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第2章「未来はなにも分からない」

第37話「お揃い」

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 お店はいいんだけどなー。店主がクセありすぎる。悪い人ではないんだけど、手癖がちょっとね。

「それで、ミラ先輩は手を出されているんですか?」

「……なにを言うの、ハンナ」

「だって、少ないだけで女の子にも手を出しているんですよね、あの人」

 ハンナは受付に座ったミナに視線をやる。ミナはひらひらと手を振った。まったく、子供の頃に会った時は、あんな人だとは思わなかった。妙に色気があるなとは、思っていたけど。

「私はちゃんと断っているから大丈夫よ」

「誘われたことはあるんですね」

「気に入ったらすぐだから、あの人」

 ミラはハンナを連れつつ、服を見て回る。

「まあ、でもジャンと一緒にここに来たら、諦めたみたい。その辺はしっかりしてるから。その過程で、色々ミナの遍歴を知っちゃったけど」

「ジャン王子が来たんですね……。ニア先輩は気付かなかったんですか?」

「ニアは鈍感だから……、後々バレて、やっぱりここに一緒に来たけどね」

 ミラは並んでいる服の中から、白いワンピースを取り出した。やっぱり、美少女にはワンピースだろうか、それも白。

「さあ、ハンナ。いっぱい試着してみよう。今日は全部私がおごるからね」

「よ、よろしくお願いします?」

 ハンナはよく分かっていなさそうだった。ニアにしょっちゅう着せ替え人形にされているミラとしては少々可哀そうだったが――一度でいいから着せ替える側に回ってみたかったから、ちょうどよかったかもしれない。ジャン王子はあまりここに一緒に来てくれないし。

 店の外を出る頃にはお昼になっていた。試着室でハンナが着替えている最中に、中からお腹の鳴る音が盛大に聞こえてきて、初めてミラは気付いた。試着室から顔だけ出して、音が聞こえたのか確認してくるのは可愛かったけど、申し訳ない気持ちにもなった。

 楽しいあまり、時間を忘れていた。全部とはいったが財布の事情もあるので、厳選した結果を購入し、近くのパスタ料理屋に来ていた。

 注文を済ませ、新しく買った服に着替えたハンナが手に頬をあて、うっとりと言う。

「ミラ先輩に色々見られちゃいました……」

「こら、誤解しそうな言い方しないの」

「ふふっ、でも本当にいいんですか? 上から下まで。それにこれも」

 ハンナに買ったのは、結局一番最初に選んだ、白のワンピースだった。腰を茶色いベルトで締め、黒のブーツを履いている。シンプルだが、彼女の可愛らしさと美しさを引き出していた。それにプラスして、もう一つ。

 ハンナの白い腕にはシルバーのブレスレットが付けられていた。ミラとは少しだけ違うデザインのものだ。

 ――ただ、ブレスレットもゲームに存在していたものだった。ミラが持っているものと、性能も一緒のはず。ミラはここで買わなければ、という謎の使命感に駆られた。本来ならどういうルートで彼女が身に付けていたのかは不明だが、気に入っているようなのでいいだろう。

 彼女が実際に身に付けているのを見て、パズルのピースがハマったような爽快感があった。

 これだけでも収穫があったと言える。

「可愛いでしょー、そのブレスレット。私とお揃いよ」

 ミラは自身の腕を振って見せる。ジャン王子に七歳の誕生日にもらったもの。ゲームと同じ性能があるのかは、今も不明だけど――そもそもそんな状況になったことがない――彼がこれをつけていると嬉しそうなので、いつも身に付けていた。

「お揃い……、微妙にデザインが違くありませんか?」

「いいの、細かいことは。不揃いのお揃いでもいいじゃない」

 ハンナはミラの腕の隣に自身の腕も並ばせる。金と銀、微かに違うデザインの竜が相対する。

「まあ、そうですね。それに、双子の姉妹みたいに見えて可愛いですし」

「確かにそうね」

「ミラ先輩のこのブレスレットも、あそこのお店で買ったんですか?」

「お店はそうなんだろうけど、これは貰いものなの……、ジャン王子からの」

 ミラの言葉にハンナの眉がピクっと動いた。ミラの腕を掴んで、じっとブレスレットを見てくる。

「……へえー、今度私も何か贈りますよ。何がいいですか?」

「え? いや、そんなの悪い――」

「贈ります。普段使いするものがいいですよね、指輪とかどうです?」

「ゆ、指輪? だめよ、そんなの。ジャンとニアに怒られちゃう。それに、私も他のものが――ってそうじゃない。誕生日でもないのに、贈られても困るって」

「誕生日ならいいんですか?」

「そりゃ、これだって七歳の誕生日に貰ったものだし。ニアも毎年なにかしらくれるから……」

「七歳の時にもらってずっと付けてるんですか?」

 ハンナは驚いたようで、目を見開かせた。

「な、なによ。悪い?」

「あ、いえ。……誕生日になにかお渡ししますね。お返しも待ってます」

「お返しって……。ちゃっかりしてるわね、ハンナ」

「持ちつ持たれずですよ、ミラ先輩。その方が楽しいじゃないですか」

 ハンナは楽しそうに笑った。

 食事を済ませ、ハンナとは別れた。なので、午後早くには家に帰ってこられたのだが――ミラが家に帰ると、ニアが仁王立ちしていた。

 近くには猛犬を宥める飼い主のごとく、彼女の首根っこ掴んでいるメイドのモナがいた。モナはミラを見ると、左右に首を振った。

 それで、なんとなく状況を察する。

 ハンナとお出かけをしたことがバレてしまったらしい。

「ミラー、お姉ちゃんともお出かけしてよー」

 なんとも情けない声で、ニアが懇願してくる。いい加減妹離れ――されては困るが、もう少しベタベタしなくてもいいようになりたい。

「はぁー、ニア。もう十六歳なんだから、妹が後輩と遊んだからって、喚きすぎじゃない?」

 ミラはモナに合図して拘束を解かせると、ニアが抱き着いてくる。この様子だと、ついてこなかっただけマシかも知れない。いつからこうなってしまったんだろう。ゲームとも全然違う。こんなキャラじゃなかった。

 表向きはゲームと同じでカッコイイというのに。

「ミラ、全然遊んでくれないじゃない。それに、ハンナ・ロールは危険だから、心配なの」

「危険って、ただの後輩じゃん。しかも同性の」

「……あの娘は私と同類なの。だから、危険」

「ニアと大して変わんないけどなー」

「私は危険じゃない~~」

 むくれながら甘えてくるという器用な真似をしてくるニアを宥めるため、午後は彼女が行きたがっていた演劇公演に行く羽目になってしまった。

 ニアの甘えん坊加減が、外面のカッコよさと比例して増していくのを感じて、ジェイに頑張ってもらうようにしないと、とミラは思った。

 どう頑張るのかは、分からないが。
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