上 下
14 / 18

第14話 ネクロマンサー

しおりを挟む
魔王軍第1軍団司令ネクロマンサーは年齢不詳、顔にはいくつもの深い皺が刻まれ、白髪まじりの長い髭をたくわえて、魔法使いが着るようなローブを着ている。
見た目だけをとってみれば、ただの老魔法使いのようだが、一つだけ異様な点があった。
それは、一体のエルフの頭蓋骨に紐を通し、首飾りにしていたのだ。

元々、ネクロマンサーはエルフ族の出身であった。
若かりし頃の名をアレクセイと言い、ガリスブルグ王国を背負って立つと言われた程の有能な魔法使いであった。
彼には美しい妻がいた。名をオフィーリアと言った。夫婦仲は非常に良く、出掛ける時はいつも一緒、ベターハーフという言葉が良く似合う2人であった。
ある日、アレクセイを悲劇が襲った。
最愛の妻オフィーリアが毒蛇に噛まれ死んでしまったのだ。

ここから彼の人生の歯車は狂っていった。
今にして思えば、善良な魔法使いとしてのアレクセイはこの時に死んでいたのかもしれない。
半身を引きちぎられたような悲しみと苦しみに耐えられなかったアレクセイは妻を蘇らせる為、王国で禁止されていた蘇生魔法の研究を秘密裏に行うようになった。
蘇生魔法の研究が王国で禁止されていたのには理由がある。過去に蘇生魔法の研究で理性と記憶を持たないゾンビが大量に発生し、王国に大きな被害をもたらしたからだ。
アレクセイは自宅の地下室で密かに蘇生魔法の研究を行った。蘇生魔法が完成した時に蘇らせる肉体がなくては困るので、オフィーリアの肉体は氷魔法で丁寧に凍らせ保存していた。
オフィーリアは眠っているかのように美しい姿をしていた。氷のように冷たいことをのぞいては・・・
アレクセイは毎日、美しい妻の寝顔を見ながら研究に励んだ。
だが、アレクセイは気づいてなかった。
妻の外面は生きている時と見紛う程に変わらなかったが、肉体内部の組織はゆっくりと、そして確実に崩壊が進んでいたことを・・・

研究を始めて10年、幾多の実験を繰り返し、とうとうオフィーリアに蘇生魔法を使用する時がやってきた。
アレクセイははやる気持ちを抑えながら、オフィーリアに慎重に呪文を唱える。
呪文を唱え終わった後、息をのみながらオフィーリアを見つめていた。その時の彼には一秒が一分にも一時間にも感じられただろう。
オフィーリアのまぶたが動き、目が開いた。
アレクセイは喜びのあまり声も出ない。
オフィーリアはアレクセイの姿を見つけると、笑顔になり、アレクセイに抱き付こうとして身体を起こした。
そこまでだった。オフィーリアの肉体内部の組織は崩壊しており、彼女の身体を支えることすらできずバラバラに崩れ落ちた。首が落ち、胴体がへし折れ、うでが抜けた。
アレクセイはパニックになり奇声をあげながらバラバラになった妻の体を必死でかき集めていた。
この時の彼の表情はどうだったのか。泣いていたのか、あるいは狂ってしまって笑っていたのか。彼本人にすらわかっていなかっただろう。

「動くな!」

王国の警察が乗り込んできた。
アレクセイが禁止されていた蘇生魔法の研究をしている証拠をつかんだので逮捕しに来たのだ。
なぜよりによってこの時なのか?
アレクセイはやり場のない怒りを爆発させ、姿を消した。
アレクセイ逮捕の報がないまま数刻が過ぎ、異常を察知した警察が増援を出した。
増援の警察官が地下室で見たものは、おびただしい動物の死体と10人の警察官の遺体と首なしの女性のバラバラの遺体だった。
それからアレクセイの行方は誰にも分からなかった。

それから数十年後、アレクセイは自らを死霊使いネクロマンサーと名乗り、魔王軍の幹部として王国の前に現れた。
魔王よりイタル討伐の命を受けたネクロマンサーがイタルの前に立ちふさがろうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...