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第1章「悪役令嬢の無双」
第11話「竜のブレスレッド」
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それにしても、この人混みでは警護も大変そうだ。そう思っていると、急に混雑具合が減る。不思議に思って周りを見ると、さっきの護衛さんがミラ達の周りを囲んでいた。ミラは苦笑せざるを得なかった。
……まあ、そうなるよねー。
こういう風に護衛するとなって実際に出来るのはすごいというか、苦労しているなというか。
「どうした?」
「んーん、なんでもなーい。あ、あれ見たい」
「え? あ、おいっ」
ジャン王子は特に気付いた様子はなかった。それも可愛らしい。ジャン王子を引き摺るようにミラはアクセサリーを売っている場所に向かった。
他の店に比べて客も少ない。どちらかというと、ここは飲食系が多いから客層もそっちが多いのだろう。
「あら、可愛らしいお客さんね」
二人を――警護の人間を含めて出迎えたのは、綺麗な猫耳の女性だった。シャラ、と彼女の両耳に付けられてるイヤリングが揺れる。自分のお店のものだろうか。
わあ、可愛いー。スタイルもすごくいい……。
この世界で獣人は初めて見た。ミラはいること自体は知っていたのだが、使用人の中にもいなかったので、今まで話す機会がなかったのだ。よく見ると尻尾が二つある。黒い耳に、黒い尻尾。長い黒髪はキューティクルで美しい。
ふと、隣が静かなのに気付いて見てみると、ジャン王子がその店主を見てぼーっとしていた。イラっとして思わず彼の脇腹を肘打ちしてしまう。忘れてた。ジャン王子はチョロインなのだから、自分に完全に惚れるまでは、誰彼構わず惚れてしまう可能性があるのだ。……今後は気を付けないと。
「ぐっ……。何するんだよ、ミラ」
「知りませーん」
「なんなんだ……?」
まったく、周りの護衛に笑われてるじゃない。
「ふふっ、そこの坊ちゃん。あまり彼女さんを怒らせたらダメよ」
「彼女……」
「ジャン?」
「あ、そうです。彼女ですね」
「あははっ、君たち面白いねえ」
何がツボに入ったのか、店主のお姉さんはころころと笑う。実に楽しそうである。元凶でもあるというのに。
「ああ、彼女さん。そんなに睨まないで。ほら、沢山アクセサリーあるから、そこの坊ちゃんにおねだりするといい。今なら買ってくれると思うよ」
「え?」
なるほど。それも悪くないかもしれない。
「ほら、これとかどう?」
店主のお姉さんが見せてきたのは二つあった。一つは可愛らしい白のネックレス。正直、今身に付けているものと似ている。さすがにまったく同じものではないけど。
もう一つはイヤリングだった。穴を空けないタイプで気軽に装着できる。琥珀色をしている。というか、中になにかある?
「これ……」
「気になる? この中には魔法が込められているんだよ。これを付けると炎系の魔法が強くなる……、はずだよ」
「はず? おい、こんなんで本当に強くなるのか?」
店主のお姉さんの説明に、ジャン王子が不審感を強めた。まるで、警戒している子犬のようで可愛らしい。
「んー、これは中古品だからね。見た目はともかく、その力までは確約できないんだ。一応私の方でも確認しているけど、あなた達に渡った後は分からない。すぐ壊れてしまう可能性もあるのよ」
「……なんで、そんな中古品を勧めるんだよ」
「え? だって、あなた達子供じゃない。アクセサリー類は高いわよ。大人でも尻込みする値段もあるんだから」
「そうかよ」
ふいっとジャン王子が顔を背けた。まさか、ここで金は問題ないとは言えないだろう。子供が大金をぽんと出せたら、それはそれで怪しい。しかも、お姉さんは善意から言ってくれているように思える。
小さい出店には店主の膝ほどの高さに並んでいるものから、横の壁にまでびっしり商品が並んでいる。値札がついてないのは、この世界の慣習なのかもしれないが、少々怖くはある。
見るからに高そうなのは店主の手元に並べられていた。大粒の宝石を使用したもの、細かい細工がしてあるもの、趣向はバラバラだがどれもこれも凝っている。ミラは本格的に悩み始めた。
んー……、なにかいいものないかなー。
値段が分からない以上、必然的にデザインで選ぶしかない。
「これ、触ってもいいですか?」
「ん? ああ、いいよ。でも、ちょっと高めのものだから気を付けてね」
「は、はい」
ちょっととはどのくらいなのだろう。おそらく他の客に対する宣伝も兼ねているのだろうが、そう言われると怖くなる。
「ミラ、それがいいのか?」
そんな躊躇をするミラをよそに、ジャン王子はひょいとそれを持ち上げた。
ブレスレット。気になったのは、ゲームで見かけたことがある代物だったからだった。入手方法は忘れてしまったが、かなりいいアイテムだったと思う。いや、そうだ。いいどころか、たしか、身代わりに出来るはずだ。確か、回数は一回ぽっきりだったはず。
「ほら」
「ありがとう」
「うーん、まだ君たちのものじゃないから、慎重にね」
ジャン王子の扱いにひやひやしたのか、店主が尻尾をピンと立たせて忠告してきた。心なしか唇の端がヒクついている。
自分がしたわけでもないのに、申し訳ない気持ちになってくる。
「はい……」
ブレスレットは銀で出来ていた。一見すると通常の細いリングだが、中央に竜の顔が細く入っている。ご丁寧に目の部分は宝石が入っているらしい。ピンク色の目は可愛らしく、ゲームの通りだった。
これは、欲しい。ゲーム通りの効果はあるか分からない。だが、今の所違う部分はないのだから、身代わりの効果は備わっている可能性はある。
「これ、可愛い……」
「ミラ、こういうのが趣味なのか」
「そういうわけじゃないけど……。ちょっと気になっただけ」
「ふーん、お姉さん。これどのくらいなの?」
ジャン王子が店主に訊く。他の客の相手をしていた彼女はブレスレットを見て「あー……」とどこか困ったように笑った。
どうしたんだろ。まさか売れないとかだろうか。
店主はジャン王子を手招きした。彼が身を寄せ、店主が耳に口を寄せる。ぼそっとなにかを呟いたのは分かったが、具体的な内容は分からなかった。ただ、ジャン王子は苦い顔をしている。
店主が離れると、ジャン王子は腕を組み、さらに訊く。
「……それ、絶対なのか?」
「ごめんね。彼女に買ってあげたいと思うけど、それはちょっと特別なの」
この人のちょっとは、そうではない気がする。ジャン王子だって、今お金が無いわけではないだろうに。
「んん……。ミラ、悪いけど、今はそれ諦めてくれ」
「なんかごめんね、ジャン」
「ミラが謝ることじゃない」
「うん」
ミラはブレスレットを店主に戻す。名残惜しくて、ついつい目で追ってしまう。身代わり効果のこともあるが、シンプルに可愛くて欲しかった。しかし、今の王子の手元でも買えないとなると、自分で買うのは不可能だろう。そんなものが市場の出店の一つにあるのも驚きだが。
ここ、本当にただのアクセサリーショップなのだろうか。
店主はミラの視線に気付いたらしい。くすくすと笑い始める。
「……なんですか?」
「ああ、ごめんね。あまりにも熱心だから。そうだなー、彼氏君」
店主がジャン王子を見る。目の前にブレスレットを掲げた。
「君が良ければ、キープも出来るよ。彼女さんが随分欲しいみたいだからね」
「お願いします。そのブレスレットのキープ」
「おお、前のめりだね」
ニコニコと店主は愉快そうだった。彼女はブレスレットを持ったまま、ジャン王子とミラの頭を撫でる。
「お二人とも、また買いにくるの楽しみにしているよ」
「絶対売るなよ」
ジャン王子はしつこくも念押ししていた。そこまでしてくれることに喜んでいいのか、恥ずかしいのか感情がごちゃ混ぜになる。
「もちろん。……やっぱり、可愛らしいお客さんだね」
ミラは自分の今の表情を思い浮かべ、否定できなかった。
……まあ、そうなるよねー。
こういう風に護衛するとなって実際に出来るのはすごいというか、苦労しているなというか。
「どうした?」
「んーん、なんでもなーい。あ、あれ見たい」
「え? あ、おいっ」
ジャン王子は特に気付いた様子はなかった。それも可愛らしい。ジャン王子を引き摺るようにミラはアクセサリーを売っている場所に向かった。
他の店に比べて客も少ない。どちらかというと、ここは飲食系が多いから客層もそっちが多いのだろう。
「あら、可愛らしいお客さんね」
二人を――警護の人間を含めて出迎えたのは、綺麗な猫耳の女性だった。シャラ、と彼女の両耳に付けられてるイヤリングが揺れる。自分のお店のものだろうか。
わあ、可愛いー。スタイルもすごくいい……。
この世界で獣人は初めて見た。ミラはいること自体は知っていたのだが、使用人の中にもいなかったので、今まで話す機会がなかったのだ。よく見ると尻尾が二つある。黒い耳に、黒い尻尾。長い黒髪はキューティクルで美しい。
ふと、隣が静かなのに気付いて見てみると、ジャン王子がその店主を見てぼーっとしていた。イラっとして思わず彼の脇腹を肘打ちしてしまう。忘れてた。ジャン王子はチョロインなのだから、自分に完全に惚れるまでは、誰彼構わず惚れてしまう可能性があるのだ。……今後は気を付けないと。
「ぐっ……。何するんだよ、ミラ」
「知りませーん」
「なんなんだ……?」
まったく、周りの護衛に笑われてるじゃない。
「ふふっ、そこの坊ちゃん。あまり彼女さんを怒らせたらダメよ」
「彼女……」
「ジャン?」
「あ、そうです。彼女ですね」
「あははっ、君たち面白いねえ」
何がツボに入ったのか、店主のお姉さんはころころと笑う。実に楽しそうである。元凶でもあるというのに。
「ああ、彼女さん。そんなに睨まないで。ほら、沢山アクセサリーあるから、そこの坊ちゃんにおねだりするといい。今なら買ってくれると思うよ」
「え?」
なるほど。それも悪くないかもしれない。
「ほら、これとかどう?」
店主のお姉さんが見せてきたのは二つあった。一つは可愛らしい白のネックレス。正直、今身に付けているものと似ている。さすがにまったく同じものではないけど。
もう一つはイヤリングだった。穴を空けないタイプで気軽に装着できる。琥珀色をしている。というか、中になにかある?
「これ……」
「気になる? この中には魔法が込められているんだよ。これを付けると炎系の魔法が強くなる……、はずだよ」
「はず? おい、こんなんで本当に強くなるのか?」
店主のお姉さんの説明に、ジャン王子が不審感を強めた。まるで、警戒している子犬のようで可愛らしい。
「んー、これは中古品だからね。見た目はともかく、その力までは確約できないんだ。一応私の方でも確認しているけど、あなた達に渡った後は分からない。すぐ壊れてしまう可能性もあるのよ」
「……なんで、そんな中古品を勧めるんだよ」
「え? だって、あなた達子供じゃない。アクセサリー類は高いわよ。大人でも尻込みする値段もあるんだから」
「そうかよ」
ふいっとジャン王子が顔を背けた。まさか、ここで金は問題ないとは言えないだろう。子供が大金をぽんと出せたら、それはそれで怪しい。しかも、お姉さんは善意から言ってくれているように思える。
小さい出店には店主の膝ほどの高さに並んでいるものから、横の壁にまでびっしり商品が並んでいる。値札がついてないのは、この世界の慣習なのかもしれないが、少々怖くはある。
見るからに高そうなのは店主の手元に並べられていた。大粒の宝石を使用したもの、細かい細工がしてあるもの、趣向はバラバラだがどれもこれも凝っている。ミラは本格的に悩み始めた。
んー……、なにかいいものないかなー。
値段が分からない以上、必然的にデザインで選ぶしかない。
「これ、触ってもいいですか?」
「ん? ああ、いいよ。でも、ちょっと高めのものだから気を付けてね」
「は、はい」
ちょっととはどのくらいなのだろう。おそらく他の客に対する宣伝も兼ねているのだろうが、そう言われると怖くなる。
「ミラ、それがいいのか?」
そんな躊躇をするミラをよそに、ジャン王子はひょいとそれを持ち上げた。
ブレスレット。気になったのは、ゲームで見かけたことがある代物だったからだった。入手方法は忘れてしまったが、かなりいいアイテムだったと思う。いや、そうだ。いいどころか、たしか、身代わりに出来るはずだ。確か、回数は一回ぽっきりだったはず。
「ほら」
「ありがとう」
「うーん、まだ君たちのものじゃないから、慎重にね」
ジャン王子の扱いにひやひやしたのか、店主が尻尾をピンと立たせて忠告してきた。心なしか唇の端がヒクついている。
自分がしたわけでもないのに、申し訳ない気持ちになってくる。
「はい……」
ブレスレットは銀で出来ていた。一見すると通常の細いリングだが、中央に竜の顔が細く入っている。ご丁寧に目の部分は宝石が入っているらしい。ピンク色の目は可愛らしく、ゲームの通りだった。
これは、欲しい。ゲーム通りの効果はあるか分からない。だが、今の所違う部分はないのだから、身代わりの効果は備わっている可能性はある。
「これ、可愛い……」
「ミラ、こういうのが趣味なのか」
「そういうわけじゃないけど……。ちょっと気になっただけ」
「ふーん、お姉さん。これどのくらいなの?」
ジャン王子が店主に訊く。他の客の相手をしていた彼女はブレスレットを見て「あー……」とどこか困ったように笑った。
どうしたんだろ。まさか売れないとかだろうか。
店主はジャン王子を手招きした。彼が身を寄せ、店主が耳に口を寄せる。ぼそっとなにかを呟いたのは分かったが、具体的な内容は分からなかった。ただ、ジャン王子は苦い顔をしている。
店主が離れると、ジャン王子は腕を組み、さらに訊く。
「……それ、絶対なのか?」
「ごめんね。彼女に買ってあげたいと思うけど、それはちょっと特別なの」
この人のちょっとは、そうではない気がする。ジャン王子だって、今お金が無いわけではないだろうに。
「んん……。ミラ、悪いけど、今はそれ諦めてくれ」
「なんかごめんね、ジャン」
「ミラが謝ることじゃない」
「うん」
ミラはブレスレットを店主に戻す。名残惜しくて、ついつい目で追ってしまう。身代わり効果のこともあるが、シンプルに可愛くて欲しかった。しかし、今の王子の手元でも買えないとなると、自分で買うのは不可能だろう。そんなものが市場の出店の一つにあるのも驚きだが。
ここ、本当にただのアクセサリーショップなのだろうか。
店主はミラの視線に気付いたらしい。くすくすと笑い始める。
「……なんですか?」
「ああ、ごめんね。あまりにも熱心だから。そうだなー、彼氏君」
店主がジャン王子を見る。目の前にブレスレットを掲げた。
「君が良ければ、キープも出来るよ。彼女さんが随分欲しいみたいだからね」
「お願いします。そのブレスレットのキープ」
「おお、前のめりだね」
ニコニコと店主は愉快そうだった。彼女はブレスレットを持ったまま、ジャン王子とミラの頭を撫でる。
「お二人とも、また買いにくるの楽しみにしているよ」
「絶対売るなよ」
ジャン王子はしつこくも念押ししていた。そこまでしてくれることに喜んでいいのか、恥ずかしいのか感情がごちゃ混ぜになる。
「もちろん。……やっぱり、可愛らしいお客さんだね」
ミラは自分の今の表情を思い浮かべ、否定できなかった。
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