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第9話 あの川を越えて

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マクシミリアンの件は一旦落ち着いたように思える。
まだ私のことをあきらめきれてはいないようだが、自らの仕事を優先してくれている。
マクシミリアンの件でポールホールの町にきた目的を果たすのが少し遅れてしまった。
ポールホールの町のすぐ北にヒョロ一ヌ川という大きな川が東西に流れており、そこが対魔王軍の防衛ラインとなっている。
つまりヒョロ一ヌ川の向こう側は魔王軍の支配領域となっているのだ。
私達はポールホールで準備を整え、ヒョロ一ヌ川を越えて敵地に乗り込んでゆこうと考えている。
だが、川にかかる橋は魔王軍の進軍を阻む為、すべて破壊されている。
そこでポールホール領主であるアナリス伯爵に船を用意してもらおうという算段なのだ。
私達のことは王都よりアナリス伯爵に話が伝わっていた為、すんなりと面会にこぎつけた。

「お会いできて光栄です。アナリス伯爵。」

差し障りない挨拶もそこそこにさっそく本題に入る。

「私どもはヒョロ一ヌ川を渡りたい、そこで船と船頭をお借りできますか?」
「イタル殿、貸してやりたいのはやまやまなのだが・・・」

アナリス伯爵の歯切れが悪い。

「何か問題でも?」
「一つ問題があってな。」
「問題?」

聞くと、元々ヒョロ一ヌ川に棲んでいた半魚人が魔王側につき、エルフ族の船を襲っているという。

「わかりました。船を貸して頂けるなら、ついでに半魚人どもを退治しましょう。」

どちらにしても半魚人を何とかしなくては対岸には渡れない。
私の言葉に気を良くしたアナリス伯爵は船と船頭を用意することを約束してくれた。
出発は明日の朝と決まった。
夜のほうがよいのではと思ったが、対岸の魔物は夜行性が多く、明るいうちは対岸の警備が手薄で、川で半魚人に警備をさせているとのことで、川を渡るついでに半魚人退治するのにもってこいなのだそうだ。
夕方、私はヒョロ一ヌ川を見つめていた。
こちら側の岸では兵士達がせわしなく動いている。
ここは最前線なのだ。
川は、世界と別の世界を隔てる象徴でもある。あの世とこの世を隔てる三途の川しかり、古代ローマにおいてはローマ世界と蛮族の世界を隔てるライン川しかり、そしてこのヒョロ一ヌ川はエルフの世界と魔王の世界を隔てている。渡ったら二度と戻ってくることはできない。魔王を倒すまでは・・・
それでも渡らなければならない。
賽は投げられたのだ。
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