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第4章「死蝶、ご機嫌ミア」
第29話「記憶の回廊(2)」
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王城は馬車から降りただけではその一部しか見えなかった。上は首が痛くなる高さだし、横は城壁あるだけで大きさがまったく分からない。
どこの国も一緒だな、こういうのは。
四人共無言のまま、案内役と一緒に王様のもとへ向かう。
変な印象を持たれないように、案内人の前で大人しくすることくらいは出来るようだ。
普段からこの調子ならば、もう少し楽なんだけどな。騒がしいのも悪く無いのだが、三人共、限度を容易く超えてしまう。その度に後始末をするのはロルフなので、勘弁して欲しかった。
王城の天井は高く、レッドカーペットが敷かれており、王座のある間まで数分はかかった。とても人が住むような場所とは思えない。メイドや執事の人数も多い。当たり前だが護衛騎士も常駐しているようで、そこかしこで鎧姿の人間を見かける。
訪問者など頻繁にあると思うのだが、やたらとみなこちらを伺ってくる。文官や騎士ばかりで、こういう冒険者は珍しいのかもしれない。
案内されること数分。行く先に巨大な両扉が見え始めた。やたらと豪華なその門には、右上に蝶が、左下に蛇が描かれていた。それ以外にも装飾が施されており、豪奢で厳かな雰囲気を醸し出している。扉の両端には二人の騎士。
豪華だな……。無駄に疲れるから、あまり来たくはないんだけどな。
二つの国で王城を経験しているロルフにとって、こういう場所は疲労する所でしかなかった。
ただ疲れる。それだけ。
「えー、ここで少々お待ち下さい」
案内人である執事は、扉の前でくるっと振り返ってそう言う。にこにこの笑顔が胡散臭い。これも一緒だった。
執事は近くの騎士に一言告げると、戻ってくる。
「では、みなさま。扉が開きましたら、中央までお進み下さい」
「はい」
執事は頷くと、どこかに行ってしまう。
それと引き換えに、大きな音を立てて扉が開き始める。向こうは、巨大な空間だった。その最奥に玉座があった。
「入るぞ、サンディ、レイラ、ルーシー」
「うん」
「はい」
「はーい」
三者三様に返事したのを聞いて、ロルフは赤い絨毯を歩きだした。
中央まで進めば全容が見えてくる。目の前の玉座には、一筋縄でいかなそうな剛健な爺さんが座っていた。眼光は鋭く、髪が長い。蛇のような男だった。彼がこの国の王だろう。
膝上には――なぜか少女が座っていた。煌びやかな銀髪をツインテールにして、当然のようにそこにいる。切れ長の目は王様そっくりだが、じっとこちらを見てくる瞳は好奇心で溢れているように思える。
王女……、か? あまり気にしない方が賢明そうだ。
ロルフたちの周りには騎士や文官らしき者が数名いるというに、誰も王の上にいる少女を咎めない。これはそういうものなのだろう。あまり聞いたことも、見たこともないけど。
玉座前の階段、その下でロルフたちは立ち止まった。
「お前らが、ギルドの用意したパーティーか?」
王が口を開く。拡声魔法を使用して聞こえてきた声は、想像してたよりもずっと若い。ただ、剣呑な目は容赦なくこちらに降り注いでいる。
「その通りです」
受け答えは基本的にロルフがするように打ち合わせしていた。リーダーでもある自分がするのが当然――というのもがあるが、ロルフ以外の三人は国そのものに対して良くない印象を持っている。そのため、こういうのには向いていない。
今回は王城に出向いて謁見しないと依頼そのものが受けられないので、無理やり彼女たちを連れてきたのだ。普段だったら、絶対に一人で来ている。余計なトラブルを避けるために。
凡庸な挨拶がいくつか進み、王がようやく本題に触れる。王女と思われる女性は、まったく口を開かずにただただその様子を見ていた。問答の内容よりもロルフたちに興味があるようだ。
「すでにギルドから詳細は聞いておると思うが、犯人は見つけられそうか?」
「調査はこれからですので。まだ、なんとも。ただ、我々はそういうのを得意としていますのでご安心を」
国が依頼してきたのは、幻覚騒ぎを起こしている犯人を見つけ出すことだった。その程度なら、どこかのバカが魔法をいたずらに使っているだろうと、騎士団が対処する。
だが、この国で起きている現象は違う。問題は規模にあった。ギルドによれば、国丸ごとを幻覚にかけたと言う。通常の人間がすれば、死んでしまう。というよりも、あまりに莫大な魔力の不足で実行することすら不可能なはずだった。ところが、すでに数回起こっているらしい。すべて、同じ一日を繰り返すというだけで留まっているので、実質的な被害はないらしい。今の所は。ここまで規模が大きいとなんらかの装置を使った可能性が高いのだが、見つかっていない。
国としては、装置の使用と特殊な魔法を持った人間、両方を考え、後者の場合の対策としてロルフたちを呼び出したらしい。
なにしろ、こっちには「王冠」がいる。サンディだけが使える魔法――それは、相手への絶対命令権を持つ。幻惑に対しての最強の切り札だ。
「して、王冠はいずこだ?」
「……それはお答えしかねます」
ロルフの返事に文官たちがざわつく。騎士たちもピリつきはじめたような気がする。
赤の他人教えるわけがない。それに見てりゃ分かる。わざわざ教えてたまるかっての。
「むう。そうか。いや、すまん。疑っているわけではないのだが、どうしても気になってな」
王はアッハッハッ、と豪快に笑う。……鎌をかけたのだろうか? あまり試すような真似は好みじゃない。そんなことをするのなら、いきり立ちそうな騎士たちを抑えて欲しい。
「いえ、当然のことかと。調査にはきっと良い報告ができると思いますので、それでご勘弁願います」
「そう、だな。よろしく頼む」
謁見はそれだけで終わった。その後は雑談が続く。ロルフはメンバーのことを話し、王は膝に座っている娘――やはり王女だった――の自慢をする。簡単なものだ。王の信用に値したかは不明だが、とりあえずつまみ出されそうな気配はない。
王と話すことなどこんなものだろう。退屈と緊張を交えながら、謁見は終わった。
どこの国も一緒だな、こういうのは。
四人共無言のまま、案内役と一緒に王様のもとへ向かう。
変な印象を持たれないように、案内人の前で大人しくすることくらいは出来るようだ。
普段からこの調子ならば、もう少し楽なんだけどな。騒がしいのも悪く無いのだが、三人共、限度を容易く超えてしまう。その度に後始末をするのはロルフなので、勘弁して欲しかった。
王城の天井は高く、レッドカーペットが敷かれており、王座のある間まで数分はかかった。とても人が住むような場所とは思えない。メイドや執事の人数も多い。当たり前だが護衛騎士も常駐しているようで、そこかしこで鎧姿の人間を見かける。
訪問者など頻繁にあると思うのだが、やたらとみなこちらを伺ってくる。文官や騎士ばかりで、こういう冒険者は珍しいのかもしれない。
案内されること数分。行く先に巨大な両扉が見え始めた。やたらと豪華なその門には、右上に蝶が、左下に蛇が描かれていた。それ以外にも装飾が施されており、豪奢で厳かな雰囲気を醸し出している。扉の両端には二人の騎士。
豪華だな……。無駄に疲れるから、あまり来たくはないんだけどな。
二つの国で王城を経験しているロルフにとって、こういう場所は疲労する所でしかなかった。
ただ疲れる。それだけ。
「えー、ここで少々お待ち下さい」
案内人である執事は、扉の前でくるっと振り返ってそう言う。にこにこの笑顔が胡散臭い。これも一緒だった。
執事は近くの騎士に一言告げると、戻ってくる。
「では、みなさま。扉が開きましたら、中央までお進み下さい」
「はい」
執事は頷くと、どこかに行ってしまう。
それと引き換えに、大きな音を立てて扉が開き始める。向こうは、巨大な空間だった。その最奥に玉座があった。
「入るぞ、サンディ、レイラ、ルーシー」
「うん」
「はい」
「はーい」
三者三様に返事したのを聞いて、ロルフは赤い絨毯を歩きだした。
中央まで進めば全容が見えてくる。目の前の玉座には、一筋縄でいかなそうな剛健な爺さんが座っていた。眼光は鋭く、髪が長い。蛇のような男だった。彼がこの国の王だろう。
膝上には――なぜか少女が座っていた。煌びやかな銀髪をツインテールにして、当然のようにそこにいる。切れ長の目は王様そっくりだが、じっとこちらを見てくる瞳は好奇心で溢れているように思える。
王女……、か? あまり気にしない方が賢明そうだ。
ロルフたちの周りには騎士や文官らしき者が数名いるというに、誰も王の上にいる少女を咎めない。これはそういうものなのだろう。あまり聞いたことも、見たこともないけど。
玉座前の階段、その下でロルフたちは立ち止まった。
「お前らが、ギルドの用意したパーティーか?」
王が口を開く。拡声魔法を使用して聞こえてきた声は、想像してたよりもずっと若い。ただ、剣呑な目は容赦なくこちらに降り注いでいる。
「その通りです」
受け答えは基本的にロルフがするように打ち合わせしていた。リーダーでもある自分がするのが当然――というのもがあるが、ロルフ以外の三人は国そのものに対して良くない印象を持っている。そのため、こういうのには向いていない。
今回は王城に出向いて謁見しないと依頼そのものが受けられないので、無理やり彼女たちを連れてきたのだ。普段だったら、絶対に一人で来ている。余計なトラブルを避けるために。
凡庸な挨拶がいくつか進み、王がようやく本題に触れる。王女と思われる女性は、まったく口を開かずにただただその様子を見ていた。問答の内容よりもロルフたちに興味があるようだ。
「すでにギルドから詳細は聞いておると思うが、犯人は見つけられそうか?」
「調査はこれからですので。まだ、なんとも。ただ、我々はそういうのを得意としていますのでご安心を」
国が依頼してきたのは、幻覚騒ぎを起こしている犯人を見つけ出すことだった。その程度なら、どこかのバカが魔法をいたずらに使っているだろうと、騎士団が対処する。
だが、この国で起きている現象は違う。問題は規模にあった。ギルドによれば、国丸ごとを幻覚にかけたと言う。通常の人間がすれば、死んでしまう。というよりも、あまりに莫大な魔力の不足で実行することすら不可能なはずだった。ところが、すでに数回起こっているらしい。すべて、同じ一日を繰り返すというだけで留まっているので、実質的な被害はないらしい。今の所は。ここまで規模が大きいとなんらかの装置を使った可能性が高いのだが、見つかっていない。
国としては、装置の使用と特殊な魔法を持った人間、両方を考え、後者の場合の対策としてロルフたちを呼び出したらしい。
なにしろ、こっちには「王冠」がいる。サンディだけが使える魔法――それは、相手への絶対命令権を持つ。幻惑に対しての最強の切り札だ。
「して、王冠はいずこだ?」
「……それはお答えしかねます」
ロルフの返事に文官たちがざわつく。騎士たちもピリつきはじめたような気がする。
赤の他人教えるわけがない。それに見てりゃ分かる。わざわざ教えてたまるかっての。
「むう。そうか。いや、すまん。疑っているわけではないのだが、どうしても気になってな」
王はアッハッハッ、と豪快に笑う。……鎌をかけたのだろうか? あまり試すような真似は好みじゃない。そんなことをするのなら、いきり立ちそうな騎士たちを抑えて欲しい。
「いえ、当然のことかと。調査にはきっと良い報告ができると思いますので、それでご勘弁願います」
「そう、だな。よろしく頼む」
謁見はそれだけで終わった。その後は雑談が続く。ロルフはメンバーのことを話し、王は膝に座っている娘――やはり王女だった――の自慢をする。簡単なものだ。王の信用に値したかは不明だが、とりあえずつまみ出されそうな気配はない。
王と話すことなどこんなものだろう。退屈と緊張を交えながら、謁見は終わった。
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