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伊織side3
しおりを挟む頼には、心配掛けないように頷いておいたけど、彼と話す事なんて、私にはないのだ。
あんな道端で堂々と腕を組んで、キスしてたんだから、それが彼の答えでしょ。
私は、ただのカモフラージュだったんだから……。
翌日。
頼と顔を会わせないように朝食の準備だけをして家を出た。
会社には、体調不良と電話して休みを取り、不動産屋を廻ることにした。
あの家には戻りたくないし、何時までも頼に甘えてもいられないから、早く家を見つけてでようと思って。
そして、手頃な物件を見つけては、見学させてもらいセキュリティーの問題があって、あきらめるを数度繰り返した。
結局、今日廻っただけでは見つけられず、明日、仕事帰りにでも不動産屋に寄ろうと決め、家路についた。
が、肝心の頼からスペアーキーを借りるのを忘れ中に入れず、玄関先で頼が帰ってくるのを待っていた。
その時、鞄に入れていたスマホが鳴り出した。
それを取り出しディスプレイを見れば、彼からで、出る必要も感じなく、ホールドを押し鞄に突っ込んだ。
今さら、何の用なのよ。
切ったばかりなのに直ぐに鳴り出したが、直ぐに切れたので、メールであろう。
頼、早く帰ってこないかなぁ。
玄関のドアに凭れ、空を見上げればチラホラと星が見えだした。
それを呆然と眺めていた。
三度目の着信音が鳴り、スマホを取り出しディスプレーを見れば頼からで。
『もしもし、姉貴。今何処に居る?』
心配そうな声で聞いてくる頼。
「頼の家の前に居るよ。」
そう答えれば、どこかホッとしたような安堵の溜め息が聞こえてきた。
『今から帰るから、もう少しだけ待ってて。』
申し訳なさそうな声の頼。
「うん。慌てなくていいからね。気を付けてね。」
それだけ言って、通話を切った。
連絡が来てから十分後に頼が姿を表した。
「姉貴、ゴメン。これ、ここのスペアーキー。昨日のうちに渡しておけばよかった。」
頼が萎縮するように肩を落とす。
「ううん。勝手に居候してるのは私の方だしね。気にしなくていいよ。」
「俺に遠慮しなくていいからな。」
私の言葉に真顔で言う頼。
「遠慮はして、無い、よ。」
苦笑しながら答えた。
「……で、彼氏さんとは、会ったの?」
夕食後、リビングで寛いでいたところに頼が唐突に聞いてきた。
その質問にゆっくりと首を横に振って答えた。
「なんで? 昨日、会うって約束したよな。」
頼が問い詰めてきた。
「今日、仕事行ってないから……。」
ポツリ呟くように言えば。
「はっ? どういう事? 俺は、てっきり、会社が遠くなったから、先に出たんだと思ってた。」
頼が射すような目で私を見てくる。
いたたまれなくて顔を俯かせた。
「なぁ、姉貴。逃げてたって、何も解決しないんだ。ちゃんと話し合った方がいい。」
頼の優し気な声。
「私だってそうしたい……。だけど、怖いんだ。また、彼に捨てられるんだって思ったら……怖くて……。」
今まで付き合った彼は、私の強がりの性格が災いして、 "君は強いから俺が居なくても平気だよね" って言って、私じゃない儚げな娘を連れて、離れていった。
その度に "もう、恋なんかしない" って誓って、結局新しい人が出来て同じ台詞で振られてる。
それが、トラウマになってしまって、今回もそうじゃないかって思うと、勇気なんかでない。
「姉貴。今までの男はそうだったかもしれないが、今回の彼氏は違うんじゃないか? 昨日、電話してて思ったんだけど、本当に姉貴の事を心配してた。それに、俺の事を疑ってて、 "新しい彼氏" じゃないかって。」
頼の言葉に弾かれるように顔を上げれば、イタズラが成功したような顔で私を見てくる。
「そんな人が、姉貴を捨てるとは思えない。」
頼が真顔で言う。
「……でも。」
それでも、私の中の不安は消えてくれない。
「大丈夫だって。俺を信じろ。」
頼が笑って言う。
相当、自信があるみたいだ。
その言葉、信じてみよう……かな。
「ってことで、姉貴。スマホかして?」
頼が、私の前に手を出してくる。
何をするんだろう?
って思いながら。
「ちょっと待って。鞄の中だから……。」
私は席を立ち、部屋に行くと鞄の中にあるスマホを取り出し、リビングに戻ると頼に手渡した。
と同時に鳴り出す。
ディスプレイを見れば、彼からで。
「俺が出ていい?」
頼の言葉にコクりと頷いた。
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