「うん、おはよう」

 寝ぼけ眼で、目を擦りながら挨拶を交わす。ぼやっと結を見ながら「姉さんを守らなきゃ」と何度も思う。

 すると、何を思ったのか結は悠の方に寄って来て、ぎゅっと抱き付いた。

「姉さん?」

 結に抱き付かれながらも見上げると、結がすべてを見透かしたような目をし、微笑んでいた。

「悠ちゃんは、お姉ちゃんが守ってあげるね」

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