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第4章「竜巫女の呪いと祝福」

第48話「奴隷少女」

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 私の母親は奴隷でした。もちろん、この国ではないですよ。ここは珍しく奴隷が禁止されてますもんね。

 でも、国外で隠れて買う分には分からないみたいですね。

 え? それも禁止されている? そうなんですか。でも国教である竜教はかなりの数を仕入れているはずですよ。そうでなければ、ミラ先輩の言う黒ハンナはあんなにいません。

 なにしろ、私も含めてですが、彼女達も元は奴隷だったんですから。

 私自身の生まれの国は知りません。気付いたら地下で竜教関係者に囲まれて実験をしてました。

 そこで沢山の実験をしました。なんの実験だと思います?

 ……『竜巫女』の力ですよ。竜教の実験関係者から聞いた話なんですけど、実験当時、先代の竜巫女を亡くした竜教は焦っていたそうです。本来は先代が亡くなる前に、次代の巫女を先代の力を使って探し出すんだそうです。

 ミラ先輩も言っていたじゃないですか。夢で未来を視たって。あれを使って、探すことが可能らしいですよ。具体的な方法は知らないですけどね。

 なのに、先代の『竜巫女』は、次代の『竜巫女』を探す前にあっさりと死んでしまったんですよ。知ってますか、ミラ先輩。先代の『竜巫女』はただ死んだわけではないそうです。暗殺なんですよ。

 竜巫女は異常な治癒力があるので、半分不死身みたいなものですが、毒には弱いらしいんです。私達も気を付けないといけないですね。治っても、その傍から毒を注ぎ足しされれば普通に死ぬんだとか。

 それは、もうすごい状態だったみたいです。なにしろ、普通の量では死ねませんからね。

 注ぎ足し、注ぎ足し――一体、どのくらいの量の毒が仕込まれたのか。分かりたくもないですね。

 ただ、暗殺だろうと死んでしまったことには変わりはありません。代わりはいないので、すぐにバレてしまう。次代の『竜巫女』も見つかっていない。

 しかし、「暗殺された」では外聞が悪いですからね、自然死ということになったみたいです。結構、高齢の方だったみたいですし。ミラ先輩が知っているのも自然死のほうでしょう。

 ミラ先輩も私以外に狙われているかもしれないので、身辺には気を付けた方がいいですよ。

 この国、見かけに寄らず内情は結構ドロドロですから。だから、ジャン王子のこともあんまり好きじゃありませんでしたね。あ、もちろん今では違いますよ。入学前に彼の表も裏も色々調べて、ジャン王子がその手の裏のことには、まだ関与していないことは知っているので。

 あ、先に謝っておきますと、ミラ先輩との仲も知ってます、色々。そこまで調べないと不安だったので。

 あー、ごめんなさい。余計でしたね。でも、仲が良いからいいじゃないですか。ジャン王子が羨ましいですよ、まったく。

 え? 話の続き? そうですね、顔が真っ赤で爆発しそうですもんね、今のミラ先輩。

 すみません、すみません。ちゃんと話しますから、叩かないで下さいよ。

 えーと……、ですね。『竜巫女』というのは竜教の象徴なんですよ。それなのに、見つける方法自体を失くしてしまった。おまけに、その存在自体が不在。そこで、私の出番です。

 竜教は『竜巫女』を人工的に造ることにしたんですよ。一方で、国中を探しながらですけどね。でも、まさか王都に暮らしていて、しかも、ジャン王子の婚約者がそうだなんて、予想が付かなかったみたいですね。王国民になら、誰にだって可能性はあったというのに。

 自国では実験体を用意できなかったら、私が買われ、偽物の『竜巫女』の力を手に入れた私が出来上がったわけです。

 実験と言うのは、竜の鱗や魔力を私に埋め込むこと。それに、発現した力の具合を確かめると言ったことですね。

『黒ハンナ』達は、その副産物です。一番最初に買われたのは私で、一番上手くいったのも私ですが、きっと他にも色々確かめたのでしょう。

 かなりの数が死体になっていると聞いています。

 私は数年の月日を経て、ミラ先輩――『竜巫女』の偽物になりました。力を確かめるため、色々なことをしていたんですが、その内、竜教内の暗部の仕事も引き受ける様になりました。

 知ってますか、暗部。竜教の闇仕事ですよ。事情は色々でしょうが、大半は暗殺です。

 私はそんな仕事嫌いでしたよ。慣れてしまっていく自分も。でも、逃げられませんでした。

 なぜだと思います? この白い首輪――奴隷の首輪なんですよ。聞いたことないですか? まあ、この国には奴隷はいないから、見かけることなんて無いかもしれませんね。

 ミラ先輩のはただのチョーカーで魔力なんて入っていないと思いますが、私のは違います。竜教に逆らえないようになっているんです。

 ある一定の言動をすれば、この首輪が首を絞め付け、私を殺します。怪力で壊そうともしましたが出来ませんでした。おまけに、その後きっちりお仕置きされまして。

 逆らえないんですよ、私は。だから、沢山の人を殺しました。殺して、殺して、殺して――私の手は真っ黒になりました。

 そんな時です。私は突然、本物の『竜巫女』ということになりました。事情は知りません。どうせ、上の方々の勢力争いの結果なんでしょう。

 竜巫女となった私が命じられたのは何だと思います?

 ジャン王子との恋仲ですよ。ハニートラップってやつですね。それに伴って、婚約者であるミラ先輩の排除。方法は特に言われませんでしたが、殺せと言ってるのと変わりなかったですね、あれは。

 学園に入学したのもそのためです。

 ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。命令されたとはいえ、私にそんなつもりは無いので。なにもしないことは命令違反に判定されないので、首も締め付けられないですしね。

 大体、あんなラブラブなところに割って入れるとは思えませんし。そんなことない、って本気で言っているんですか。……じゃあ、いいんですか? 私がジャン王子に言い寄っても。くすくす、そんな嫌そうな顔をするなら、ちゃんと言わないとダメですよ。

 ジャン王子もモテるんですからハッキリさせとかないと。

 変な所で素直じゃないですよね、ミラ先輩って。まあ、そんなところが可愛いんですけどね。……私と付き合ってみます? え? ダメ? そーですか、そんなにジャン王子が大好きですか。

 いい反応しますねー。くすくす。からかい甲斐がありますね、ミラ先輩は。

 続きですか? んー、でもここからは学園に入学した後の話なので、ミラ先輩も知っていることがほとんどですけどね。

 学園の襲撃のこと? あー、あれはですね、ミラ先輩も悪いんですよ。そもそも『竜巫女』になった時点で、ジャン王子との関係上で学園に入学することは決まっていたんですが、ミラ先輩を明確に殺害するように命令されたのは、ミラ先輩自身のせいでもあるんですよ。

『迷宮試験』覚えてますか? ミラ先輩、ジャン王子とジェイ先輩がパーティーメンバーだからって、『竜巫女』の力を使いましたよね。それも、かなりの回数。それを目撃した生徒や教師がいるんですよ。そもそも、試験中なので迷宮内の様子は把握できるようになっているんです。

 知ってしまった生徒や教師に悪意はなくとも、そういうのは広まってしまうんですよ。そして、竜教までその話が届いたんです。もちろん暗部伝いですけどね。

 そこで、竜教は困った訳です。タイミングも悪かったですね。なにしろ、正式に私をハンナ・ロールとし、『竜巫女』と認めた後だったので。やっと、本物らしきものを見つけたのに、引くに引けなくなってしまったわけです。傍から見ると中々に滑稽なんですけど、当の竜教はそれどころではなかったみたいですよ。

 入学時には、ミラ先輩の見極めも入っていました。本物の『竜巫女』なのか。

 大変でしたよ、ジャン王子の気を引きながら、一方でその婚約者を殺害に値するか見極めろって言うんですよ。まあ、ミラ先輩と初めて会った日に、そんなことはどうでもよくなったんですけどね。

 だから、ずっと竜教への報告を怠っていたんですけど、それに怒ったのか、学園が襲撃されちゃったんですよね。しかも、『黒ハンナ』まで使って。あの娘達は、暗部時代の私の同僚ですよ。

 ミラ先輩が予知夢で先に行ってくれたから落ち着いていましたが、内心、心臓バクバクでしたよ。

 ね? 元を辿ればミラ先輩のせいじゃないですか。「竜巫女の力」を使用する時に、もっと慎重になっていればここまで大事にならなかったかもしれません。

 精々、ジャン王子と婚約破棄させるくらいで済んでいたと思います。……ジャン王子の名前が出る度にビクっとしないで下さいよ。なにもしないですって。

 それ以前に私はここから出れませんよ。ミラ先輩を殺すことがここを出る条件になってるんです。でも、私は殺したくないんです。なんで、せっかく好きになった人を殺さないといけないんですか。私は人形じゃないんです。学園に来てミラ先輩と出会って、よりそう思いました。

 ねえ、ミラ先輩。私を殺して下さいよ。馬車の時は黒ハンナがいて逆らえませんでしたが、ここに彼女らは来ません。そもそもこの場所を知らないですから。

 竜教は疑っていないんですよ。私がミラ先輩を殺すことを。ムカつくとは思いませんか。だから、意趣返しですよ。

 私が死ねば、首輪から竜教へ伝わるはずです。そうすれば、出入り口の穴が開くので、ミラ先輩も脱出できる。ほら、一石二長じゃないですか。

 だから、ミラ先輩。私を殺してください。
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