「春風のメロディ」

調和を求めて

翔太との気持ちが通じ合ってから数日が経ち、美咲の心は複雑な思いで満ちていた。喜びと不安が入り混じる中、バンド活動は微妙な空気に包まれていた。
麻衣は練習に顔を出さなくなり、他のメンバーたちも状況を察して気まずそうにしていた。そんなある日、美玲が美咲に声をかけた。
「美咲ちゃん、ちょっといい？」
二人は誰もいない教室で向かい合った。
「麻衣のこと、気にしてるでしょ」
美咲は小さく頷いた。
「私たちも心配なの。このままじゃバンドが...」美玲は言葉を濁した。
「わかってます。私が何とかしないと」
美咲は決意を固めた表情で言った。
翌日、美咲は勇気を振り絞って麻衣の教室を訪ねた。
「麻衣さん、話があります」
麻衣は少し驚いた様子だったが、静かに頷いて美咲についてきた。
二人は校庭の端にある古い木の下で向かい合った。
「麻衣さん、本当にごめんなさい」美咲は深々と頭を下げた。「でも、私は翔太くんのことが好きです。そして、バンドも大切です」
麻衣は黙って美咲の言葉を聞いていた。
「だから...私たちで解決策を見つけられないでしょうか。バンドのため、そして私たちのために」
しばらくの沈黙の後、麻衣がゆっくりと口を開いた。
「正直、まだ複雑な気持ちよ。でも...」麻衣は小さく息をついた。「あなたの歌を聴いていると、翔太が何に惹かれたのか分かる気がする」
美咲は驚いて麻衣を見つめた。
「私も、バンドが好きなの。だから...時間はかかるかもしれないけど、頑張ってみる」
麻衣の言葉に、美咲は思わず涙ぐんでしまった。
「ありがとう、麻衣さん」
二人は小さく微笑み合った。完全な和解には時間がかかるだろうが、これが新たな一歩になると感じた。
その日の夕方、美咲は事の顛末を翔太に報告した。
「そっか...麻衣、ありがとうな」翔太は安堵の表情を浮かべた。
「でも、これからが本当の勝負ね」美咲は真剣な眼差しで言った。
翔太は頷き、美咲の手を優しく握った。
「一緒に乗り越えよう」
翌日からのバンド練習は、以前とは違う空気に包まれていた。麻衣も参加し、ぎこちなさは残るものの、皆で一つの目標に向かって頑張ろうという雰囲気が生まれていた。
ライブまであと2週間。美咲は歌の練習に一層力を入れた。時には自信を失いそうになることもあったが、そんな時は翔太が優しく背中を押してくれた。
「大丈夫、君なら絶対に観客を魅了できる」
その言葉に、美咲は勇気づけられた。
ライブ前日、最後の練習を終えた後、バンドメンバー全員で円陣を組んだ。
「明日はいよいよ本番だ」翔太が皆の顔を見回した。「みんなで最高のステージを作ろう」
全員が力強く頷いた。麻衣も小さく、でも確かな笑顔を浮かべていた。
その夜、美咲は緊張と期待で胸がいっぱいになりながら眠りについた。明日、自分の歌声が多くの人に届く。その思いに、少しずつ不安が希望へと変わっていくのを感じた。
翔太、麻衣、そしてバンドメンバーたち。たくさんの人の思いを胸に、美咲は目を閉じた。
明日、新たな一歩を踏み出す。その決意と共に、美咲の心に小さな旋律が響き始めた。