婚約破棄されるはずの悪役令嬢は王子の溺愛から逃げられない

辻田煙

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第2章「未来はなにも分からない」

第18話「王立学園、入学式」

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 一体何がどうなっている? あの星の使徒は何故このタイミングでこの場所に現れた? 

 携帯に連絡が来ていないということは、星の使徒が発生する際の微弱な電磁波は出ていないということになる。それに厳正を崩壊させた後、どうして俺達に向ってこない? 最近の奴らの行動パターンだったら、一番近くの人間に襲い掛かるはずだ。

「真姫、体はなんともないのか?」

 俺は前を滑るように進んでいく星の使徒を追いかけながら、真姫に確認する。とにかく助かって良かったが、何が起きたのか理解できない。人間が自力で蘇り、平然と走っているなどあり得ない。あってはならない。

「私はなんともないよ! それより今はアイツを……」

 真姫は息を切らしながら答える。

 途中で窓ガラスを透過してビルの外に飛び出した星の使徒は、そのまま岬町のビル群の間を縫って進んでいく。

 俺達は途中で待機室に戻り、それぞれ拳銃を装備してビルの外へ出る。

 目視できる距離ではないが、今頃になって携帯に移動中の目的地が表示されている。マップで示されている場所は、岬町からやや外れた郊外にある岬山脈に向かって進んでいる。

「なんで山?」

「良いから行きましょう!」

 俺の疑問を遮ると、真姫は運転席の隣に座る。

 俺も運転席に乗って、制星教会のビルを眺める。

 この建物を視界に収めるのは、これが最後な気がした。

 もうここには戻ってこれないだろう。状況だけ見たら、星の使徒と何かしらのつながりがあると思われている俺達が捕まっていた場所に、制星教会の会長が崩壊病で死んでいるのだ。しかも中に捕まっていたはずの二人は脱走。これだけ見てしまえば、完全にクロだ。疑われても仕方がない。

「飛ばすぞ」

 俺はアクセルを力一杯踏む。車が一気に加速する。俺は岬町のビルの間をグングン進んでいく。制星教会から追われる身になるのだ。この風景ともお別れだ。俺達はこの町を離れる決意をしなくてはならない。下手したらずっと追われる生活になるのだから。

「暮人。私がいるから……」

 激しいエンジン音に紛れて、真姫の言葉が耳に届く。

 そうだ。真姫だって分かっているはずだ。もうこれっきりこの場所とはお別れだと。

「しっかり目に焼き付けておこう」

 俺はスピードをさらに上げながら、そう呟いた。




「もう二時間以上走ってるな」

 俺はそう呟く。

 俺達が制星教会を出発してから、すでにそれぐらい経っている。その間、星の使徒は車とほとんど同じ速度で止まることはない。まるで俺達を誘っているかのような動きだ。今までの星の使徒のメカニズムとは明らかに違う動きをしている。

 ここまでの道中、アイツは誰も崩壊させていない。俺が想像していた最悪のケースは、車と同じだけの機動力を持ちながら、通りがかりで無差別に人々を崩壊病にしていくことだったが、それはしないらしい。しないのか出来ないのかは定かではないが。

「ラジオでもつけない?」

 真姫はそう言ってラジオをつけ、夕方のニュースに合わせる。彼女も、星の使徒の目的が俺達の誘導であると分かったからか、幾分と気を抜いている。

 ラジオでは政治家の汚職の話や、芸能人の離婚の話題に紛れて、崩壊病の特集が組まれていた。

「ついに特集を組まれるくらいになったのか」

「前よりも被害者が増えてるもんね……」

 俺の何気ない一言に真姫の声は沈む。

 ラジオの特集では、近頃崩壊病で亡くなった人の近くにいた人までが、崩壊病で亡くなっているという事実にスポットを当てていた。星の使徒の行動パターンの変化によって生じたことだった。特集ではその事実を踏まえ、専門家を名乗る人にインタビューをし、今まで感染しないとされていた崩壊病が、実は感染するのではないかと騒いでいた。

「確かに最近、ネットニュースでも崩壊病をより多く見るようになったな」

「ええ」

 確実に崩壊病に対する世間のイメージが変わりつつある。今までは、滅多に発生しない恐ろしい病気。だけど人から人へ感染しないし、自身の周りに崩壊病に感染した人がいないため、怖いけどどこか他人事のようなイメージだった。

 それが最近の被害者数の増加。近くにいた人までもが崩壊病で亡くなるという、感染するのではないかと思われるような被害の広がり方によって、より恐ろしい物と認識されるようになってしまった。

 こうなってしまうと、どこまで政府が隠しきれるかがポイントとなる。仮に星の寿命の話、星の使徒の存在、制星教会という組織が明るみになれば、世界はどうなるのだろう。

 星の使徒といういまだかつて人類が体験したことが無い恐怖に対して、俺達人間はどういう反応を示すのだろう? 何もかも分からないが、一つだけ確かなことは大パニックは避けられないという事。そして星の使徒や崩壊病の起源についての追及が始まった時、俺と真姫は世界中から石を投げられる。

 政府も、国民の怒りの捌け口として俺達を利用するだろう。

 アイツらさえ死ねばと……

 大衆をコントロールする時のもっとも簡単な手段は、共通の敵を作ること。これはかなり有効だと分かっているからこそ、その標的に俺達がされる可能性は高い。

「何処に向かってるの?」

 俺は携帯と睨めっこしている真姫に尋ねた。

「ここから六十キロ先の山の中」

 真姫は簡潔に答える。

 今走っている所だって結構な田舎道だ。

 岬町を出発してすでに二時間以上走っている。法定速度を無視して進んでいるため、距離にしておよそ二百キロほどだ。岬町はビルが立ち並ぶ栄えた街だが、少し郊外に抜けてしまえば田舎道が続く。

 今走っているここなんて田んぼ道に毛が生えた程度の場所だ。もう少し西に舵を切れば、海が見られる。

 星の使徒はこの先の山の中。

 もう周囲にひとけはなく、家もほとんどない。それどころか建造物など電信柱ぐらいのもので、スーパーやコンビニすらない。完全なる田舎。窓を開けると、コンクリートジャングルでは味わえない新鮮な空気が肺を一杯にする。

長閑のどかな場所だね」

 真姫は少し嬉しそうにはにかむ。

 俺も真姫もそれどころではないのは分かっているのだが、久しぶりに訪れた平穏な時間に思わず笑みがこぼれる。



「この先か」

 俺達が田舎道のドライブを満喫していると、前方には大きな山。しかし道はなく、ここから車で進むのは不可能だった。

「ええ。反応はここから五キロ先」

 真姫は絶望的な声色だ。

 たかが五キロされど五キロだ。

 普段から山登りに勤しんでいるならいざ知らず、普段町中で生活している身からすると、なんの舗装もされていない山道を五キロ進むのはかなりの重労働だ。

 それもマップでは直線距離で五キロなのだから、実際に歩く距離としてはもっと多いだろう。

「夜の山は危ないな」

「でも夜明けを待つわけにもいかないでしょう?」

「そうなんだよな。ここの情報は制星教会の連中だって掴んでるんだ。追いつかれたら、俺達もどうなるか……」

「じゃあ逃げる?」

 真姫はふざけて笑う。勿論分かってる。逃げられない。俺達を誘うようにここまで飛んできた星の使徒の意図は知っておきたい。

「どこに逃げるんだ?」

 俺は真姫にそう答えた。

 俺達は国のバックアップを受けている組織、制星教会から追われている身だ。当然、なんで追われているのかは言えないため、普通の犯罪者の指名手配のようにはいかないが、隠れるにしろもう居場所が無い。

 ここまで来てしまえば、物事を先に進めるしかないのだ。

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