ハハハ

辻田煙

文字の大きさ
上 下
2 / 6

第1話「天使の恋」

しおりを挟む
 花梨は呆れるほかなかった。ゴールデンウィーク前のせいか、数が多い。

「花梨先輩、僕と付き合ってくださいっ!」

 差し出された手。まるでマンガのような青春の一ページ……、なのだろう、彼らにとっては。呼び出された空き教室――似たような告白を受けるのも、何回目か覚えたくない。念の為、友人二人に教壇の中に隠れてもらっているのも、そろそろ申し訳なくなってきていた。彼女たちだって、暇なわけではないのだ。
 何度も告白は受けているが、黒い翼の持ち主に応えることなんて出来ない。彼がなにを噓ついたのかは不明だが、そんな相手はごめんである。

「ごめんなさい」

 花梨がお辞儀して断ると、名前も知らない男子生徒はぼそぼそとなにか言った後、教室からいなくなった。
 よかった、今回は面倒事にならなくて。
 先輩や、塾の生徒、果ては教師まで、連日こんなことが続いている。

「ごめん、もう大丈夫」

 花梨が教壇の方に声を掛けると、二人の友人が出てくる。

「花梨、これで何回目?」
「数えてない。面倒だし」
「モテモテだねー、さすがにこないだの先生はどうかと思うけどー」
「でも、今の後輩君はなんでダメだったの? もう、仮にでも彼氏作った方が、厄除けになるんじゃない?」
「ハハハ、ピンとこなかったんだよねー」

 まさか、理由が「翼が黒かったからだ」とは、思いもしてないだろう。

「花梨の『新しい恋』はまだかー。おまじないの効き目はまだ出てないー?」
「そうみたい、ハハハ」

 花梨は心底面倒臭くなっていた。思わず心の内で嘆く。揃いも揃って黒い翼のやつばかり。「新しい恋」――せめて白い翼の人が告白してきてくれないだろうか。
 半ば諦めていたが、転機はすぐにやってきた。名前も知らない後輩君の告白を断った翌日、花梨は放課後に教室で日直の仕事をこなしていた。目の前には、同じ日直の葵田あおいだという男子生徒。
 彼は手を止めることなく、唐突に言った。

「花梨さん、俺と付き合ってみない?」

 聞き間違いかと思ったが、顔を上げて彼を見た瞬間に本気であることがすぐに分かった。
 葵田はまっすぐに花梨を見ていた。
 花梨はすぐに彼の背後の翼を確認する。色は――白。
 願いは叶った。灯台下暗し、というか少々意外な相手が目の前にいる。

「……いいよ。でも、私、あなたの下の名前も知らないけど、いいの?」
「もちろん。これから覚えてもらえればいい。花梨さん」
「スルーしてたけど、あなた、私のこと『花梨さん』で呼ぶのね」
「嫌だった?」
「ううん」
「なら、よかった。俺の名前は紫苑しおん。変わってるでしょ。花の名前なんだ」

 彼――紫苑は、にっこりと笑った。花梨は男性で初めて、笑顔が素敵な人だ、と思った。



「あれ? 花梨、あの笑い方やめたの?」
「うん。もう必要なくなったから」

 花梨の告白に左右二人の友人がぎょっとする。

「もしかしてゴールデンウィークで遊べない日があったのって……」
「家族で出掛けたのもあったけど、実は彼氏とデートしてた。ごめんね、言うのが遅れちゃって」

 正直、彼女たちにどこまで話すか迷っていた。前回と同様になるなら、言わない方がいいのだ。
 でも、きっと彼なら大丈夫。なぜなら彼の翼は白いのだ。

「ちょっと言い辛くて。同じくクラスの人だから……」
「えー、誰っ?」
「私も気になる。あんなに断っていたのに。誰が花梨のお眼鏡に適ったの?」

 彼女の達の声に返答しながら、花梨は周囲の空気を敏感に感じ取っていた。今は昼食時であり、食事中だが、多くの人間が会話に興じている。そして、同時に耳を立てている。花梨は自身の周囲を覆う気配を敏感に感じていた。伺っている。探っている。花梨はこういう時いつも思う。所詮、他人の噂には、みな目がない。

「葵田くん、葵田紫苑くん」

 彼氏となった、彼の名前を言う。
 大丈夫だ。
 葵田くんの翼は白いのだから。
しおりを挟む
読んでいいただきありがとうございます!


【感想、お気に入りに追加】、エール、お願いいたします!m(__)m


作者が泣いて喜びます。

【Twitter】(更新報告など)
@tuzita_en(https://twitter.com/tuzita_en

【主要作品リスト・最新情報】
lit.link(https://lit.link/tuzitaen

感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

ストーカー【完結】

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
大学時代の元カノに地獄の果てまで付きまとわれた話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

近くにある恐怖

杉 孝子
ホラー
何気ない日常に潜んでいる恐怖を届けます。 『小説家になろう』にも掲載させて頂いています。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...