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頼side
しおりを挟むピンポーン。
週末の夜に突然玄関のチャイムが鳴る。
来客の予定もなかったはずだし、こんな時間に誰だよ。
俺は、そう思いながら玄関に行き、ドアスコープを見れば、姉貴が立っていた。
玄関の鍵を開けて、ドアを開け、改めて姉貴を見れば、足元に大きなトランクケースがあった。
家出でもしてきたようだ。
「こんな時間にゴメン。今日一日だけ泊めて。」
疲れた顔をして苦笑いを浮かべて言う姉貴。
何があったか知らないが、俺は姉貴を中に入れた。
「部屋、余ってるし、いいよ。ここの部屋を使って。」
俺は、客室にしてるドアを開けて、姉貴に言う。
「ありがとう、頼。明日には出て行くから……。」
その言葉が、弱々しくて、心配になる。
「そんなに慌てなくてもいいよ。暫く居てくれても構わない。部屋が見つかるまで居ても大丈夫だよ。それと引き換えに飯作ってくれれば良いし。」
俺は、交換条件としてそう告げた。
本当は、飯もどっちでもよかったんだ。
俺自身帰ってくる時間は区々だし、大体が外食で済ませている。
ただ、姉貴の事だから、何もせずに居座ることを嫌うのを知ってるから、交換条件として出しただけ。
俺としては、姉貴が元気になってくれるなら、何時まで居てくれても構わないんだ。
「本当、助かる。ありがとう頼。」
満面の笑みを浮かべて言うが、何時もより何処か元気のない姉貴。
何に悩んでるんだよ。
俺に全て話してくれればいいのに……。
姉は、俺から見ても出来る(家族贔屓ではないぞ)女性だ、憧れてる。
見た目は男(姉のコンプレックスの部分)に見えるが、よく見れば女だとわかる。
性格もサバサバしてるし、責任感が強く芯が通ってるんだ。
それに、飯も上手い。
ふと誰も気付いていない事をさりげなくやって仕舞う姉貴を尊敬してる。
「頼。夕飯食べたの?」
姉貴が聞いてきた。
「まだ、だけど……。」
俺は、一言で返すと。
「じゃあ、何か作るね。」
姉貴が、さっさとキッチンに入って、冷蔵庫を物色し出した。
俺も、今冷蔵庫の中に有る物を思い出して。
「姉貴、悪い。俺、買い置きしてない。」
そう俺が言うと。
「そうみたいだね。入ってるのお酒とミネラルウォーターだけだものね。」
姉貴の呆れた声が返って来た。
「コンビニで、何か見繕ってくるね。」
姉貴は、鞄を手にして、さっさと玄関に向かう。
姉貴も女だ、こんな時間に外に出すのは、気が引ける。
この辺の地理も詳しくない上に何かあったらって思ったら。
「俺も一緒に行くよ。」
そう言って、自分の財布と携帯をズボンのポケットに押し込むと、玄関に向かった。
「どうせなら、どっかで食べて行こ?」
俺がそう言うと姉貴が、ニコニコと嬉しそうな顔をして。
「うん、そうしよ。それからコンビニ行って帰ろ。」
って、あ、もう、何で可愛いんだ。
実の姉なのにな、姉弟じゃなかったら付き合ってたかもな。何て思いながら。
「何食べたい?」
この辺の事を知らない姉貴にそう訪ねた。
「う~ん。定食が食べたいかな。」
口許に人差し指を立ててトントンしながら少し考えたのちに出た言葉が、定食だった。
そんな仕草も、可愛く映ってしまうとは、俺も極度のシスコンだよな。
「それだったら、こっちだ。」
俺はそう言いながら、姉貴の手を引いて店に向かった。
夕食を食べ終え、コンビニに寄り、お酒と明日の朝食、つまみとデザートを購入し、家に戻った。
コンビニで買った物を冷蔵庫に仕舞ってる姉貴を横目で見ながら、俺はリビングで寛いでいた。
「頼、飲もう。」
姉貴が、さっき買ったお酒とつまみを持ってきた。
「ん、いいよ。姉貴と飲むの久し振りだしな。」
ちょっと、おどけて言う俺。
まぁ、姉貴が何かしらを抱えてここに来たのは間違いないのだろうが、それを話してくれるかは微妙なところか。
姉貴がカクテルを開けて、俺はビールを開けた。
酒の力を借りてでも、口にしてくれたらいいんだが……。
「いただきます。」
そう言って姉貴は缶に口をつけた。
「おいしい……。」
ポツリと呟く姉貴。
俺も缶に口をつけて、つまみを手にする。
「ごめんね、頼。急に押し掛けちゃって……。」
唐突の言葉に。
「別に構わないよ。」
俺は、姉貴と一緒に住むぐらい構わない。
って言うか、姉貴に一人暮らしさせたくねえ。
俺でいいのなら、何時でも頼って欲しいって思う。
「ありがとう……。」
弱々しい声で姉貴が言う。
見れば、とても辛そうな顔をしてる。
今にも、泣き出しそうだ。
「辛いなら、泣いて忘れろよ。明日は、仕事も休みだろ? 気の済むまで泣いちまいなよ。」
俺が、そう言葉にすれば、大粒の涙をポロポロと溢し出す姉貴。
俺は、姉貴を抱き締めて、背中をポンポンと子供をあやすように優しく叩いていた。
相当溜め込んでいたらしく、泣き止んだ頃には、寝息をたてて眠っていた。
ほんと、心を許してない人の前では、泣かないんだから……。
何時か、壊れちまうぞ。
そう思いながら、俺は姉貴を抱き上げた。
そのまま、客室に運び、ベッドの上に寝かせ、布団を被せた。
それにしても、軽い。
ちゃんと食べてたんだろうか?
気になるところだが……。
今日のところは、ゆっくり眠ってもらおう。
「おやすみ、姉貴。」
俺は、そう言って部屋を出た。
その後、俺はシャワーを浴びてソファーで、寛いでいた。
そこにどこからともなく、機械音のメロディーが聞こえてきた。
俺の携帯ではない。
テーブルの隅に置いてあった、姉貴の携帯からだった。
俺は、出ようか出ないかで迷ったが、この後も掛かってくる可能性はあると見て、姉貴には悪いと思ったがその電話に出た。
『伊織! 今、何処に居るんだ!』
男の焦った声と心配そうな声が聞こえてきた。
少しだけ、驚かそうと。
「彼女なら、もう寝てますが。何か急用でも?」
俺は、落ち着いた声音でそう答えた。
姉貴とは言わず、彼女と言えば変に勘ぐるだろう。
それが、狙いだったりするんだが……。
『ちょ…お前は誰だ! 伊織の何なんだ』
怒ったような、戸惑ってるような声。
種明かしするのは簡単だが、姉貴を苦しめているのがコイツだと瞬時に感じ。
「何だっていいだろ! 彼女は寝てるんだ、明日改めてかけ直してください。」
俺は、そう言って電話をきった。
今の相手は、姉貴の男だと推測される。
紹介された訳ではないから、な。
あの焦り方からして、突然姉貴が居なくなって電話してきたってとこか……。
まぁ、俺にとっては、どうでもいいが……。
着信があって、電話に出たことは、黙っておくか……。
さぁて、俺も寝よ。
明日は、朝から姉貴に振り回されそうだしな。
寝室に行き、ベッドに潜った。
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