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19話 おもちゃばこをひっくり返そう(???視点)

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「キューン、キュキュイキュー……。(ヒダカー、落ち着いてよー……。)」

 ヒナ……もとい、陽太たちからは『キュムちゃん』と呼ばれている生物は、暴走するヒダカの頭を肉球でペチペチと叩きながら止めようとしていた。悲しみの感情から目に涙を浮かべていた。

「キュキュイキュー! (おめーもぼさっと見てないで止めるっキュ!)」

 ヒナはヒダカの暴走を静観している誰かに短い両手を上げ、プリプリと頬を膨らませて怒っていた。その存在はこの世界ではくらげとヒナにしか認知されていない。

 ―――別にこのまま放っておいてもいいだろう。ソイツの気が晴れるまで好きにさせておけ。

「キュキュイキュー! (このままほっといたらヒダカ死んじゃうっキュ! 早く止めないと駄目だっキュ!)」

 ―――チッ、アホのくせに気が付いてやがったか。

「キュー! (アホのくせにって何なんだっキュー! おめー、また知ってて黙ってたっキュなー!)」

 ヒダカの頭を足の肉球でペタペタぷにぷにと地団駄を踏むヒナ。
彼が正気の状態ならその心地よい感触に悶えていることだろう。

 ヒダカが無差別に撃っているビームはゲームで言うMPを消費して放っているものだが、今彼が使っている機体とヤツ自身の体質が特殊なため、MPを使うことが出来ず、彼自身の生命エネルギーを変換して放っているのだ。
 このまま使い続けていればヒダカは死ぬことになる。
彼女たちにしか認知できない存在としてはそちらの方が都合がいい。

 ツルギはヒダカの学校の破壊行為を止めようとしているが、ビームをでたらめに撃ってくるヒダカとツルギを殺そうとしている本来の力を発揮したマシロが襲い掛かってくるため、なかなか近づけないようだった。

「―――! 拙者だ! 覚えていないのか!」

 ツルギはマシロに何か訴えているようだが、マシロはツルギの叫びなど気にせずに彼を本気で殺そうと自らの能力で作成した刀で彼に切りかかる。今のマシロに言葉で止めることは不可能だ。
 今のマシロはヒナがかけた特殊なリミットを自力で解除し、本来の魂の姿に戻り、完全に戦闘モードに入ってしまっている。
 ツルギがマシロを止めるためには、エネルギー切れを待って持久戦を仕掛けるか、彼を殺す以外にない。

 それを知らないツルギはマシロに訴え続ける。

「キュキューン……!(ぐぬぬ、おめーのつくったコーンバターも大暴れしてるっキュ……。そっちも止めねーと美味しいご飯が食べられなくなっちゃうっキュ!)」

―――アバターな。コーンバターはお前の食いたいものだろ。

「キュキューン! (じゃあ作って! たくさんでいいよ!)」

 ―――断る。

「ギュ“ー! ウウ”―! (ひどいっキュ! けちんぼ!  オニオンスープ! くまさんゼリー! ひとでやろー!)」

 罵倒しようとしているのだろうが、ひどい言い間違いである。おそらく鬼、悪魔、人でなしと罵りたかったのであろう。

 ―――あの二人を止めたきゃお前がやれ。

「キュムムム……! (なんてやつだっキュ……!)」

 ヒナはヒダカの頭の上で短い腕を組み、頭を傾げ、目を瞑り、うむむと悩みだした。
対して考える頭が無いのに無駄なことをしている。

「キュキューン! (そうだ、別のことで気を引けばいいんだ!)」

 ヒナはこの世界の地図をお腹に着けているポシェットから取り出すと、ヒダカの頭の上に肉球で器用にペタペタ貼っていく。貼り終えると、どこかかからピコピコハンマーを取り出し、短いお手々で大きく振りかぶる前の動作をする。

―――おい待て、お前何を……。

 止めようとした時には既に行動に移されていた。

「キュイー! (なんとかなるようになれー! っキュ!)」

 ヒナはピコン! ピコン! と世界地図に向かってピコピコハンマーを何回も振り下ろす。元の体重がぬいぐるみと同じぐらい軽いのでピコピコハンマーを振り下ろす際の動作で少し宙に浮かび上がっている。
 その行為は本来なら子供が意味もなく遊ぶような特になんてことのない動作だ。……彼女がやっているということを除けば。

 ヒナがピコピコハンマーで世界地図を叩くたび、地面に亀裂が入り、本来海に面していないはずの国が津波に襲われ、砂漠に吹雪が吹き荒れ、山の木々がひとりでに動き出して暴れ始め、魚が鰓呼吸のまま陸上歩行をはじめ、地上の生物は海に帰り、猛スピードで独自の生態を作り上げていく。
 彼女が世界地図にピコピコハンマーを振り下ろすたびにこの世界の地形と生態系はめちゃくちゃに変形していく。

「え?えええっ!!? なにこれどうなってんの!? 魚が空飛んでる!?!?」
「うわーん! またママがやらかしたー!」
「とにかく安全なところへ逃げましょう!」

 地上では中村たちが慌てて安全な場所を探し、逃げ惑っていた。

「なんだ? 何が起こっているというのだ……? それにこの気配は……。」
「ツルギ! もういいから今は逃げるんだ!」

 自らの身体能力で地上の崩壊からギリギリ逃れているエリックはツルギに向かって叫んだ。

「そういう訳にはいかない! ようやく彼を見つけることがたんだ!」
「その人、話聞いてくれる雰囲気じゃないでしょ! 流石にその機体と一緒に相手するのはツルギでも無茶だよ!」

 ツルギはぐっと何かを言いたげに唇を固く結んだあと、マシロとヒダカを悔し気に見ながら、エリックと共に安全な場所まで去っていく。

「キュイー! (いいからみんな落ち着けー!)」

―――もうどうにかなってるよ。まずはお前が落ち着け。はあ……またマッピングのやり直しか……。これで何回目だよ。もうやめろ。

「キュキュイキュー! (やった! せかいへいわかくとくだっキュ!)」

 ―――お前がやったのは環境破壊だ。で? このバカ二人はどうやって止めるつもりだ?

「キュキューイ。(考えてなかったっキュ。)」

 ヒナはどやーと言わんばかりに胸を張り、得意げに言った。

 ―――クソ迷惑なやつだ。

 マシロはツルギという標的がいなくなり、ヒダカに襲い掛かる。

「キュキューン! (ヒダカを苛めちゃダメー!)」

 ヒナがヒダカの頭の上から飛び降り、マシロにピコピコハンマーをマシロの頭に振り下ろすと、白髪の幼子の姿に戻り、意識を失う。
 ピコピコハンマーにそんな威力があるのか? と中村のように常識ある人々は疑問に思うだろう。
 しかし、彼女が攻撃をしていると認識すれば、それは立派な攻撃となるのだ。
 この世のありとあらゆる摂理を無視し、自分にとって都合のいい存在。それがこの白い生物の正体である。

マシロとヒナは彼らの暴走によってひび割れた地面に落ちていく。

「キュキューイ!? (なんで落ちてるのおお!?)」

 しかし、ヒナはとんでもないアホであった。
考えなしで行動することは多々あり、自分自身の能力を忘れたり、生やしたりして敵味方関係なく混沌に陥れることも多い。

 ヒナは短い手足をパタパタとばたつかせ、マシロと共に地上に落ちていく。

「!? 母さん!」

 ようやく暴走が収まり、ヒナのピンチに気が付いたヒダカは彼女を救おうと急降下する。

「キュキューイ! (とにかく何かおこれー!)」

 ヒナがピコピコハンマーをブンブン振り回すとピカッ! と辺り一帯が光り出し、様々な場所にワープゲートが現れた。

「は?」
「ええっ!? 今度は何!?」

 多くの人々の困惑と悲鳴と共にヒナが発生させたワープゲードに取り込まれていく。

 ―――はあー……。本当にやってらんねえよクソが……。

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