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第3章「幻蝶、不機嫌ミア」
第26話「蝶は認めない」
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ルーシーの破壊力は凄まじかった。思わず、うんと頷いてしまいそうになる。
間接照明に照らされた金髪は艶やかで美しい。覗いてくる瞳は琥珀の様に美しく、透明感があった。顔立ちは幼いものの、ルーシーは間違いなく美人の部類に入る。ピンク色の唇に目を奪われそうになるのを、必死に抑えた。
「しない。俺はまだミアを見ていないと、ダメなんだ」
じっと見てくるルーシー。
ロルフもまた、覗き返す形でしっかりと目を見て話す。どういう経緯でこうなったかは分からないが、まだ、ミアを一人にするわけにはいかない。いつ離れられるのか、ロルフにも分からないが。
「……まあ、そう言うと思った。やっぱり、ロルフはロルフだね」
ルーシーはロルフの言葉にうんうんと頷く。
「私もねロルフと同じ。なんか、いつの間にか、ミアのメイドになちゃったけど――まだね、こういうのはいいんだ。だから、最初から私も結婚するつもりは無かったんだよ。大体、こんな形でロルフと一緒になりたくないもん」
ミアのことを語るルーシーは、とても優しい表情をしていた。親友を見守る、慈しむそんな感情が込められている。
仲がいいのは当然知っていたが、ロルフは嬉しくなった。自分がこんな友人を持てている事実に。さらに、ミアにはこんなに思ってくれる親友がいて。確認できて、胸が一杯になる。
同時に、ルーシーからの言外に含められた意味に気付かないロルフではなかった。こんな形、そうでなければ違うという。
態度にこそ示されていたのはもちろん気付いてはいたが、言葉にされるとこそばゆいものがある。
掴まれている手を急に意識してしまいそうになる程には。
「ありがとう」
「くすっ、なにそれ。お礼言われることはなにもしてないよ。どっちかというと怒られることかも」
そう笑うルーシーは、魅力的だった。
そこからは、ただの食事会になった。ただただ楽しく話し、食事をする。なんてことない。それが幸福で愛おしくなる、とても大切な時間に。
話のほとんどがミアだったのは、ご愛嬌というところだろう。
ルーシーが話している最中で、ロルフはふと気になった。
誰も意識出来ていないのだからしょうがないのだろう。しかし、どこから入ったのか、個室には――紫色の、一匹の蝶がふわふわと所在なさげに飛んでいる。
ロルフは、それが妙に頭に引っ掛かった。
◆
ミアは混乱の極致にあった。
満月の夜、ミアの蝶が鱗粉を散らしながら飛んでいる。紫色に光り輝く、美しく、妖しく、卑しいミアの分身。願望。
ベッドのある寝室。ミアによって抱かれている人形は苦しそうに歪められている。ツインテールを解かれた銀髪は、その神聖さを取り戻したかのように美しく月光を反射していた。
ミアの目は寝室を見ていない。正確には見れていなかった。彼女の脳内に反映されているのは、ロルフとルーシーの姿。
音までは聞くことが出来ないのが、もどかしかった。この力は肝心な所で役に立たない。
どんな会話をしているのだろう? どうして楽しそうな顔をしているのだろう?
イレギュラーは把握していた。でも一向にどこから発生してるのか分からなかったのだ。そのせいで、予測が出来ない。こうして対処が遅れる。
今日はロルフのお見合いの日。直接行くのも構わないが、どうやってもバレる気がした。だから、と。蝶を通して見ることしか出来なかった。
ホテルの場所は分かっていた、時間も。ギルド長の妻は、ミアのことを本当の娘だと思って、教えてくれた。天然なようでいて、あの人は中々に鋭い。さすがはギルド長の妻といったところか。
ミアがロルフのお見合いをメイドから知った時、そこまで気にすると分かっていたのだろう。日時と場所まで教えてくれた。ただし、絶対にくっついて行かないことを条件にして。
このあいだ、ロルフに言ったことはほとんど嘘だ。お見合いなんて望んでいない。ロルフにはミアの執事でいてもらわないといけない。そうじゃないなんて、ミアは望んでいない。
なのに――この状況はなんだ。
蝶を通した視界の中で、二人は笑い合っている。ルーシーは普段のメイド姿と異なり、大人っぽく、同性のミアから見ても見惚れるほどだった。
ロルフはお見合い用なのか、いつも緩めているネクタイをきちっと締め、恰好良かった。ミアが一度だけ見たことのある姿。お似合いの二人だった。
視界がぼやけた。
もう、これ以上はダメだった。見るほどに、胸が苦しくなる。私の執事――ロルフが遠くなっていく。親友であるはずのルーシーが別のものになっていく。
ミアはまぶたをぎゅっと閉じ、開く。目の前には、綺麗な夜景の見えるレストランじゃない、自分のものになっているベッドがあった。
まだ、視界はぼやけている。
目が熱く、胸は痛い。頭がぼーっとして、考えることを拒否していた。唇にしょっぱい水の味が入ってきた。
――ああ、なんでだろう。なんでこうなったのだろう。こんなはずでは無かった。好きになるつもりは無かった。ほんの息抜きのつもりだったのに。
もう戻りたくない程に幸せになってしまっていた。
「……私の幻覚洗脳なのに。……なんで、思い通りにならないの?」
呟いて思う。誰かが妨害している。ミアとロルフ、二人だけの幸せに水を差そうとしている奴がいる。
一体、誰だ。
ミアは悔しかった。こんな形で終わらせたくない。まだまだ傲慢のままで、夢を見させてくれなければ困る。いや、現実のままでなければ、いけない。
一度、リセットしなければ。こんな未来は認めない。
これはミアの望んだ幸福では決して、ない。
間接照明に照らされた金髪は艶やかで美しい。覗いてくる瞳は琥珀の様に美しく、透明感があった。顔立ちは幼いものの、ルーシーは間違いなく美人の部類に入る。ピンク色の唇に目を奪われそうになるのを、必死に抑えた。
「しない。俺はまだミアを見ていないと、ダメなんだ」
じっと見てくるルーシー。
ロルフもまた、覗き返す形でしっかりと目を見て話す。どういう経緯でこうなったかは分からないが、まだ、ミアを一人にするわけにはいかない。いつ離れられるのか、ロルフにも分からないが。
「……まあ、そう言うと思った。やっぱり、ロルフはロルフだね」
ルーシーはロルフの言葉にうんうんと頷く。
「私もねロルフと同じ。なんか、いつの間にか、ミアのメイドになちゃったけど――まだね、こういうのはいいんだ。だから、最初から私も結婚するつもりは無かったんだよ。大体、こんな形でロルフと一緒になりたくないもん」
ミアのことを語るルーシーは、とても優しい表情をしていた。親友を見守る、慈しむそんな感情が込められている。
仲がいいのは当然知っていたが、ロルフは嬉しくなった。自分がこんな友人を持てている事実に。さらに、ミアにはこんなに思ってくれる親友がいて。確認できて、胸が一杯になる。
同時に、ルーシーからの言外に含められた意味に気付かないロルフではなかった。こんな形、そうでなければ違うという。
態度にこそ示されていたのはもちろん気付いてはいたが、言葉にされるとこそばゆいものがある。
掴まれている手を急に意識してしまいそうになる程には。
「ありがとう」
「くすっ、なにそれ。お礼言われることはなにもしてないよ。どっちかというと怒られることかも」
そう笑うルーシーは、魅力的だった。
そこからは、ただの食事会になった。ただただ楽しく話し、食事をする。なんてことない。それが幸福で愛おしくなる、とても大切な時間に。
話のほとんどがミアだったのは、ご愛嬌というところだろう。
ルーシーが話している最中で、ロルフはふと気になった。
誰も意識出来ていないのだからしょうがないのだろう。しかし、どこから入ったのか、個室には――紫色の、一匹の蝶がふわふわと所在なさげに飛んでいる。
ロルフは、それが妙に頭に引っ掛かった。
◆
ミアは混乱の極致にあった。
満月の夜、ミアの蝶が鱗粉を散らしながら飛んでいる。紫色に光り輝く、美しく、妖しく、卑しいミアの分身。願望。
ベッドのある寝室。ミアによって抱かれている人形は苦しそうに歪められている。ツインテールを解かれた銀髪は、その神聖さを取り戻したかのように美しく月光を反射していた。
ミアの目は寝室を見ていない。正確には見れていなかった。彼女の脳内に反映されているのは、ロルフとルーシーの姿。
音までは聞くことが出来ないのが、もどかしかった。この力は肝心な所で役に立たない。
どんな会話をしているのだろう? どうして楽しそうな顔をしているのだろう?
イレギュラーは把握していた。でも一向にどこから発生してるのか分からなかったのだ。そのせいで、予測が出来ない。こうして対処が遅れる。
今日はロルフのお見合いの日。直接行くのも構わないが、どうやってもバレる気がした。だから、と。蝶を通して見ることしか出来なかった。
ホテルの場所は分かっていた、時間も。ギルド長の妻は、ミアのことを本当の娘だと思って、教えてくれた。天然なようでいて、あの人は中々に鋭い。さすがはギルド長の妻といったところか。
ミアがロルフのお見合いをメイドから知った時、そこまで気にすると分かっていたのだろう。日時と場所まで教えてくれた。ただし、絶対にくっついて行かないことを条件にして。
このあいだ、ロルフに言ったことはほとんど嘘だ。お見合いなんて望んでいない。ロルフにはミアの執事でいてもらわないといけない。そうじゃないなんて、ミアは望んでいない。
なのに――この状況はなんだ。
蝶を通した視界の中で、二人は笑い合っている。ルーシーは普段のメイド姿と異なり、大人っぽく、同性のミアから見ても見惚れるほどだった。
ロルフはお見合い用なのか、いつも緩めているネクタイをきちっと締め、恰好良かった。ミアが一度だけ見たことのある姿。お似合いの二人だった。
視界がぼやけた。
もう、これ以上はダメだった。見るほどに、胸が苦しくなる。私の執事――ロルフが遠くなっていく。親友であるはずのルーシーが別のものになっていく。
ミアはまぶたをぎゅっと閉じ、開く。目の前には、綺麗な夜景の見えるレストランじゃない、自分のものになっているベッドがあった。
まだ、視界はぼやけている。
目が熱く、胸は痛い。頭がぼーっとして、考えることを拒否していた。唇にしょっぱい水の味が入ってきた。
――ああ、なんでだろう。なんでこうなったのだろう。こんなはずでは無かった。好きになるつもりは無かった。ほんの息抜きのつもりだったのに。
もう戻りたくない程に幸せになってしまっていた。
「……私の幻覚洗脳なのに。……なんで、思い通りにならないの?」
呟いて思う。誰かが妨害している。ミアとロルフ、二人だけの幸せに水を差そうとしている奴がいる。
一体、誰だ。
ミアは悔しかった。こんな形で終わらせたくない。まだまだ傲慢のままで、夢を見させてくれなければ困る。いや、現実のままでなければ、いけない。
一度、リセットしなければ。こんな未来は認めない。
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