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運命の出会い
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春の柔らかな日差しが校舎を包み込む午後、佐藤美咲は軽やかな足取りで音楽室に向かっていた。放課後のひととき、誰もいない音楽室で歌う時間が、彼女にとっては至福の時だった。
「よし、誰もいない」
ドアを開け、中をのぞき込んだ美咲はほっと安堵の息をついた。人目を気にせず歌えると思うと、自然と顔がほころぶ。
しかし、その安堵もつかの間。美咲が部屋に足を踏み入れた瞬間、奥の窓際から静かなギターの音色が聞こえてきた。
「あ…」
思わず声が漏れる。窓際には一人の男子生徒が腰かけており、熱心にギターを奏でていた。美咲の気配に気づいたのか、彼は顔を上げ、驚いたような表情を浮かべた。
「ごめん、邪魔したかな?」
男子生徒は優しい笑顔を浮かべながら、そう言った。
「あ、いえ…私こそごめんなさい。誰もいないと思って…」
美咲は慌てて謝罪の言葉を並べる。男子生徒をよく見ると、3年生の制服を着ていた。黒髪をさらりと後ろに流し、凛とした顔立ちの彼は、どこか雰囲気のある人だった。
「大丈夫だよ。僕も勝手に使わせてもらってるし」
そう言って、彼は立ち上がった。
「高橋翔太っていうんだ。3年の」
「あ、佐藤美咲です。2年生です」
美咲は小さく頭を下げる。
「佐藤さん、歌うの?」
「え? あ、はい…趣味程度ですけど」
「そっか。実は、僕たちのバンド、ボーカルを探してるんだ。よかったら聴かせてもらえない?」
突然の申し出に、美咲は戸惑いを隠せない。しかし、翔太の真摯な眼差しに、どこか引き込まれるものを感じた。
「え、でも私…下手だし…」
「大丈夫、気楽に歌ってよ。僕がギターで伴奏するから」
翔太は再びギターを手に取り、椅子に腰かけた。美咲は迷いながらも、ゆっくりとマイクの前に立つ。
「じゃあ…お願いします」
深呼吸をして、美咲は目を閉じた。翔太のギターが優しく鳴り始め、それに合わせるように美咲の歌声が音楽室に響き渡る。
清らかで、しかし芯の強い美咲の歌声に、翔太は思わず聴き入ってしまった。歌い終わると、しばらくの間、部屋に静寂が流れる。
「すごい…」
翔太の感嘆の声に、美咲は恥ずかしさで顔を赤らめた。
「全然下手じゃないじゃん。むしろ才能あるよ」
「そ、そんな…」
「本当だよ。ねえ、僕たちのバンドに入らない?」
突然の誘いに、美咲は驚きを隠せない。
「え?でも私、バンドなんて…」
「大丈夫。みんないい人たちだし、佐藤さんの歌声があれば、きっといいバンドになる」
翔太の熱意のこもった言葉に、美咲は心が揺れるのを感じた。これまで人前で歌うことなど考えたこともなかったが、この瞬間、何か新しい扉が開かれるような予感がした。
「考えてみます」
そう言った美咲の口元に、小さな笑みが浮かんだ。
春の陽光が差し込む音楽室で、二人の高校生の新たな物語が始まろうとしていた。
「よし、誰もいない」
ドアを開け、中をのぞき込んだ美咲はほっと安堵の息をついた。人目を気にせず歌えると思うと、自然と顔がほころぶ。
しかし、その安堵もつかの間。美咲が部屋に足を踏み入れた瞬間、奥の窓際から静かなギターの音色が聞こえてきた。
「あ…」
思わず声が漏れる。窓際には一人の男子生徒が腰かけており、熱心にギターを奏でていた。美咲の気配に気づいたのか、彼は顔を上げ、驚いたような表情を浮かべた。
「ごめん、邪魔したかな?」
男子生徒は優しい笑顔を浮かべながら、そう言った。
「あ、いえ…私こそごめんなさい。誰もいないと思って…」
美咲は慌てて謝罪の言葉を並べる。男子生徒をよく見ると、3年生の制服を着ていた。黒髪をさらりと後ろに流し、凛とした顔立ちの彼は、どこか雰囲気のある人だった。
「大丈夫だよ。僕も勝手に使わせてもらってるし」
そう言って、彼は立ち上がった。
「高橋翔太っていうんだ。3年の」
「あ、佐藤美咲です。2年生です」
美咲は小さく頭を下げる。
「佐藤さん、歌うの?」
「え? あ、はい…趣味程度ですけど」
「そっか。実は、僕たちのバンド、ボーカルを探してるんだ。よかったら聴かせてもらえない?」
突然の申し出に、美咲は戸惑いを隠せない。しかし、翔太の真摯な眼差しに、どこか引き込まれるものを感じた。
「え、でも私…下手だし…」
「大丈夫、気楽に歌ってよ。僕がギターで伴奏するから」
翔太は再びギターを手に取り、椅子に腰かけた。美咲は迷いながらも、ゆっくりとマイクの前に立つ。
「じゃあ…お願いします」
深呼吸をして、美咲は目を閉じた。翔太のギターが優しく鳴り始め、それに合わせるように美咲の歌声が音楽室に響き渡る。
清らかで、しかし芯の強い美咲の歌声に、翔太は思わず聴き入ってしまった。歌い終わると、しばらくの間、部屋に静寂が流れる。
「すごい…」
翔太の感嘆の声に、美咲は恥ずかしさで顔を赤らめた。
「全然下手じゃないじゃん。むしろ才能あるよ」
「そ、そんな…」
「本当だよ。ねえ、僕たちのバンドに入らない?」
突然の誘いに、美咲は驚きを隠せない。
「え?でも私、バンドなんて…」
「大丈夫。みんないい人たちだし、佐藤さんの歌声があれば、きっといいバンドになる」
翔太の熱意のこもった言葉に、美咲は心が揺れるのを感じた。これまで人前で歌うことなど考えたこともなかったが、この瞬間、何か新しい扉が開かれるような予感がした。
「考えてみます」
そう言った美咲の口元に、小さな笑みが浮かんだ。
春の陽光が差し込む音楽室で、二人の高校生の新たな物語が始まろうとしていた。
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